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VOL.23:来訪者-Part1-



ちひろとみちる、双子の姉妹から同時に想いを告げられた峻佑。ひとます返事を保留にした彼だが――

 ちひろとみちる、1年生のアイドルと呼ばれる2人が揃って峻佑に想いを告げたという話は、あっという間に学年中を駆け巡った。だが、伝言ゲームの要領で伝わった話はやがて内容が事実と異なるものに変わり――


「峻佑ぇっ! てめえ、ちひろさんたちの告白を断ったというのは本当かぁ!」

 耕太郎が叫び、お約束のごとく峻佑は校内を走っていた。だがいつもと異なるのは、MMMとは関係のないはずの男子生徒までもが峻佑追跡隊に加わっていたことである。

「まだ答えは出してねえ! って耕太郎、お前重傷だったはず! しかも、MMMは除名されたはずじゃないのかぁ!?」

 峻佑は走りつつも後ろから追ってくる耕太郎たちに反論し、はっと気づいたかのように耕太郎に突っ込んだ。

「なんのこれしき! 俺たちの嫉妬の力を甘く見るなよ! それに、これはMMMとは関係なく、個人的な恨みだ!」

 耕太郎はフンッと胸を張って自信満々に言い切った。

「そうか、じゃあ、ぶん殴っても問題ないな? いつまでも逃げ回るだけのオレだと思ったら大間違いだぞ」

 峻佑は校庭に飛び出したところで急停止して振り向くと、冷徹に耕太郎たちに告げた。

 峻佑の本気を思わせる瞳に一瞬たじろいだ追跡隊一同だが、自分らに数的有利があることを思い出し、峻佑を取り囲んで身構えた。

「し、峻佑くん……」

 当事者であるちひろとみちるは校庭の片隅から事態を見守っていた。峻佑がピンチなのを見て、みちるが動こうとしたが、それをちひろが制止した。

「みちる、ダメよ。峻佑くんが追い回されてる原因はあたしたちにあるんだから、ここはあたしたちの出る幕じゃない。彼ら自身が納得するようなやり方で解決させないといけないことなのよ」

 ちひろは静かにみちるを制止した理由を話した。

「〜〜〜♪」

 と、そのときちひろの携帯が鳴り響いた。携帯を開くと、画面には新着メールありと表示されていた。

「誰からかしら……? あら、2件?」

 言いながらメールを開いたちひろの顔がみるみる青ざめていく。

「お姉ちゃん、どうしたの? メール、誰からだったの?」

 ちひろは何も言わず携帯の画面をみちるのほうに向けた。みちるがそれを覗くと……

〈ちー姉、久しぶりに今日これから遊びに行くね  たくま〉

 それが1件目、続けてもう1件を開くと、

〈ちひろちゃん、ごめんなさいね。ウチのバカ息子(たくま)が急にちひろちゃんたちに会いたいとか言い出して1人で飛び出して行っちゃったの。今夜にでも回収に行くから、それまでの間面倒を見ていてくれないかしら?  叔母より〉

 みちるもそれを見て顔が青ざめた。と、そこへ……

「ちひろ、みちる、どうした? 顔が青いぞ?」

 取り囲まれていたはずの峻佑がいつの間にか2人のところに来ていた。2人が彼の後方を見やると、さっきまで彼を追い回し、取り囲んでいた男子生徒一同が全員校庭に倒れていた。どうやら峻佑が1人で全員倒したらしい。

「ううん、なんでもないよ。もしそう見えたとしたら、囲まれてた峻佑くんのことが心配で、青ざめてたのかも」

 ちひろは峻佑に本当のことを隠しつつ、

(まさか、琢磨たくまが来るなんて……)

 内心で昔のことを思い出していた。





 琢磨はちひろやみちるの従兄弟いとこにあたり、現在14歳の中学3年である。

 彼の母親は姉妹の母親の妹にあたるため、当然彼も魔法の能力ちからを受け継いでいる。

 だが普段あまり能力ちからを使わない2人に対し、もっぱら彼はイタズラのために能力を駆使し、ちひろやみちるも何度となく彼のイタズラに苦しめられたのだ。苦手意識はそう簡単に消えるものではない。

(そういえば、昔はよく琢磨のイタズラのターゲットになってたっけ……)

