VOL.21:体育祭Part5 -最終種目‘決戦’-
いよいよ体育祭編も大詰めです。
と、ここでCM。
ほぼ同時に更新されていると思われる、黒桐 梓さん作の『ラビリンス 〜A chain of the emptiness〜』第十夜にて、この作品のヒロイン姉妹&名脇役の耕太郎と他1名が出演しております。(なぜか主人公たる峻佑は出てないとのことで……)
よかったらそちらも合わせてご覧ください。
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峻佑たち両軍の代表選手がグラウンドに集結すると、実行委員が最終種目‘決戦’の説明を始めた。
それによると、勝負は5対5のバトルロイヤル形式で、各選手にはチーム色のハチマキ、カラーバット、籠手が渡されていた。選手は頭のハチマキを奪われた時点で失格、先に敵を全滅させたほうがこの競技の勝者であり、体育祭の総合優勝チームにもなるとのことだった。
「要はバットで攻撃し、籠手で守りながら敵のハチマキを奪い取ればいいんだな? ってか、これだけで優勝が決まるんだったら、今までの競技はなんだったんだよ……」
峻佑が籠手を装着しながら一条や他の味方に確認し、そのついでに競技のやり方にグチをこぼす。
「そうだ。我々の作戦は1人1殺で行く。敵方には1年生諸君の知り合いもいるだろうが、今だけは情を捨てて、闘おう。それと、最終競技で優勝を決めるのはこの学校の伝統ってヤツだ。諦めてくれ」
一条も籠手を装着し、臨戦態勢に入りながら味方4人に告げた。
一方そのころ、白組代表陣地では――
「私たちは負けるわけには行かない。紅組を倒して総合優勝の栄冠を勝ち取るのよ!」
なつきが腕を突き上げながら吠えていた。
「先輩どの。確実に勝つためのいい作戦があるのだが、拙者の案を聞いてはくれまいか?」
突如として猿義がそんなことを言い出した。
「確実に勝てるって、ホントに?」
なつきが訝しげな視線を猿義に向ける。
「ええ、敵方に聞かれてはマズい。耳をお貸し願いたい」
猿義はその言葉に応じて小さくまとまった味方4人の首筋に手刀を入れて昏倒させると、何かをつぶやいた。すると、倒れていた4人がむくりと起き上がり、臨戦態勢を整えたのだった。
『最終種目‘決戦’、はじめっ!』
グラウンド中央に立った実行委員の号令を合図に、最後の闘いの幕は切って落とされた。と、両軍同時に動き出したが、その動きは対照的だった。1人1殺を掲げた紅組は5人の選手が散開して白組に向かっていったが、対する白組は5人がまとまって紅組陣地へ攻め上がっていった。
「猿義流忍法奥義、操り人形の術! 行け、1人ずつ確実に取り囲んで討て!」
白組の中央に陣取って攻め上がる猿義が叫ぶ。その視線の先には一条がいた。
「し、しまっ――」
しまった、と言い切る前に一条は白組の5人に囲まれ、バットで殴られた上、ハチマキを奪われ失格となってしまった。
「先輩! くそっ、峻佑、ちひろさん! 集まるぞ!」
「会長! みんな、固まって敵を迎え撃つのよ!」
それに気づいた耕太郎と雲雀が慌てて仲間のところへ向かい、合流しようとしたが、その進路には――
「残念だが、これ以上は進ませないぜ。耕太郎、終わりだ!」
「仙堂副会長、そこまでね。討たせてもらうわ!」
耕太郎にはみちる・川原・種村の3人が、雲雀には猿義となつきがそれぞれ立ちふさがり、囲まれた2人はあえなくやられてしまった。
「これで残るはあと2人、市原峻佑と真野ちひろだな」
猿義がニヤリと笑いながら2人の位置を確認すると、2人はいつの間にかスタート地点まで戻って合流していた。猿義はチッと舌打ちしつつ、操り人形と化している4人を自陣のスタート地点まで戻らせることにした。
『戦闘開始から5分、紅組に3人の失格者が出てしまいました。対する白組は未だ無傷。果たして紅組はどうする?』
実況が冷静に放送を入れる中、2人きりになってしまった峻佑たちは――
「くそっ、オレたち以外みんなやられちまった。あんのクソ猿、仲間を操り人形にするとはな」
峻佑が悪態をつく一方で、
「みちるまで操られてるってことは不意をつかれたのね。そうでなければあの子がそう簡単に操られることはないし」
ちひろはみちるの心配をしていた。
「で、ここからどうやってあいつらを倒すかだな……間違いなく連中はさっきまでと同じように1人を集中攻撃して倒しに来るだろう。こっちはもう2人しかいないから上手く立ち向かわないと2人まとめてやられることもあり得るな……」
