VOL.29:峻佑の決意
6月。季節は梅雨を迎え、雨が続く竹崎の街に大きな叫び声が響く。
「あー、もう! ジメジメして鬱陶しい! 中間試験が近いのに、集中できないじゃない!」
中間試験を3日後に控え、勉強も追い込み段階に入った峻佑たちなのだが、ここ数日雨が続くせいで湿度が高く、不快指数はむちゃくちゃ高かった。ずっと我慢していたが、ついにちひろがブチ切れて叫んだのだった。
「落ち着けって、ちひろ。叫んだって何も変わらんだろ。あれ? そういえば、魔法でなんとかならないの?」
峻佑がちひろをなだめ、ハッと気づいたことをたずねる。
「いくらあたしたちの魔法でも、天気までは操れないわ。せいぜいこの高い湿度を下げるくらいかしら……って、それをやればいいのよね。えいっ!」
首を振って峻佑の問いに答えたちひろはできることに気づくと、気合いの一声をあげて、部屋の中の湿度を下げた。
「おっ、カラッとした。これならさっきよりは勉強に集中できそうだな」
峻佑はいったん立ち上がって伸びをしながら言うと、再び3人で勉強を始めた。
翌日、3人が登校すると、校内が妙に騒がしかった。
峻佑がたまたま見つけた耕太郎に何かあったのか聞いてみると、
「誰かが職員室から今度の試験問題を盗み出してあちこちの廊下に張り出したんだ。生徒会の人たちが回収してる」
耕太郎がそこまで言ったところで、
「くぉらー! 神楽ー! まーたあんたの仕業ねー!」
4人のすぐ横を2年生の男子生徒が1人走り去り、その後ろから、生徒会副会長の仙堂雲雀が追いかけていった。
「はーっはっは、俺を捕まえられるものなら捕まえてみるがいい」
神楽と呼ばれた男子生徒は後ろから追ってくる雲雀を挑発するような言葉を残し、あっという間に廊下を駆け抜け、見えなくなってしまった。見失ったことで雲雀も仕方なく諦めて立ち止まり、乱れた呼吸を整えている。
「仙堂先輩、大丈夫ですか?」
峻佑たちが雲雀に駆け寄ってたずねる。
「ああ、市原くん。いま私が追いかけてたヤツが生徒会にとって最大の敵の1人、神楽 義明、諸悪の根元よ。今までにもイベントの裏で、観月 涼、岩本 浩行など数人の仲間とともに‘アンチ生徒会’を掲げて数々の騒ぎを起こしてきてる。そう、こないだの体育祭でもね……」
雲雀は峻佑たちに神楽やその仲間のことを説明した。
「この平和な学校にそんな先輩がいたなんてな……」
峻佑はそうつぶやき、張り出された問題用紙を回収するために再び走り出した雲雀と別れた。
2日後、中間試験当日。どうやら試験問題の完全な作り直しは間に合わなかったらしく、神楽が盗み出したらしい問題用紙と半分程度一致した問題で試験は行われた。
3日間の試験は無事に終わり、帰宅した峻佑は、自室で1人考えていた。
(あの神楽っていう先輩、明らかに状況を楽しんでいた。試験問題を盗み出していい成績を取ろうなんて考えず、ただ単に生徒会をおちょくって遊んでる目をしていたな。生徒会の先輩たちは見た感じ人手不足だし……よし、決めた!)
あれこれ考えた末、1つの結論に達した峻佑は、部屋から出ると、夕飯を作っているちひろやみちるにある相談を持ちかけ、2人はあっさり快諾してくれた。
週明けの月曜、朝のHRを終えた峻佑は、1時間目が始まるまでの休み時間を利用して3年3組の教室へ向かった。
「すみません、一条先輩はいらっしゃいますか?」
3組の教室に着いた峻佑は、ドアの近くにいた女の先輩にたずねた。
「一条……ああ、会長ね。ちょっと待ってて」
彼女は頷くと、教室の中へ入っていき、窓際の席に座っていた一条に話しかけた。一条は数回頷くと、立ち上がって教室の入り口で待っていた峻佑のところにやってきた。
「市原くん、どうしたんだ?」
開口一番、一条は単刀直入にたずねた。
「先輩、いや生徒会長。オレを生徒会に入れてください」
峻佑も簡潔に用件を伝えた。
「おお、入ってくれるのか。おっと、もう授業が始まるから、詳しい話は昼休みにしよう。昼休みに生徒会室に来てくれ」
一条は嬉しそうな表情を見せると、峻佑にそう告げ、また引っ込んでいった。と、授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いたので峻佑は早歩きで自分の教室へ戻るのだった。
昼休み。峻佑は素早く昼食を済ませると、ちひろやみちるとともに生徒会室に向かった。
ノックをして部屋に入ると、あらかじめ一条が招集をかけていたのだろうか、今まで見なかった役員の姿もあり、どうやら全員集合らしかった。
「ようこそ生徒会へ、市原くん。おや? 後ろの2人はたしか1年生で最も有名な双子の姉妹じゃないか?」
一条が立ち上がり、歓迎の意を示す。と、峻佑の後ろにいるちひろとみちるに気づいてたずねた。
「会長、朝は時間がなかったせいで言えなかったんですけど、2人も一緒に入ってもらっちゃダメですかね?」
峻佑は一条をまっすぐに見据えて頼んだ。
「君が生徒会に入ると決意した時点でもう君は生徒会の一員だ。その君がスカウトした人材という扱いになる以上、我々に拒否権はない。ただし、スカウトをして生徒会入りさせる場合、スカウトをした役員は彼らに対し責任を負わねばならない。これだけはわかっていてほしい」
一条は生徒会役員のスカウト条件を説明した。要は条件を守れるならば基本的にスカウトは自由にできるらしい。
「そうなんですか? 了解しました。ちひろ、みちる、改めてお願いする、一緒に役員をやってくれ」
峻佑は一条に向けて力強く頷くと、ちひろとみちるに向き直って頭を下げた。
「今さら頭なんて下げないでよ、峻佑くんらしくもない。私たちは峻佑くんだからこそ、この話を受けたんだよ」
2人は笑って峻佑に言った。
「まあ、その続きは後でやってくれ。これで今日から3人は生徒会の役員となったのでそのつもりで活動してもらう。最初は仕事を覚えるために、誰でもいいから役員の下に見習いとしてついてもらうわけだが……書記、会計、治安対策、どこがいい?」
一条は少し呆れた表情を見せて峻佑たちを制止すると、表情を引き締めてたずねた。
「じゃあ、3人とも、治安対策チームをやらせてください」
峻佑の決意――それは、生徒会役員になることだった。
ちひろやみちるとともに役員になった峻佑。
神楽たち‘アンチ生徒会’との死闘が始まろうとしていた――
次回、VOL.30:対決―顔合わせ―
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