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VOL.40:大掃除狂騒曲

 いろいろなことがあった1学期が終わり、夏休みに入ってから数日が過ぎた、ある日の朝。

「ねえ、みちる……夏休みに入ってから、峻佑くんの様子がおかしいと思わない?」

 2人の部屋のベッドの上で、密談が行われていた。

「姉さんもそう思うの? 私もよ。急にカバンを持って1人で出かけたと思ったら、今度は部屋に籠もりきりになったりとか……何やってるんだろう?」

 ちひろの疑問にみちるも同調し、2人で首を傾げた。

「……うん、決めた。みちる、久しぶりに大掃除をやるわよ」

 ちひろは少し考えてから、みちるにそう告げた。

「そうだね、それで峻佑くんの部屋のガサ入れをすればいいね。それじゃ、早速峻佑くんを起こして始めよっか」

 みちるもノリノリで大掃除大作戦を決行することになり、峻佑を起こしにいった。

 ちなみに、2人の魔法なら峻佑の部屋を透視することも不可能ではないが、それはフェアじゃないと自粛していた。


「えぇー? なんでまた急に大掃除なんだ?」

 案の定、峻佑は掃除にあまり乗り気ではなかった。

「それは峻佑くんの部屋が気に……ゴホン、最近試験勉強とかで忙しくてあんまり掃除してなくって、あちこち汚れてきてるからね。夏休みに入って余裕もあるしってことで、決めたのよ」

 ちひろは本音を言いかけたが、うまく隠してもっともらしい理由を話した。

「ま、この場で抵抗しても多数決で却下されるのがオチだろうし、わかったよ。でも、自分の部屋は自分でやるから。前みたいにいきなり入ってこられて宝物を捨てられちゃたまらないし」

 峻佑はそう言うと、さっさか部屋に引き上げようとしたが、ちひろが峻佑の首根っこを捕まえた。

「あれ? まさかとは思うけど峻佑くん、前にあたしたちが捨てたエッチな本、また増やしたりなんかしてないよね?」

 首根っこを掴んだまま峻佑を振り向かせて、ちひろは満面の笑みでたずねた。

「や、やだなあちひろ……何を言ってるんだよ。ソンナコトスルワケナイジャナイカ、アハハハハ……」

 峻佑は必死に否定しているが、目が泳いでいる上に言葉が動揺のあまりカタコトになっていた。

「じゃあ、あたしたちに部屋を見られても大丈夫だよね? みちる、行きましょ。峻佑くんの部屋から大掃除始めるわよ」

 ちひろは満面の笑みを崩さぬまま、峻佑を投げるように解放すると、みちるとともにトタトタと階段を上がっていった。

「ちょっと待ったーっ! いま部屋の中には、オレのじゃない(・・・・・・・)エッチな本が積んであるんだ。今度は正真正銘の預かりものだから、捨てられたら困るんだ! それらをまとめて片付ける間だけ待っててくれよ」

 峻佑は急いで階段を駆け上がって素早く姉妹を追い抜き、自分の部屋のドアの前に立ちふさがると、姉妹を足止めしつつそう主張した。

「前もそう言って結局峻佑くん自身のだったよね? じゃあ訊くけど、誰から何冊の本を何のために預かってるの?」

 みちるがジト目で峻佑を睨みながら質問責めにする。

「えーと、コータローから計15冊。あいつの家でも最近親のガサ入れがあったみたいで、それを逃れるために一時的にオレに預けてきたんだ」

 峻佑はみちるの尋問に焦らず素直に答えた。

「わかったわ。じゃあ、今から沢田くんに電話して確認するから、峻佑くんの携帯貸して。あたしたちは沢田くんと番号交換してないのよ」

 ちひろが耕太郎に確認すると言い出しても、峻佑の顔色は全く揺るがずに、携帯を出した。相当自信があるようだ。


『もしもし、どうした?』

 耕太郎は峻佑からの着信だったので、普通に応答した。ちひろからだとは知らずに。

「もしもし、沢田くん? ちひろだけど、いま大丈夫かしら?」

 ちひろはそういう反応は予測済みだったので、あえて何も気にすることなく、そのまま話し始めた。

『えっ!? ち、ちひろさん!? ど、どうしたんですか? もちろん大丈夫ですよ!』

 だが、耕太郎のほうはそれどころではない。いきなり憧れのちひろが電話をかけてきたのだ。耕太郎の胸は何の用事かとときめいた。

「いきなり電話したりしてゴメンね。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、沢田くん、最近峻佑くんに、その……エッチな本を預けたかしら?」

 ちひろはそんな耕太郎の心境など知るよしもなく、聞きたかった用件を単刀直入にたずねた。“エッチな本”のところで少し口ごもったのは女の子ならではの恥じらいだった。

『ち、ちひろさん? いきなり何を聞くのかと思ったら、なんでまたそんなことを……』

 どんな用件かわくわくしていた耕太郎は、予想外な質問に驚き、理由をたずねる。

「今日、ウチで大掃除をやってるんだけど、峻佑くんの部屋にエッチな本が転がってるみたいで、峻佑くんが“コータローからの預かりものだから捨てたらダメだ”って言い出したから、その確認なの。女の子がいきなり男の子に聞くことじゃないのは十分承知してるわ。で、どうなのかしら?」