 ちひろの脳裏に数年前の記憶が蘇る。


 ちひろやみちるが10歳、琢磨9歳のときのこと。ちひろはみちるやほかの友達と、琢磨は悪ガキグループと小学校の近くにある公園でそれぞれに遊んでいた。と、琢磨がいきなりちひろたちのところへ来て、

「ちー姉、みー姉、ちょっとこっちに来てー」

 と言ってきた。

「どうしたの?」

 ちひろがたずねると、

「いいからいいから」

 琢磨はそう答え、否応なしにちひろの手を引っ張っていった。

「わわっ! わかったから一旦離して!」

 ちひろは転びそうになったので一度琢磨の手を振り払い、改めてついていった。

 しばらく歩いていくと、琢磨が遊んでいた悪ガキグループがその辺でまだ遊んでいたが、公園の広場の端っこしか使っておらず、ちひろは不思議に思っていた。と、真ん中に不自然なダンボールの山が置いてあるのを見て、ちひろとみちるは同時に感づいた。

(なるほど、琢磨たちはあたしたちを落とし穴にはめるつもりなのね……子供らしくていいじゃない。気づかない振りしてはまってあげるのもいいかな)

 琢磨の意図を察した2人は、気づかないふりをしながら琢磨の後をついていった。

 と、そのとき。ドスンという衝撃とともに2人の視界が土気色に染まった。

「いたた……」

 2人が目をパチクリさせながら辺りを見回すと、どうやら穴に落ちたらしいことがわかった。

「ど、どうなってるの? 落とし穴はもっと先にあったはずじゃ……」

 2人は何が起こったのか把握するため、ひとまず穴から脱出しようとした。すると、

「よっしゃ! 見事に引っかかったね〜、ちー姉、みー姉」

 穴の外から琢磨たち悪ガキグループが2人を見下ろしながらガッツポーズをして笑っていた。

「琢磨、どういうことなのか説明しなさい」

 どうにか穴から這い出した2人は琢磨を捕まえて尋問を始めた。

「あそこのわかりやすいダンボールはダミーで、そっちに意識をやっといて手前の本物の落とし穴に落とす。これで引っかかる人がいるのか試したかっただけなんだよー」

 琢磨はニヤリと笑って説明した。

「ふーん……反省してないわね?」

 ちひろは静かにそう言い放つと、何かを察して逃げようとする琢磨を押さえつけ、ゲンコツを一発ぶちかました。

「いってー!」

「少しは反省しなさい! あたしらもいきなり穴に落とされて痛かったんだからね!」




 その後も琢磨のイタズラは治まるどころかさらにエスカレートし、だんだんと魔法を使ったイタズラも増えていった。

 だが、ちひろたちが中学に入って女子校に通うようになると琢磨と会う機会もなくなり、今回は実に3年ぶりくらいに会うことになるのだった。



 そんなことを考えながら授業を受けていたら、いつの間にか放課後になっていた。

「ちひろ、帰ろうぜ」

 峻佑が声をかけた。

「う、うん。わかった」

 ちひろは慌てて帰り支度を済ませ、みちると合流して帰路についた。


 夕飯を済ませ、3人でテレビを見ながら過ごしていた、そのとき。玄関のチャイムが鳴り響いた。

「こんな時間に誰だ?」

 峻佑が立ち上がり、玄関に向かうと、扉を開けた。

「ちー姉、みー姉、久しぶりー!」

 開けた瞬間、何かが峻佑に向かってダイブしてきた。

「君はいったい誰だ?」

 峻佑がたずねるのと、

「あれ?」

 来訪者が見上げて首を傾げるのは同時だった。

「ちっ、間違えて男に抱きついちゃったのかよ」

 来訪者はそう吐き捨て、峻佑をどついた。

「ぐっ!?」

 どつかれた峻佑は勢いよく吹っ飛び、空き部屋のドアに叩きつけられた。

「な、なに!? 峻佑くん、大丈夫? って、琢磨! あんた何したの!?」

 ちひろは大きな音に驚いてみちるとともに玄関へ向かうと、近くで倒れている峻佑と、玄関に立ってる琢磨を見つけたのだった。


「ちー姉、みー姉、久しぶり。そこの兄ちゃんはちょっとどついたら吹っ飛んじゃっただけ。心配はないと思うよ」

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