VOL.24:来訪者-Part2-
「……で、彼は誰?」
しばらくして意識を取り戻した峻佑は、顔をしかめてまだ痛む頭をさすりながらたずねた。
「オイラの名前は榊 琢磨だ!」
胸を張ってそう叫ぶように自己紹介をする琢磨。と、
「あんたは少し黙ってなさい!」
ちひろが琢磨をひっぱたき、黙らせた。
「ごめんね、峻佑くん。この子は私たちの従兄弟の琢磨。私たちに会いたくなってここまで押しかけてきたみたい」
みちるが事情を説明した。
「従兄弟か。ってことはやっぱり……」
峻佑がそこまで言って確認するように姉妹を見ると、2人は察したようで、軽く頷き、
「うん、琢磨くんも魔法使いだよ。まあ、困ったことにこの子はイタズラばかりでロクな使い方してないんだけど……」
ちひろがため息をつきながら補足した。
「まあ、それはいいとして、中学生ってことは親はどうしてるの?」
峻佑は琢磨にたずねた。
「母さんにメールしてから来てるから母さんは知ってる」
琢磨はぶっきらぼうに答えた。
「今夜中にこの子の母親の英里叔母さんが迎えに来るみたいよ」
みちるが琢磨の言葉に付け足してそう伝えた。
「そっか。それなら大丈夫だな。迎えが来るまでここにいればいい。でも、あまり親に心配かけるのはよくないぞ? 休日とかを利用して親と一緒に来るなら構わないけどな」
峻佑は琢磨のほうを向いてそう諭した。と、そのとき玄関のチャイムが鳴り響いた。
「はーい、どちらさまー?」
峻佑がドアを開けると、見たことない女性が立っていた。
「…………?」
峻佑がドアを開けた状態のまま固まってるのを見て、女性はハッとしたかのように、
「ああ、ごめんなさい。私、榊 英里と申しますが、うちの息子がお邪魔してるみたいで……」
英里と名乗った女性はそう言いながら頭を下げた。
「あ、ああ、琢磨くんの親ですね。とりあえず、中にどうぞ」
峻佑は事態を把握し、英里を中に招き入れた。
「あっ、英里叔母さん、久しぶりです」
英里に気づいたちひろたちが挨拶をしたが、琢磨は「フン」とそっぽを向いたままだった。
「ちひろちゃん、みちるちゃん、久しぶりね。えっと、峻佑くん……だったかしら? うちのバカ息子が迷惑かけちゃってごめんなさいね」
英里はちひろたちに挨拶を返し、一応の家主である峻佑にも謝った。
「いえ、大丈夫ですよ。なぜオレの名前を知ってるのかは突っ込むだけ無駄でしょうから何も言いません。ただひとつオレが言いたいのは、なにやら怒ってらっしゃるようですが、穏便に、ってことだけです」
峻佑は英里にそう話した。
「一応は努力するわ。さて、琢磨……あら? 琢磨はどこ行ったのかしら?」
その言葉に一同がさっきまで琢磨が座っていたソファーのほうを見ると、すでにその姿はなかった。
「逃げたわね……ちひろちゃん、みちるちゃん、それと峻佑くん。悪いんだけど、あの子を連れてきてくれる? 今年は受験生だから勉強しないといけないから塾に入れたのに、それが嫌でここまで逃げてきてるの。ちひろちゃんたちに会いたいからなんて口実まで作って……」
英里は満面の笑みでちひろたちに頼んだ。
「ええ、わかりました。峻佑くん、行こうっ!」
英里の頼みに頷き、峻佑の腕を引っ張って居間を出るちひろの表情にはなにやら焦りと怯えのようなものが伺えた。
「ちひろ、そんなに焦ってどうしたんだ?」
居間を出たところで峻佑がちひろにたずねた。すると、
「峻佑くん、いま英里叔母さんと話してみてどう感じた?」
ちひろは逆に質問で返してきた。
「えっ? 優しそうな女性だと思ったけど……違うの?」
峻佑は感じたままをちひろに伝えた。
「半分正解ってところかしら。普段は峻佑くんの言うとおり優しい叔母さんなんだけど、一度怒らせたりして機嫌を損ねると手がつけられないの。英里叔母さんの裏の顔はまさに般若と言っても過言じゃないわ……」
ちひろは微かに震えながら話した。
「そ、そうなのか……あれ? じゃあもしかすると、オレたちが琢磨くんを捕まえたあとは結局修羅場になるんじゃ……」
峻佑はふとこの後起こりうることを想像してしまい、鳥肌が立ってしまった。
「うん。まず間違いなく琢磨くんはお説教でひどい目に遭うわね。でも、あそこで叔母さんの頼みを断ったり、あたしたちが捕まえられなかったら、あたしたち3人がひどい目に遭わされるわよ。だからさっさと琢磨くんを捕まえなくちゃ。行くわよ、2人とも」
ちひろは気合いを入れ直し、峻佑やみちるとともに家の中を探し始めた。
そのころ、居間から逃げ出した琢磨は、2階に上がり、目に付いた部屋に逃げ込んでいた。
「ここは、さっきオイラがぶっ倒した兄ちゃんの部屋かな? とりあえず、クローゼットに隠れようっと。あれ、隠し扉? よっしゃ!」
琢磨はどうやら峻佑の部屋のクローゼットに入ったらしく、さらにその中の隠し扉を発見し、そこに隠れたのだった。
「いったいどこに逃げたんだ? 靴はあったから家の中にいるはずなんだけど……」
家の中をあちこち見回りながら峻佑がボヤいた。
「一階にはいないみたいね。二階へ行きましょう」
みちるが一階の最後の場所――脱衣所を覗いて、いないことを確認すると、3人で階段を上がっていった。
「まず、あたしたちの部屋には入った形跡はないわね」
階段を上がりきるなり、ちひろがつぶやいた。
「なんでわかるんだ?」
峻佑が首を傾げてたずねると、
「あたしたちの部屋には以前に峻佑くんがいきなり開けて着替えを見られたトラブルがあったから、勝手に入られないように魔法の罠が仕掛けてあるの。うかつに開ければ高圧電流とタライが待ってるわ」
ちひろがニヤリと表情だけで笑いながら説明した。
「なるほど、覚えておかないとな。でないと大変なことになる。……って、高圧電流はいいとして、なんでタライなの?」
峻佑は初めて知らされた事実に震え上がりつつも、理解できないトラップの中身に突っ込んだ。
「それほど明確な意味はないけれど、高圧電流が肉体的なダメージなら、タライは精神的なダメージってところかしら? ほら、よくテレビのお笑い番組とかでも使われるでしょ?」
みちるが意味を説明した。
「そっか。なるほどね。まあ、そこにいないなら、もう部屋はあと2つだな……うん、こっちにはいないみたいだ」
峻佑は言いながら現在は主のいない父親の書斎を覗き込み、琢磨がいないことを確認した。
「じゃあ、あとは峻佑くんの部屋だね」
さて、琢磨は英里の怒りから逃れられるのか?
峻佑たちは無事に琢磨を発見することができるのか?
次回、VOL.25:来訪者-Part3-お楽しみに!