峻佑がああだこうだと悩んでいると、
「残ったのが峻佑くんで良かったわ。あたしに任せて。強すぎるからあまりやりたくはなかったけど、紅組の勝利のためならやるっきゃないか」
ちひろはため息をつきながら峻佑に耳打ちした。
「何かいい手段でもあるの?」
峻佑が聞き返すと、
「もうこの状況で使えそうなのは身体能力を数倍に跳ね上げる魔法、それだけ。ご先祖さまの魔法書に載ってて、何かの役に立つかもって覚えておいたの。ただ、副作用として、かけられた人は後でかなりの筋肉痛に襲われるの。それでも……いい?」
ちひろは使えそうな魔法の説明をすると、峻佑にどうするかたずねた。
「そんなこと、聞くまでもないな。あのクソ猿に負けるのはイヤだからな。やってくれ。ところで、一応訊いておくけど、そのことでちひろたちの秘密がバレたりはしないよな?」
峻佑は力強く頷いたあと、急に不安になったのかちひろにたずねた。
「そのことなら心配はいらないわ。じゃあ、行くよ」
ちひろは笑顔で頷くと、峻佑の背中に手をかざした。すると、淡い光が峻佑を包み込んでいき、全身を覆って消えた。
「これでOKよ。さあ、行きましょう」
ちひろは軽く息を吐きだすと、バットを構えた。
「おう、なんか力が漲ってきたぜ!」
峻佑もバットを構えると、ちひろと一緒に陣地を飛び出した。
『さあ、ずいぶん長い作戦会議を終え、2人になってしまった紅組の逆襲が始まるのか? それとも白組がこのまま勝利を収めるのか? 白組はやはり先ほどと同じ陣型で飛び出していきます』
ようやく再開された戦闘に、すっかり退屈しきっていたフィールドが熱を取り戻したかのように再び盛り上がり始めた。猿義の操り人形にされている白組の4人の選手は身体能力を限界近くまで引き出されているのか、ものすごいスピードで紅組の峻佑たちに迫る。対する峻佑も魔法の力で身体能力は格段に上がっていて、スピードを落とさずに白組の選手たちに向かっていく。常人を超えたそのスピードは、まるで閃光のような輝きを放っていた。
やがてグラウンド中央で紅と白の閃光が激突し、土煙があたりに立ち込めた。
土煙が収まると、そこには4つの白いハチマキを手にした峻佑の姿と、気絶しているのか地に伏せる4人があった。
「バ、バカな……!? 拙者の操り人形4人を同時に討ち取るだと!?」
残った猿義はわなわなと峻佑を指差しながらそう言うのがやっとだった。
『果たして、あの土煙の中でいったい何があったのでしょう……1対4という端から見たら絶体絶命な状況で紅組の生き残りのうちの1人、市原選手がたった1人で4人を討ち倒すという奇跡が起こりました!』
実況も興奮の渦に巻き込まれるように叫んでいる。そんな中、峻佑はちひろとともに猿義に近づいていくと、
「終わりだな、猿義。ちひろ、やっちゃいな」
峻佑は猿義へのトドメを刺させるべく、ちひろに告げた。と、
「スキありぃっ!」
峻佑が一瞬猿義から目を離したスキを狙って猿義のバットが峻佑に襲いかかった。しかし、
「甘いな」
峻佑は籠手でがっちり受け止めると、ちひろに目で「今だ」と合図した。
それを受けてちひろが背後から猿義のハチマキを奪い取り、高々と掲げた。
『戦闘終了! 2対5からの奇跡の大逆転により、紅組が‘決戦’を制し、また今年の総合優勝をも勝ち取りました。それではこれで今年の竹高体育祭を終わります。みなさん、お疲れ様でした。片付けに入ってください』
実況は最終結果を伝え、体育祭の閉幕を告げたのだった。
「いたっ、痛いって!」
翌日、峻佑は激しい筋肉痛にまったく身体が動かせず、ちひろの湿布を貼ろうとする手にも悲鳴を上げていた。
「こういう副作用があるって言ったでしょ? まあ、勝つためとはいえ、この魔法は使うべきじゃなかったかな……」
湿布を貼りながらちひろがつぶやき、峻佑は数日間激しい筋肉痛に襲われるのだった。
一方そのころ、峻佑の隣にある姉妹の部屋――
「それにしても、いつの間に体育祭終わってたんだろう? 気がついたら保健室で寝てたし。妙に身体が痛いけど……でもたぶんただの疲労と筋肉痛よね」
ベッドに横になったまま、みちるがボヤいた。
みちるもまた猿義の術の副作用か、はたまた峻佑に倒されたのが原因かわからないが、身体の痛みでまる1日寝込んでしまったのだった。
体育祭編、いかがだったでしょうか?
感想など、お待ちしております。
次回、ついに……!?
VOL.22:溢れるココロ(仮) お楽しみに!