VOL.22:溢れ出すココロ
1ヶ月続いた体育祭編も終わり、いよいよ新章突入です〜
体育祭が終わって1週間ほどが過ぎた――
そんなある日の朝、峻佑たちが教室に入ると、静まり返った中にただ一人、耕太郎の姿が見えた。
「おっす、コータロー」
「おはようっ、沢田くん♪ 今朝は早いのね」
峻佑とちひろの声に気づいたのか、耕太郎が振り向いた。だが――
「どうした、コータロー!? 顔がムチャクチャ腫れてるじゃねーか!」
「ちょっと、保健室行った方がいいんじゃない!?」
振り向いた耕太郎の顔面は誰かに殴られたのか、顔が変形するほどに腫れていて、パッと見では誰だかわからないほどになっていたので、すぐさま峻佑たちが保健室へ連れて行った。
耕太郎は「何でもない、大丈夫だ」と繰り返していたが、全く説得力がないので半ば引きずるようにして保健室へ連行した。と、やはりダメージが大きかったのか途中で耕太郎が気絶してしまい、峻佑が彼を背負って保健室へ到着した。
保健室に耕太郎を置いてきて、教室へ戻る途中。
「それにしても、いったい誰が耕太郎をボコったんだ?」
言いながら峻佑が首を傾げた。
「峻佑くん、ちょっと……」
いきなりちひろが峻佑を階段下のスペースに連れ込んだ。
「どうかした、ちひろ?」
峻佑がびっくりしてたずねると、
「沢田くんをあそこまで殴ったのはMMMの連中みたい。腫れ上がった顔に触ったときに記憶を読んだの。そしたらMMMの連中に囲まれて殴られてるのが見えたわ。あとは一応キズを癒す魔法もかけたけど……」
ちひろは早口で峻佑に話した。
「そうか……耕太郎、MMMを脱退するとか言ってたからな。もしかしたらそのことで連中と揉めたのかもしれないな」
峻佑がそこまで言ったところで、
「朝からこんな人目につかないようなところで我ら1年のアイドルと何の相談だ? なあ、市原峻佑?」
峻佑たちが話をしていた階段下のスペースに人影がふたつ、現れた。逆光のため、まだ顔は見えない。
「別に? クラスメートかつ幼なじみとどこで何を話そうと自由だろう。なあ、川原に種村? そんなことより、お前ら、なぜ耕太郎をあそこまで殴った?」
峻佑は声や姿から人影の正体を見破り、静かに問いかけた。
「なぜ殴ったか、だと? どうやらすでにおれたちがやったってことを確信してる言い方だな。まあ、事実だけどよ。ヤツはリーダーの座にありながら我らMMMを裏切った。裏切り者にはそれなりの制裁を加えなくてはならないんでな。特にヤツの精神に惚れてMMMに入った連中が黙ってるわけがない。おれたちはそれを取りまとめただけに過ぎないのさ」
川原は事実を認めた上で理由を淡々と話した。
「元々アイツが結成した団体だ。解散するのも自由だろう? アイツはこんな団体を勢いだけで作ったことに後悔していたんだ。仮にアイツを裏切り者扱いしたとしても、あれはやりすぎだ。オレはこれから職員室へ行ってお前らの暴力行為をチクってくる。停学くらいは覚悟するんだな」
峻佑は川原たちに静かに話すと、彼らの横を通り抜けようとした。と、肩をどつかれて押し戻された。
「ちっ、仕方ない。種村、市原もボコるぞ。どうせ停学食らうんだったら1人殴るも2人殴るも同じことだ。もちろん、我らがアイドル、ちひろさんには手を出さんがな」
川原は峻佑をボコるため身構えつつ、種村に命じた。
「おう、市原には体育祭の時の借りも返したかったところだしな、ちょうどいい」
言いながら種村も身構えた。
「峻佑くん、大丈夫?」
ちひろが心配そうに峻佑の肩を叩く。
「オレは大丈夫だ。幸いヤツらはちひろには手を出さないって明言してるし、巻き込まれないようにこの場を離れてくれ」
峻佑はちひろにそう話すと、
「おい、お前ら。ちひろは関係ないからこの場から逃がしてもかまわないな?」
道をふさいでいる川原たちに確認する。
「ああ、かまわないぜ。おれたちとしてもアイドルの顔とかに傷をつけたくはないからな」
両者の意見が一致し、ちひろのために道を空けてくれたが、