 ちひろは、さすがにいきなりこんなことを聞いたのはまずかったかな、と反省して鼻の頭をかきながら、理由を話した。

『そうでしたか。ええ、うちの親の目を欺くために、少しの間峻佑に預けましたよ。こっちの危機は去ったので、明日か明後日にでも引き取りに行くつもりだったんですけど、早い方がいいんなら今から行きますよ?』

 耕太郎は理由を知って、確かに預けた、とちひろに話す。

「ううん、それが確認したかっただけだから、明日とかでも大丈夫よ。あ、ちなみに、何冊預けたか覚えてる?」

 ちひろは耕太郎の申し出を丁重に断ると、もうひとつ質問してみた。

『えーっと、たしか全部で10冊だったハズですよ。俺の手持ちが全部で10冊だけなんで。あ、軽蔑しないでくださいね。他の連中は俺なんかよりももっといっぱいそういう本を持ってるはずですから』

 耕太郎は頭の中で本の数を数えてたのか、少し考えてから、ちひろに数を伝えた。

「そうなの、わかったわ。ありがとう、沢田くん。変なこと聞いちゃってゴメンね。それじゃ、また」

 ちひろは耕太郎に礼を言って電話を切ると、

「さて、峻佑くん? ……あれ、みちる、峻佑くんは?」

 ちひろは峻佑のウソを問いつめようと辺りを見回したが、姿が見えない。みちるに聞いてみると、

「姉さんが電話してる間に私、トイレに行ってたんだけど、戻ってきたらもういなかったわよ? 部屋の中に逃げ込んじゃったかしら?」

 みちるが話しながらドアノブをひねるものの、ドアは開かなかった。

「峻佑くん、ウソをついてたわね? 沢田くんが預けたのは15冊じゃなくて10冊だって。峻佑くんの手持ちの本は没収するからここを開けなさい!」

 ちひろがドンドンと激しくドアを叩いて峻佑を呼ぶ。あまりに強く叩くもんだから、震動が伝わって家が揺れていた。

「ちっ……コータローめ、空気読めよ。悪いけど、中からカギをかけてるから、開かないよ。コータローに返す分も含めて片づけたら開けるから、少し待っててよ。前も言ったけどさ、たかがエロ本ごときでそんなにギャーギャー言わなくたっていいじゃんかよ」

 峻佑は頑なに没収を拒む。いつの間にかドアの内側にカギを取り付け、守りを強化していたらしい。

「わかったわ。仕方ないから、5分だけあげる。それが過ぎたら問答無用でカギごと壊してぶち破るから、壊されたくなかったらカギは開けといた方がいいわよ」

 言い争っても無益と判断したのか、ちひろが折れてくれた。峻佑はさっとドアのカギを外すと、素早く床に散乱したエロ本をまとめてクローゼットの隠し扉の奥にしまっていく。エロ本を捨てられたくない想いの力は相当なものだったようで、5分経って姉妹が突入してきた時点で、床には紙屑が少し散らばっているだけだった。

「そこまでしてエッチな本を守り通したいなんて……どこに隠したかはわからないけど、せいぜいあたしたちに見つからないようにね。見つけたら今度から問答無用で処分するから、そのつもりでね」

 ちひろは峻佑の鼻先に指を突きつけてそう宣告すると、協力して紙屑や他に散らばっていた脱ぎっぱなしの服などを片づけていった。


 しかし、ここでハプニングが起こった。

 運の悪いことに、竹崎市周辺を地震が襲ったのだ。幸いにも揺れ自体はあまり大きくなく、家や家具類に被害はほとんど出なかったが、峻佑の部屋のクローゼットのドアだけが外れてしまい、峻佑に直撃して押しつぶすと同時に、隠し扉の奥の峻佑秘蔵のエロ本の数々がバサバサと降り注いだ。

「ぶぎゃっ!」

「し、峻佑くん! 大丈夫!?」

「…………あ」

 ちひろが急いで扉を峻佑の上からどかしていると、降り注いだエロ本にみちるが気づいてしまった。

 救出された峻佑が慌てて拾おうとしたが時すでに遅し。顔を真っ赤にして怒り出したちひろとみちるによって、落ちてきた分のエロ本はすべて処分されてしまった。

 だが、不幸中の幸いか、耕太郎からの預かりものは紙袋に入れて別にしてあったのと、峻佑が特に気に入っている本はさらに別の紙袋に入れてあって落ちてこなかったため、無事だった。

 また、外れてしまったクローゼットの扉は、姉妹が魔法で重さを軽くしてる間に峻佑がはめ込んで修理した。

 後にニュースを見たところ、この地震は竹崎市とその周辺のみだけでしか揺れを観測しておらず、しかも震源地が不明という謎の地震として報道されていたのだった。

いったいこの地震はなんだったのか? その答えは誰も知らない――


次回予告

大掃除をしてきれいになった家の中で、ため息が3つ。

そのワケは……?


VOL.41:アルバイトをしよう(仮)  6/11 0時更新予定、お楽しみに!



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