VOL.33:過去からの来訪者?
「魔法使い、だと? 真野姉妹以外にまだいたのか?」
話を聞いていた猿義がフラールにたずねる。
「我はジェン=マノールによって封印され、長き眠りにつかされていた。その後ジェンははるか東の日本という国に渡ったと聞いて、我はここまでやってきた。そういうわけで我はジェンを探しているのじゃ」
フラールはペラペラと身の上話を神楽たちにし、話がひと段落した、そのとき。
ズドン! という音とともにドアがぶち破られ、ちひろ、みちる、峻佑、雲雀の順でアジトに突入してきた。
「神楽義明、およびアンチ生徒会の面々、もう逃げられないわよ。おとなしくお縄につきなさい!」
雲雀が前に進み出て、神楽たちにそう告げた。
「ところで、そこの人は誰だ? 見たことない顔だけど」
峻佑がフラールを指して神楽たちにたずねる。
「我の名はフラール=ボーデン。この地にジェン=マノールという魔法使いがいるはずだが、おぬしらは知らぬか?」
フラールは峻佑たちにも同じようにたずねた。
「ジェン=マノールですって? もうとっくに亡くなってるあたしたちのご先祖様にいったい何の用なの?」
ちひろがそう声をあげる。
「おぬし、ジェンの子孫と申すか? ……ん、なに、死んでいるだと? そうか、我が封印されてから500年の時が流れているからのう……さすがのジェンでも500年は生きられなかったか」
フラールは少しショックを受けたようで、がっくりとうなだれてつぶやいた。
「あの、フラールさん? よかったら話を聞かせてもらえませんか?」
峻佑が間に立ってフラールに話しかけた。
「ふむ。いいじゃろう。あれは、500年前のことじゃった――」
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――500年前のヨーロッパ。
ジェンはすでに魔法使いとしてその道を極め、その能力を買われて各地の戦争に傭兵として雇われてはその軍を勝利に導いていた。我がジェンに出会ったのはちょうどそのころじゃ。
我はそのころ師を失い、さらなる修行の場を求めて諸国を渡り歩いているなかで、あやつに出会った。ちょうどあやつは自らの過ちに気づき、戦争への協力をやめて、平和な世の中にするために努力を始めたところじゃった。我はジェンを新たな師とするため、あやつの暮らす家に向かった。
〔失礼、ここはジェン=マノールどのの家でよろしいか?〕
我が確認するようにあやつにたずねると、
〔ああ、たしかにここは俺の家で、俺の名はジェン=マノールだが、お前さんは? 俺に何の用だい?〕
あやつは明るい声で我にたずねてきた。
〔ジェンどの、いや、師匠。私を弟子にしていただきたい〕
我はあやつに頼み込んだ。だが、あやつは……
〔すまんな、俺は弟子は取らない主義なんだ。俺の編み出した魔法はどれも強力すぎてな、変に弟子を取るとまた戦争の道具にされてしまうかも知れん。だから、一子相伝にして子孫に継がせることにしたんだ。そういうわけだから、帰った帰った〕
あやつは我を全く相手にせず、門前払いを続けた。だが我とてある程度の魔法は身に着けていても、まだ修行が足りないと思っていた故に、諦めるわけにはいかなかった。そうして何年もあやつの元に通い続けた、ある日のこと――
〔おい、お前。名前はなんていうんだ?〕
毎日のように訪ねてくる我に根負けしたのか、あやつは我に名を聞いてきた。
〔私はフラール=ボーデンと申します。弟子入りを認めてくれるのですか、師匠?〕
我が期待に満ちた目であやつを見つめてたずねると、
〔まあ、とりあえずこんなところで立ち話もなんだし、入れよ。話はそれからだ〕
あやつは我を家の中に招きいれた。そこのイスに座って待ってろと言われたので待っていると、イスの上に魔法陣が浮かび上がり、光の鎖が我に絡みついてきた。
〔こ、これは!?〕
