VOL.31:サルのリターンマッチ
神楽たち‘アンチ生徒会’が生徒会室に乱入し、峻佑が宣戦布告を突きつけた騒動から数日が過ぎた。
雲雀たち4人はあの騒動の翌日から校内の捜索を行っているが、なかなか神楽たちのアジトは見つからず、この日も放課後の空き時間を利用して捜索を行ったが、かなり巧妙に隠されているらしく、見つけられなかった。
――同時刻、校内某所の‘アンチ生徒会’アジトを男が1人訪れていた。
「ほう、生徒会ですら見つけられない我らのアジトを見つけるとは……貴様何者だ?」
突然の訪問者に驚きつつも、神楽は男にたずねた。
「拙者、1年6組の猿義と申す者。ここは‘アンチ生徒会’のアジトでよろしいか?」
男――猿義は名乗ると、神楽に確認した。
「ああ、そのとおりだ。猿義とか言ったな、貴様、よもや生徒会の回し者ではあるまいな?」
神楽は頷くと、猿義に問いかけた。
「とんでもない。むしろ最近生徒会に入った市原や真野姉妹と敵対する者。そこで本題だが、神楽どの。拙者を仲間に加えてくださらんか」
猿義は神楽にそう頼み込んだ。
「うむ、構わないぞ。たしか猿義という名は忍者の末裔と聞く。その技で思う存分生徒会の連中を攪乱してくれ」
神楽はあっさり頷き、猿義にそう告げた。
「はっ、了解しました。ところで、神楽どの。真野姉妹は気をつけたほうがよろしいかと」
猿義は神楽に敬礼すると、神楽に耳打ちした。
「なに? それはどういうことだ?」
神楽は訝しげな視線を猿義に向けた。
「実は、拙者が忍者の家系であるように、真野姉妹は中世ヨーロッパの魔法使いの子孫なのです」
猿義はさらに続けて耳打ちした。
「ほう、それはまた随分と突飛な話だが、証拠はあるのか?」
神楽はまだ訝しげな視線を向けている。
「これを」
猿義はいったん少し離れると、懐から1本のビデオカメラを取り出し、再生を始めた。
「ふむ、なるほど。どうやら本当のことらしいな」
そこに映し出された映像を見て、神楽は納得したようだ。すると、何かを思いついたのか、
「なあ、猿義よ。これをもらってもいいか?」
猿義にそう頼み、
「ええ、構いませんよ。では、拙者は彼らに用事があるので失礼させてもらいます」
猿義はそう言うと、アジトから出ていった。後に残された神楽は、
「くっくっく……これは対生徒会の重要な武器になるな……」
などと言いながらアジトのなかで何度も映像を繰り返すのだった。
結局、アジトを見つけられないまま、下校時刻を迎えてしまったので、この日の捜索を打ち切って帰宅することになった峻佑たちだったが、校門のところに待ち伏せしている男に気づいた。
「なんだ、またお前か? 何度挑んでもちひろには勝てないんだから、いい加減諦めろよ」
峻佑が呆れたような口調で待ち伏せ男――猿義に話しかけた。
「ふっ、やってみなくてはわからぬはず。それに、以前敗れたときの拙者ではないぞ。先日、別の武術家の流派を襲撃して秘伝の書を奪い取ってきているのでな」
猿義は胸を張ってそうのたまったが、
「前々から思ってたけどよ、お前のやってることって明らかに犯罪だよな。他人の家に侵入する住居侵入罪、その家のものを無理やり奪い取る強盗罪、場合によっては戦ってケガをさせてることもありうるから、暴行罪または傷害罪。警察に捕まらないのが不思議なくらいだよ、ホント――まあ、これ全部テレビで見た知識だけど」
峻佑はつい最近テレビの法律番組を見ていたらしく、そこでやってた内容を思い出して猿義に指摘した。
「う、うるさい! これは拙者と真野家の話だ、関係ないヤツは黙ってろ!」
猿義は多少自覚があったのか、明らかな動揺を見せて峻佑に怒鳴った。
「イヤだね。2人はオレの幼なじみにして今は同居人の関係だ。関係ならある」
峻佑は引き下がることをきっぱりと拒否した。
「ならば、力ずくでも黙らせてやる!」
猿義はそう言うが早いか、峻佑に飛びかかった。
「峻佑くん!」
すぐさまちひろとみちるが加勢しようとしたが、
