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VOL.32:教育実習生がやってきた

 救急車で搬送されるほどのキズを負っていたはずの猿義だったが、翌日にはあっさり登校してきていた。

「悔しいが拙者1人では勝てないようだ。だが、諦めた訳ではないからな。それと、生徒会に入ったお前らにはあまりいい知らせではないが、拙者は神楽どのの下につき、‘アンチ生徒会’に入った。いずれ再び戦うことになるだろう。そのときは覚悟しておくんだな」

 朝、登校するなり校門で待ちかまえていた猿義にそう告げられた3人だったが、

「あっそ。勝手にすれば? 何回でも返り討ちにしてあげるから」

 ちひろは冷たくあしらうと、教室へ向かうのだった。


 そして、朝のHR。

「ね、姉さん!?」

 脇野とともに、ただ1人を除いて見たことのない女性が入ってきて、ちひろが立ち上がり叫んだ。

「あら、ちひろ。この高校にいるのは知ってたけど、このクラスだったのね」

 女性はちひろに軽く手を振って微笑みかけると、再び真面目な表情になって脇野のほうを向いた。

「なんだ、真野、知り合いか? まあ、いい。紹介しよう、彼女は私の大学時代の後輩で、今日から2週間の予定で教育実習に来た、藍沢あいざわ さとみ先生だ。それじゃ、藍沢先生、ここからはお任せしますよ」

 脇野がさとみにバトンタッチして教壇を離れた、その瞬間。


「藍沢先生! 年いくつ!?」

「先生の趣味は!?」

「先生は彼氏いるんですか!?」

「ちひろさんとは知り合いですか!?」

 などなど、男子ばかり矢継ぎ早に質問を浴びせかけて、さとみは困っていた。そこに、

「ほらほら、お前ら。藍沢先生が困ってるぞ。HRが終わったらにしなさい」

 脇野がパンパンと手を叩いて制止すると、渋々といった具合ではあったが、教室は静かになった。

「脇野先生、ありがとうございます。それじゃ、みなさん。一応自己紹介しておきますね。わたしは明正めいしょう大学から参りました、藍沢さとみと言います。そこにいる真野ちひろの姉で、まだ学生の身ではありますが、結婚して苗字が変わっています。趣味は内緒ってことで。ええと、現役の大学4年生なので、年は22歳です」

 さとみが簡単に自己紹介した瞬間、「結婚してる」という言葉に反応した男どもの悲鳴のような声が響いた。

 脇野がどうにか場を落ち着かせたが、その後もざわめきは収まらずにHRは終わった。と、そのとき。

「うっは、もうガマンできねえ……さっとみせんせー!」

 奇声を上げながら、耕太郎が机の上から大ジャンプをしてさとみに飛びかかった。……が。

「きゃっ!」

「ぶぎゃっ!」

 さとみが小さく悲鳴をあげた瞬間、耕太郎は何かに弾かれたように吹き飛び、床に叩きつけられた。

「な、なんだ? 今のは……」

 耕太郎の不自然な落ち方に、なにがあったのかと生徒たちがさとみを見つめる。しかしさとみは何も言わずにそそくさと教室を出ていった。

「なあ、ちひろ……」

 峻佑が何かを言いかけると、

「何も言わないで。言いたいことはわかってるから。そして、答えも峻佑くんの思ってるとおりで間違いないよ」

 ちひろは頭を抱えてうなだれた。

「ってか、誰か俺の心配もしてくれよ……」

 床に叩きつけられひっくり返ったままの耕太郎のボヤキは誰にも届かなかった。




 そして、昼休み。どこで昼食にするか相談していた峻佑たち3人のところに、さとみがやってきた。

「屋上に行かない?」


 屋上で4人はそれぞれの昼食を広げていた。

「ところで、姉さん。あたしたちは魔法のことはここにいる峻佑くん以外には隠してるの。なのに、姉さんってば……」

 ちひろが呆れたようにさとみを糾弾きゅうだんする。

「そんなこと言われても、急なことだったんだから仕方ないじゃない。それに、なんでそこまでして隠す必要があるの?」

 さとみも負けじと反論する。と、

「普通の人間であるオレらから見たら魔法使いなんて存在、信じられるものじゃないし、最悪化け物扱いされるでしょう。まあ、オレはちひろやみちるがなんであろうと受け入れられますが、それができない人もいるでしょう」

 峻佑が口を挟んだ。

「まあ、それはそうだけど、今朝見た感じじゃ、あの子たちは快く受け入れてくれそうだけどね。それに、すでにあんたたちと関係がなさそうな生徒が2人、秘密を握ったみたいよ? ああ、この2人ね」