「あたしはここに残る。だって、峻佑くんのことが好きだから。好きな人が理不尽な理由で殴られそうなのに自分だけどっか行くなんてできない!」
ちひろは自らの想いをぶちまけるように叫んだ。
「ちひろ……」
峻佑はとまどいを隠しきれない表情でただ名前をつぶやくことしかできなかった。と、そのとき。
「ちょーっと待ったぁーっ!」
静寂を切り裂くような大声とともに、みちるがその場に駆け込んできた。
『みちるっ!?』
突然のみちるの登場に、峻佑とちひろの声がハモった。
「お姉ちゃん! なにどさくさに紛れて告白してるのよ!? 抜け駆けはなしって約束したでしょ!」
みちるは腰に手を当てつつ、ちひろに指を突きつけて怒鳴った。当のちひろは、そんなん知らないと言った表情でそっぽを向いている。
「…………」
川原たちはちひろの爆弾発言と、普段教室で見せる柔らかな表情とは全く違う、怒り狂ったみちるの登場に驚いたのか、その場に立ち尽くしている。
「川原くんと種村くんだっけ? あたしに免じてここは退いてくれない? ちょっと3人で話しあいたいから」
ちひろは未だ立ち尽くしている2人に手を合わせて頼み込んだ。
「ちっ、やる気が失せたぜ。耕太郎はもう除名だって伝えとけ。市原もせいぜい背後に気をつけるんだな」
川原は峻佑にそう吐き捨てると、種村とともに階段下のスペースを立ち去った。
「さて、と。耕太郎の様子でも見に行くかな」
峻佑はさっきのちひろの爆弾発言を聞かなかったことにし、2人を放置して保健室に行こうとした。だが、
「しゅーんすーけくーん?」
「どーこ行ーくのー?」
2人は笑顔で峻佑を呼びつつ、彼の肩を捕まえた。
「な、なななななに?」
峻佑はかなり動揺しているのか、素っ頓狂な声を上げて振り向いた。すると、
「さっき言ったとおり、あたしたちは2人とも峻佑くんのことが好き。峻佑くんはあたしたちの――」
「――どっちを彼女にしてくれる? 選んでくれるほうの手を握って答えて……」
2人は真剣なまなざしで峻佑を見つめ、それぞれ右手を差し出した。それに対し、
「ゴメン」
峻佑は手をポケットにしまい、ただ一言、つぶやいた。
「ゴメンって……両方ともダメ、ってこと……?」
みちるがわずかに目元を潤ませて峻佑に問いかける。
「いや、そうじゃないよ。突然すぎるし、2人とも甲乙つけがたいほどのかわいさだから、すぐには選べないってこと」
峻佑は自らの発言の真意を2人に話した。
「なーんだ、そうだったんだぁ〜。でも、結論を先延ばしにして逃げたわけじゃない……よね?」
ちひろの鋭い指摘に対し、
「……も、もちろんだ」
どうやら多少なりとも図星を突かれた峻佑は答えに一瞬詰まってしまった。
「なに? 今の微妙な間は……もしかして図星?」
ちひろが峻佑の動揺を見抜いたかのようにジロリと睨んでくる。
「そ、そんなことはないぞ?」
峻佑は悟られまいと必死に否定するが、その目は泳いでいる。
「本当に違うなら、あたしたちの目を見てもう一度言ってみて?」
ちひろはまるで猛獣が小動物を追いつめるかのようにクスクスと笑いながら峻佑に迫る。
(マズいな……十中八九見破られてる。こうなったら……)
「わりぃ! その話はまた今度な!」
峻佑は自らの身の危機を目前に感じ取ったのか、ポケットの中で携帯を操作し、ちひろの携帯を鳴らして一瞬だけ注意を背けると、脱兎のごとくその場から逃走した。
「あっ、逃げた! 峻佑くん、後で絶対答えを聞かせてもらうからね!」
あっという間に見えなくなった峻佑に対し、2人は叫ぶように言った。と、そこに、
「コラーっ、真野姉妹! もうHR始まってるぞっ! さっさと教室に入らんかーっ!」
ちひろたちの声を聞きつけて、HRにいない峻佑やちひろたちを探していた4組と5組の副担任、佐々木が怒鳴った。
「わわっ! ご、ごめんなさーい!」
2人はその怒鳴り声に驚き、慌てて教室に戻るのだった。
ついに封印が解かれたキャプテン流ラブコメ!(なんだそりゃ
果たして、この先どうなっていくのか!
次回、ある意味ちひろたちが最も恐れる人物がやってくる……
VOL.23:来訪者(その1) お楽しみに!