我はあわてて鎖を振りほどこうとしたが、まったく歯が立たなかった。そこにあやつが現れ、
〔フラールとやら、俺に弟子入りしたい気持ちだけは伝わった。だが、ダメだ。口で言ってもわからないなら、すまないが数百年の間眠ってもらう。なに、死にはしない。もし目覚めてなお俺に弟子入りしたいのなら、俺が後世に遺す魔法書を探し出すといい。では、さらばだ、フラール〕
その言葉をきっかけに鎖が絡みつくスピードが格段に上がり、
〔師匠……いや、ジェン=マノール! こんな姑息な手を……この恨み、忘れはせぬぞ……〕
我はその言葉を最後に意識を失い、封印されたのじゃ……
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その話を終えると、フラールはふう、とひとつため息をついた。
「そのときの真意を問い、恨みを晴らすためにわざわざこの国までやってきたのじゃが、あやつがすでに亡くなっているとはのう……ところで、ジェンの子孫とやら、おぬし名前をなんという?」
フラールはボソッとつぶやくと、ふと思い出したようにちひろのほうを向いてたずねた。
「あたし? あたしはちひろよ。そっちが双子の妹のみちる。で、あたしたちに何か用かしら?」
ちひろが名前を告げてフラールに聞き返すと、
「チヒロ、か。のう、チヒロよ。おぬし、ジェンの遺した魔法書を持ってはおらぬか? ジェンは我に直接魔法の指導をするのは断ったが、封印されるときに、後世に遺す魔法書を見るなら構わないと言っておった。じゃから、それをもし持っておったらぜひ見せてほしいのじゃが……」
フラールはちひろにそう頼んだ。
「ええ、それなら家に帰ればいっぱいコピー本があるから、1冊あげるわ。あとで家に行きましょう」
ちひろは快諾し、喜ぶフラールとがっちり握手を交わした。と、
「あのー、話がまったく見えないんだけど……」
「拙者たちのアジトで拙者たちを無視して話を進めるでない。混ぜろー!」
「って、馬鹿サル! そんなことより逃げるぞっ!」
展開についていけず、頭にクエスチョンマークを浮かべた雲雀と、自分たちを無視されてることが面白くない猿義がそろって声をあげた。と、これをチャンスと見たか、神楽や観月たちは逃げようとしている。
「あ、そういえば、こいつらのこと忘れてた。ちひろ、みちる、それと雲雀先輩。神楽先輩たちを捕まえないと!」
峻佑はハッとしたかのようにつぶやくと、こっそりと逃げようとしている神楽たちを追いかけ始めた。
「峻佑くん、追いかける必要はないわ。бимЭвдヽ……」
ちひろが峻佑を制止し、何事かつぶやいた。すると、逃げようとしていた神楽たちの体に光の鎖が絡みついて動きを止めた。しかし、そこまではよかったのだが、なぜか鎖は神楽たちだけでなく、その場にいた者すべて、峻佑やみちる、雲雀、フラールまでも捕らえていた。
「ちょ、ちひろ!? なんでオレたちまで!?」
峻佑があわてて顔だけをちひろのほうに振り向かせて抗議の声をあげる。
「あれ? ミスっちゃった。ゴメンゴメン」
ちひろは謝りながら峻佑、みちる、雲雀、フラールの拘束を解く。
「ふむ、これが本物の魔法か。これは素晴らしい。俺はロープくらいなら懐の七つ道具で断ち切って逃げられるのだが、光の鎖ではどうにもならんな。……もう一度ミスって俺たちも解放してくれればよかったのだが」
神楽が残念そうな声をあげたが、そんな声は無視され、神楽たちは生徒会室へ連行されていくのだった。
やっとこさ神楽一派を捕らえることに成功した生徒会。
神楽たちはこのまま大人しくしているのだろうか?
そして、姉妹は大きな決断をする。
次回、VOL.34:姉妹の秘密を話すとき(仮) お楽しみに!
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