 さとみはそう言うと、空中に映像を出現させた。

「あっ、猿義! こっちは……神楽先輩!?」

 映像を見た峻佑が声をあげた。

「彼らは?」

 さとみが3人に問いかける。

「‘アンチ生徒会’と名乗る集団グループで、その名の通りあたしたちが所属してる生徒会治安対策チームと敵対しているわ」

 ちひろが拳を握りしめながら話す。

「そう……マズいわね、彼らは今日にでも全校に映像をバラまくつもりよ」

 さとみはおそらく魔法で調べたのだろう、神楽たちの動きを峻佑たちに伝えた。

「藍沢先生、彼らの居場所はわかりますか?」

 峻佑がたずねると、

「任せて。んーっと……旧校舎2階の端っこにある消火器の格納庫に隠されたスイッチを押せば扉が現れるみたいね。ちょうどいま何人かそこに入っていったわ」

 さとみは自身の能力をフル活用して居場所を割り出した。

「さすがに探索系の魔法では姉さんにはかなわないわね。みちる、峻佑くん、行こう。アンチ生徒会を止めないと」

「ああ、秘密を守るためにも間に合わせないとな」

 ちひろたちは昼食を片づけると、屋上を後にした。

「さて、と。わたしは職員室に戻ろうかな。実習生として、先生たちにいろいろ聞いておかないと」

 さとみは峻佑たち3人を見送ると、ゆっくり立ち上がって職員室に戻るのだった。


 そのころ、神楽たちのアジト――

「サル、各教室のテレビはジャックできたか?」

 神楽がサル――猿義にたずねていた。

「はっ、全て完了しております。あとはここでビデオを再生し、スイッチを押せば全教室に真野姉妹の秘密が流れることになります」

 猿義はニヤリと笑いながら神楽にスイッチを渡す。

「くっくっく……よろしい。では、そろそろ実行するとしよう」

 神楽が笑いながらビデオをセットしようとした、そのとき。

「神楽義明、及びアンチ生徒会諸君に告ぐ! 君たちは我々生徒会によって包囲されている! 大人しく投降して出てきなさい!」

 外からそんな怒鳴り声が響いてきた。

「くそっ、生徒会の連中め、どうやってこのアジトをかぎつけたのだ? このままでは脱出もできないではないか」

 生徒会の急襲を受けた神楽たち4人は脱出路を確保する間などなく、もはやビデオを公開している場合ではなくなっていた。もはやこれまでか、と神楽が諦めかけた、そのとき。薄暗い部屋の中に不思議な幾何学模様が浮かび上がり、まぶしい光が部屋を包み込んだ。

「な、なんだ? 部屋からものすごい光が漏れてきてるぞ」

 中から応答がないので、扉をこじ開けにかかっていた峻佑たちは、部屋から漏れてくるまぶしい光に手を止めた。

「こ、これは召喚の光!? いったい扉の向こうで何が起こってるの?」

 ちひろとみちるがそろって声をあげ、

「召喚? なにそれ?」

 そんな疑問を投げかける雲雀に対し、

「先輩、もう隠し通すのは無理ですね。あたしとみちるは魔法使いの血を引いているんです。いま、この向こうでは何が起こってるかわからないですけど、何らかの魔法に関するモノが動いてるのは間違いないです。魔法でドアをぶち破りますから離れててください」

 ちひろは雲雀に秘密を明かし、頭にクエスチョンマークを浮かべる雲雀を峻佑とともにドアから遠ざけた。


 やがて、光が収まり、まぶしさに目を閉じていた神楽たちが目を開けると、女性が1人、空中に出現した幾何学模様――魔法陣の上に立っていた。

「ちっ、出る場所を間違えたか。そこのおぬし、ジェンはどこじゃ!」

 謎の女性は辺りを見回して舌打ちをひとつすると、近くにいた神楽の胸ぐらをつかみ上げて尋ねた。

「ジェン、だと? そんな外人みたいな名前は知らないな。それより貴様は何者だ?」

 神楽は冷静に質問に答え、逆に問いかけた。

「我が名はフラール。フラール=ボーデン。数百年前のヨーロッパに生きた魔法使いじゃ。ふるき知り合い、ジェン=マノールへの恨みを晴らすためやってきた!」

 フラールと名乗った女は、神楽を解放しつつそう言い放ったのだった。

突如現れたフラール=ボーデン。彼女はなぜジェンに恨みを抱いているのか?


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