「すまん。2人とも、先に帰っていてくれ。これはオレとクソ猿の決闘だ!」
峻佑は右腕で猿義の攻撃を受け流しつつ、左腕で2人を制止した。
「でも……」
みちるが渋ったが、
「わかったわ。みちる、帰るわよ。でも、峻佑くん、せめてこれを使って。いくらあたしたちより弱いとはいえ、普通のヒトよりは強いだろうから」
ちひろがみちるの腕を引っ張って下がらせ、峻佑にどこからともなく取り出した木刀を投げて渡した。
「サンキュー! じゃ、また後でな」
峻佑は木刀をキャッチして構えると、2人に笑いかけた。
「気をつけてね、峻佑くん」
ちひろたちは最後にそう言い残すと、学校を出た。
「さて、待たせたな、クソ猿」
峻佑は最初の一撃以来攻撃してこなかった猿義に言い放った。
「ふん、別れは済んだか? ならば始めよう。真野家にある秘伝の書はお前を病院送りにしたあとで姉妹を倒して奪えばいいな。ゆくぞっ!」
「へっ、返り討ちにしてやるよ!」
――決闘が、始まった。
「まずは、これでもくらえっ! 猿義流忍法、『焔玉』っ!」
先に動いたのは猿義だった。ポケットから火薬玉を取り出し、峻佑めがけて投げつけた。空気との摩擦で発火し、破裂しかけたが……
「わりぃな、これお前に返す」
峻佑は緊張感も何もない口調で猿義に言うと、破裂直前の火薬玉を木刀で打ち返した。打ち返された火薬玉は猿義の眼前で破裂し、激しい閃光を放った。
「ぎゃあああ! 目が! 目があああ!」
猿義はまさか打ち返されるとは思っていなかったため、完全に無防備で自分の技を受けてしまった。
「策士、策におぼれるたぁこのことだな。つか、お前はム○カ大佐か。さて、視力が戻る前に決着をつけるか」
峻佑はボソッと冗談を織り交ぜてつぶやくと、木刀を構え直して猿義のふところに飛び込み、木刀を連続で打ち込んだ。
「これだけやればもう……」
峻佑は最後に剣道で言うと胴のような打ち込みをすると、少し距離をとって猿義のほうを向いてつぶやいた。だが、
「市原……峻佑……まだ、拙者は、負けてないぞ……」
だいぶボロボロながらも、猿義はまだ立っていた。
「まだ立てるのか。だけど、もう闘えないだろ。やめとけ。これ以上やればお前の身体がもたない」
峻佑は一応相手を気遣うような言葉を投げかけた。しかし――
「スキありぃっ! 食らえ、これが拙者の最後の一撃だ……奥義『神速の鳥』!」
猿義は峻佑の一瞬のスキをついて高くジャンプすると、落下の勢いをプラスして峻佑に捨て身で体当たりをしかけた。
「最後の攻撃に打って出たか。だけど、中学のとき野球部の4番を打ってたオレをなめるなっ!」
峻佑は飛んでくる猿義に対して木刀をバットのように構えると――
タイミングを合わせて、振り抜いた。
猿義は奥義でスピードアップしていたのが災いし、避けきれずに打ち返された。速度が出ていたのでその分峻佑の木刀にかかる負荷も半端ではなく、気合で猿義の身体を弾き返したものの、木刀は真っ二つに折れてしまった。だが、その欠片の片方が、打ち返されて数メートル飛んでいった猿義に直撃し、‘ゴン’という鈍い音と「ぎゃっ」という低い声が聞こえ、その場は静かになった。
「やれやれ……保健室はもう閉まってるし、コイツは完全に気絶してるし……あぁもうかったりぃ」
峻佑はぶつくさ言いながらも、救急車だけ呼んで、家に帰るのだった。
数分後、学校に到着した救急隊は、通報者がすでにそこにいない状況と、ただ猿義が倒れているだけの状況を見て、何があったのかと首を傾げるのだった。
‘アンチ生徒会’に加わった猿義に再び襲撃をかけられるものの、峻佑が一騎打ちで撃退することに成功した。
‘アンチ生徒会’はどう動く? そしてサルが神楽に渡したビデオカメラの中身とその行方は?
一方、学校には教育実習の時期が訪れていた。
次回、VOL.32:教育実習生は……(仮) お楽しみに!
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