VOL.34:秘密が秘密でなくなる日
捕まえた神楽たち一味を生徒会室に連行し終えると、ちひろは神楽たちの拘束をそれまでの両手両足縛って引きずっていた状態から両手のみに軽くし、足は解放した。
「……くそっ、今回は我々の負けだな。罰を受けるのはやむを得ない。だが、仙堂よ。ひとつ、いやふたつだけ聞いてもいいか?」
神楽は神妙な面もちで雲雀にたずねた。
「ふふん、いいわよ。何かしら?」
雲雀は初めて神楽に勝った喜びを存分に顔に出した、にやけた表情で神楽に聞き返した。
「どうやって我々のアジトを見つけ出した? あの入り口のスイッチは普通に見つけられるものじゃなかったはずだが……。それともうひとつは、なぜオレたちを引きずって連行した? 嫌がらせのつもりか?」
「ああ、あれ? 突入の少し前に私たちが生徒会室にいたら、市原くんたち3人が駆け込んできて、アジトを見つけたから一緒に来てくれって言ってきたのよ。半信半疑だったけど、見事にアンタを捕まえられたし、よかったわ。アンタらを連行するのに引きずったのは、ちひろちゃんが両手両足まとめて縛っちゃったからよ。そういえば、そのことで私もちひろちゃんとみちるちゃんに聞きたいことがあったんだっけ。さっきからのこと――魔法使いがどうのとか――も含めていろいろ説明してくれないかしら?」
雲雀はちひろのほうを見てたずねた。
「もう説明しないワケには行かないですよね。仙堂先輩はさっきも見たのである程度は信じてくれるとは思いますが、あたしとみちる、それといま教育実習に来てる、藍沢先生はみんな中世に実在した魔法使いの末裔です。それとなぜかここまでついてきてる、フラールさんは当時を生き、あたしたちのご先祖さまにフられて永い眠りにつかされていたそうです。まあ、うだうだ話すよりも見てもらった方が早いですね」
ちひろはそう言うが早いか、右手を上にかざして、何かつぶやいた。すると、その手のひらに光る玉が出現した。
「ほう……」
その場にいた事情を知らないほぼ全員が驚いて声も出せない中、ただひとり声を上げたのは、両手を光の鎖で縛られた神楽だった。
「ふう。一応、説明しておきますと、今のはあたしが得意とする電気ショックの魔法です」
ちひろは光る玉を消して説明した。と、呆けていた一条が口を開いた。
「なるほど、すごいな。まさかマンガの中にしかいないと思っていた魔法使いが目の前に実在していたとはな……」
「あーーーっ! 思い出したぁ!」
と、その場の空気を壊すような大声が響いた。
「どうしたんですか? なつき先輩」
キーンと響く耳を押さえながら雲雀がたずねると、
「私、前に市原くんをスカウトしたいって時に市原くんの家がなんか怪しいって言われて調べたことあった! でも、なんでそのことを忘れてたのかしら……?」
なつきはさっきの叫び声とは打って変わって小さな声でつぶやいた。
「それもあたしたちのチカラによるものですね。今だから言えますけど、あのときはバレたくない思いで先輩たちに暗示をかけて当時の記憶を忘れさせたんです。ごめんなさい」
ちひろとみちるが同時に説明して謝った。
「たとえ意図的に忘れさせられたものだとしても、覚えてない以上謝る必要はない。まあ、事情はだいたいわかったが、別にこのことで役員を解任したりはできないから、安心して治安対策に当たってくれ」
一条は柔らかな笑みを見せてちひろとみちるに言い、
「まあ、私も納得は行ったし、あんまり深入りするとまた記憶消されるかもしれないからこれ以上は突っ込まないわ」
なつきも冗談交じりに話した。
「さて、話がひと段落したところで、神楽たちの処分だが――」
一条が話を切り替えて神楽たちを見た。
「たしか校則だと停学以上が相当とされる場合は職員会議にかけなくてはならなかったはずだ。逆にそれ以下なら生徒会で処分を決定できる。そうだったな?」
神楽は一応校則を把握していたようで、一条に確認するように問いかけた。
