VOL.39:アンチ生徒会の陰謀を打ち破れ
「では行くか、観月」
昼休み、作戦実行のための準備ができた神楽と観月は、それぞれ大きなカバンを持ってアジトを出た。
「なあ、神楽。なんでまた昼休みに行くんだ? 絶対生徒会のヤツらが警備してるし、それに、先公どもだって……」
観月は神楽の真意が計りきれず、理由をたずねた。
「ふむ。確かに生徒会が警備に当たってる中を行くのは愚の骨頂かもしれん。だが、そこをあえてやることで連中の裏をかくのだ。先公対策は、今回の作戦に絶対の自信を持っているから問題ない。並の人間ではまず見破れんよ」
神楽は笑いながら観月に理由を話した。
「なるほど。お前を信じてるぜ、神楽」
そう言いながら、2人は作戦実行のためにトイレに入り、着替え始めた。
そう、今回彼らがとる作戦、それは変装だった。学校の教師にそれぞれ変装し、職員室に潜入するというわけである。
「こちら一条、職員室付近異状なし、どうぞ」
「了解、こちら仙堂、中央階段付近不審人物確認できません、どうぞ」
本日の昼休みの警備担当は一条と仙堂のコンビだった。2人はそれぞれ分かれて、トランシーバーで連絡を取りながら警備に当たっていた。
「あら? こちら仙堂、いま中央階段を脇野先生と石川先生が通りかかりました。けど、なんか脇野先生の様子がおかしかったような……どうぞ」
「こちら一条、いまこちらでも確認。確かに何かおかしい……仙堂くん、済まないが市原くんとちひろちゃんを呼び出してくれないか? 彼らの担任が脇野先生だったはずだから、何かわかるかもしれん。どうぞ」
一条は仙堂にそう指示を出した。
「こちら仙堂、了解。通信終わります」
雲雀はトランシーバーをしまうと、急いで携帯で峻佑を呼び出した。一方、一条は不審なコンビに話しかけていた。
「こんにちは、脇野先生、石川先生。珍しい組み合わせですね?」
そう、普段の脇野と石川は犬猿の仲とまでは行かなくとも、同じ大学出身の先輩後輩なのにあまり会話をしない2人として校内では有名だった。もうお分かりだろうが、この2人は当然ながら神楽と観月の変装である。
「ああ、私は少々脇野先生のことを誤解していたというか、偏見を持った目で見ていた部分があった。今回、話してみてそれが間違いであることがわかって、こうして分かりあえたというわけなんだ」
石川に扮した神楽が話した、そのとき。雲雀と、彼女が呼び出した峻佑たちが合流した。
「会長、どうしたんですか?」
峻佑が一条に呼び出しの理由をたずねると、
「おっと、では参りましょうか、脇野先生」
石川と脇野が職員室に入っていった。
「済まないな。呼び出したのは、今の2人のことでだ。市原くんとちひろちゃんなら、脇野先生のクラスだからわかるかもしれないと思ってね。正直な話、いまの脇野先生はどこかおかしくなかったか?」
一条が呼び出しの理由を話すついでにたずねると、
「確かにめっちゃおかしかったっすね。脇野先生、たまにホームルームで石川先生のグチをオレらにぶちまけることがあったんで、今のはどう考えても不自然です」
峻佑が不自然と断言した。それに合わせるように、
「……なるほど、そういうことか。あれはきっと変装ね。顔のマスクとかまで用意して一見完璧に見えるけど、人間関係を把握しきれてなかったことでボロが出たわ。アレは十中八九‘アンチ’のヤツらよ。行きましょう」
雲雀が変装であることを見破り、職員室内で試験の問題を盗み出そうとしている2人を逮捕するために突撃をかけようとしたが、一条が制止した。
「待つんだ、仙堂くん。ここで焦って取り逃がしては元も子もない。ちょうど市原くんたちもいることだし、それぞれのチームを職員室の両のドア付近に張り込ませ、ターゲットが出てきたところを確保する。いいね?」