「そうだ。本来なら今までの処分も合わせて職員会議送りと行きたいところだが、あいにく過去の事件の大半は校則によって時効が成立してしまっている。よって、今回の処分は――」
一条はそこで言葉を切り、神楽たちの顔を順番に見つめた。
「って、会長! み○さんじゃないんだから、無意味なタメはやめろといつも言っているでしょっ!」
沈黙に耐えきれず、なつきがどこから取りだしたのか、一条をハリセンでひっぱたいた。
「む、やはりダメか。まあいい、今回の処分は、校舎裏の草むしりだ。だいぶ長いこと放置されていて、そろそろ生徒会でやらねば、と思っていたところだし、ちょうどいい、キミらにやってもらうとしよう。それに加えて、今後騒動を起こさない確約書を出してもらう。それを破れば、次はないと思ってもらえればいい」
一条は冷静に神楽たちに言い放つと、ちひろに拘束を解くように言った。
確約書を書かされた神楽一味は、ひとまず釈放されたが、処分から逃げられないよう、今日の放課後に草むしりをやらせることにした。もし逃げたらその時点で停学が相当として職員会議にかける、と脅しをかけて。
「ところで、いつ魔法書はくれるのじゃ?」
生徒会室を出たちひろとみちるに、フラールが話しかけた。
「今はお昼休みで学校が終わらないから、まだ無理よ。そうね、今は部外者のあなたが見つかると厄介だし、最初にあなたが現れたあの部屋にでも隠れていて。帰るときになったらテレパシーで呼ぶから。あなたも魔法使いなら使えるわよね?」
ちひろは首を振ってまだだ、という意思を示すと、フラールにたずねた。
「ああ、封印される前はまだ修行中の身だったが簡単な攻撃魔法やテレパシー、テレポートくらいは使えるぞ。うむ、承知した。ではあそこに潜んでおるからあとで会おう」
フラールは頷くと、テレポートでその場から姿を消した。
そんなこんなで放課後。
「ほらっ! キビキビ草むしりしなさいっ!」
監視役のなつきと雲雀のゲキが飛ぶ。
「くそっ……なんだってこんなにあるんだよ……しかも暑ぃ……」
観月がしゃがんで草をむしりながらボヤき声をあげる。
「……ってか、神楽はなんでそんなに涼しい顔をしてるんだ……」
普段は物静かな岩本も額に汗をかきつつ草をむしり、神楽のほうを見てボヤく。
「ふん、この程度の暑さでへばるとは、お前たちもまだまだだな。別にたいしたことはないではないか」
当の神楽はなぜか草むしりをせず、校舎の壁に寄りかかって皆を眺めていた。
「くぉらぁ、神楽ぁ! あんたが一番やらないでどうするのよ! あんたが全ての元凶でしょうがっ!」
サボりを発見した雲雀が飛んできて神楽を怒鳴った。
「ちっ……めんどくせぇな。この神楽、生徒会ごときに捕まるなど不覚を取ったものよ……」
神楽はボヤきつつも、仕方なく草むしりを始めた。
「猿義流忍法、『除草術』」
猿義はなにやら大仰な技を叫ぶと、地面を思い切り殴りつけた。すると、猿義の周囲の草が衝撃で弾け飛んだ。
「こーら、そこのおサル! 楽をしようとしないでマジメに手で抜きなさい!」
当たり前だが、草と一緒になつきの怒号も飛んだのだった。
一方、その頃――
(フラールさん、フラールさん、聞こえる?)
帰る準備の整ったちひろはテレパシーでフラールを呼び出した。
(うむ、聞こえておるぞ。時間か?)
どうやら届いているようで、フラールから返答が聞こえてきた。
(ええ、行きましょう。裏門に来て。正門だと下校中の人がいて面倒なことになるから)
ちひろは場所を指定すると、通信を切って峻佑やみちるとともに裏門へ向かったのだった。
ずっと隠してきた秘密を話し、2人はすっきりできたのだろうか?
次回、フラールとジェンの過去が明かされる。
VOL.35:邂逅(仮) お楽しみに〜
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