一条が‘アンチ生徒会’捕獲作戦の概要を説明し、峻佑たちは持ち場についた。
「お、これだな? 前回の反省が活かされてないな、パスワードこそ変わってるが、データの保管フォルダは以前と変わらず。ふっ、ちょろいな」
ちょうどみんな昼食に出ているのか、職員室内は無人だった。静かな室内でパソコンを操作する神楽と観月。以前、中間試験の時にデータを盗み出したフォルダを開けてみると、パスワード入力画面になったので、カタカタッと神楽が打ち込むと、フォルダが完全に開いた。
「あとはこのデータをコピーして、と……よし、撤収だ」
神楽がデータをコピーしたフロッピーディスクをポケットにしまい、何食わぬ顔で職員室を出ようとした。
「そこまでよ、神楽」
ドアを開けたところに、一条と雲雀が立ちふさがっていた。
「神楽? 変な言いがかりはやめたまえ。私は石川だぞ?」
神楽扮する石川もどきは内心冷や汗をかきながら平静を装ってその場を離れようとするが、雲雀ががっちり腕を掴んでいて逃げられなかった。
「無駄な抵抗はやめなさい。正体ならとっくにバレてるわよ。あんたたちがデータの抜き出しに集中した一瞬のスキを利用してちひろちゃんがマスクをはぎ取っちゃったから。なんなら鏡見る?」
雲雀がふふんと笑いながら言って、神楽に手鏡を差し出した。
「くっ……おのれ生徒会……だが、こんなこともあろうかと、脱出手段は用意してある。観月、行くぞ!」
神楽は観月に合図の声を出すと、2人同時に片手を懐に入れ、煙幕弾を床に投げつけた。
「はーっはっは……データはまだ持ってるから今回は我々の勝利だな。さらばだっ!」
煙幕であたりの視界がゼロになるなか、神楽の高笑いが響いた。だが……
「いえ、私たちの勝ちです。データは回収、そして先輩も逮捕します」
ちひろが魔法で風を起こして煙幕を晴らすと、みちるが口を開いた。その手には、先ほど神楽がデータをコピーしたフロッピーディスクがしっかりと握られていた。
「げえっ、いつの間に!?」
フロッピーディスクを持っていたらしい観月がポケットを漁りながら驚愕の声をあげた。
「魔法使いをなめてかかると痛い目に遭いますよ。これ以上抵抗しないなら、私や姉さんはあなたたちに危害は加えずに無傷で逮捕できます。ただ、まだ逃げようとしたり、抗戦するつもりなら、こちらも応戦しますよ。どうします?」
みちるはにっこりと笑いながら、神楽たちに選択を迫った。
「くっ……投降するしかあるまい。この人数から逃走することなど、煙幕などで不意をつかないと到底不可能。戦うなど論外だ。能力未知数な魔法使いが2人もいる上に、それ以外にも3人もいては勝ち目はほぼゼロに近い。よって我々は投降するが、処分においては情状酌量を求める」
神楽は観月とともにどっかりと廊下に座り込むと、両手を頭の上において無抵抗であることをアピールした。
その後、一条による審判の結果、主犯の神楽は2日、追随した観月は1日の自宅謹慎と決定された。
ちなみに、“停学”は最低1週間からとなっている。また、前回逮捕した際の念書を彼らは破ったわけだが、今回は計画が未遂に終わったこと、及び無抵抗に捕まったことを考慮して停学相当にはしなかった。
その後、峻佑たちは無事に1学期の期末試験を終え、楽しい夏休みを思ってニヤニヤするのだった。
次回予告:いよいよ待望の夏休み。だが、夏休み突入早々、峻佑の様子がおかしい?
ちひろとみちるは、その理由を探るため、峻佑の部屋を含めた大掃除(という名のガサ入れ)を決行する。途中、耕太郎も巻き込みながら……
VOL.40:お掃除狂想曲(仮) お楽しみにっ!
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