VOL.02:入学式の朝、幼なじみとの再会
このVOL.02から本当の意味で物語の序章が始まります。
序章はVOL.05まで続きますのでのんびりとお楽しみください。
「ん、もう朝か……それにしても、なんで今さら10年も昔のことを夢で見ちまったかなぁ……」
ベッドの上で起き上がった少年がガリガリと頭をかいた。
少年の名は市原 峻佑。今日から近所の竹崎高校に入学することになっている、高校1年生だ。
「峻佑ー、アンタ入学式から遅刻する気ー!?」
階下から母親が峻佑を呼ぶ声がした。
「大丈夫、起きてるから。今着替えてるところー! おっと、これがないとなんか落ち着かないんだよな」
峻佑は階下に向けて返事をすると、真新しい制服に着替え、小さい頃幼なじみの少女たちにもらった腕輪を両手につけて階段を下りていった。
共働きで忙しい両親は一人息子の入学式さえも休みが取れず、この日も峻佑が朝食を食べている間に出発した。
「さってと、そんじゃまあ行くかなっと」
峻佑が朝食の皿を片付け、家を出ようとしたそのとき、ちょうどテレビの占いコーナーが流れた。
『今日の1位は牡羊座のアナタ! 思わぬ出会いが待っているかも!? ラッキーアイテムは――』
ちなみに峻佑は4月7日生まれの牡羊座である。
「へえ、思わぬ出会いねえ……まあ、いーや。占いなんてどーせ当たるも八卦、当たらぬも八卦なんだしな」
峻佑はテレビを消すと、真新しい学校指定のバッグを肩にかけ、家を出た。
しばらく歩くと、竹崎高校の校門が見えてきた。
(オレも今日から高校生。どんな高校生活になることやらな……)
峻佑がそんなことを考えながら校門をくぐった、そのとき。それまで快晴だったのに突如として太陽の光が陰った。
(ん? なんだ、雲か?)
峻佑が上を見上げると、上空から女の子が降ってきていた。しかも見事に峻佑への直撃コースで。
「おわぁっ!?」
「きゃああっ!? 危ない、どいてどいて〜っ!」
あまりに突然すぎる出来事に硬直してしまい動けない峻佑の上に女の子は着地した。
「……おい、早いとこどいてくれると助かるんだが」
幸い峻佑の意識は残っていたようで、下から自分を押しつぶした女の子に声をかけた。
「あっ、ゴメン! 大丈夫?」
女の子はパパッと立ち上がると、謝りながら峻佑を助け起こした。
「ああ、いきなり人が降ってきたのには驚いたが、どういうわけか押しつぶされてもほとんど物理的な衝撃を感じなかったんだよな。まあ、なかなかどいてくれない精神的な衝撃はあったけどな」
峻佑がさり気なくイヤミを言うと、
「それじゃ、あたし急ぐからっ! じゃーね、峻佑くん!」
女の子は華麗にイヤミをかわし、校舎に向けて走り去っていった。
「あれ? オレ自己紹介なんてしたっけか? っと、そんなこと考えてる場合じゃないな。クラス見て教室行かないと……ふむ、オレは4組か」
峻佑は自分のクラスを確認すると、急いで教室に向かった。
峻佑は息を切らして教室に飛び込んだ瞬間、さっき自分を押しつぶした女の子を見つけて思わず「あーっ」と声を上げてしまった。どうやら相手――先ほどの女の子も同じのようで、峻佑を指差しながら口をパクパクさせていた。
「キミも新入生だったのか。しかも同じクラスとは……」
峻佑がその女の子のところへ行って声をかけると、
「ねえ、あなた市原峻佑くんでしょ? あたしのこと、覚えてない? 真野 ちひろだけど」
女の子はちひろと名乗り、峻佑にそう切り出した。
「ああ、たしかにそうだけど、真野ちひろ? はて……」
峻佑は目の前の少女と名前を記憶と照らし合わせてみるが、なかなか合致しない。
「まだ、あのときの腕輪、持っててくれたんだね。しかも2つとも着けててくれてうれしいよ」
悩む峻佑にちひろはさらに付け加えた。
「腕輪? たしかコレは小さい頃に引っ越した幼なじみの女の子がくれたもの――」
峻佑がそこまで言ったところで、
「そう、あたしがその幼なじみのちひろだよ。双子の妹のみちるもこの高校にいるわ。クラスは違うけどね」
ちひろが笑顔で峻佑に向かって頷いた。
「うっそ!? 小学校上がる前に引っ越しちゃったあのちひろちゃんなの!? すごい久しぶりじゃね!?」
峻佑はようやく目の前の少女が誰なのかわかり、驚きに満ちた表情でたずねた。
「そうだよ、そのちひろだよ。久しぶりだよね、10年ぶりくらい?」
ちひろは笑顔のまま話したが、
「まあ、そうだな、10年ぶりくらいだな。すっかり変わってたからわからなかったよ。でもとりあえず再会を喜ぶのは置いといて、1つだけ聞きたいのは、今朝上から降ってきたアレについてだ。アレはいったいなんだったんだ?」
峻佑のこの問いかけにちひろの表情は一変した。
「ちょっといまここでは答えられないわね。入学式が終わって帰るときに校舎裏に来て。そしたら全部話すわ」
それまで笑顔だったちひろの表情はなんだか悲しげなものになっていた。そこに上級生が花をつけに来てくれたので、峻佑はちひろに「またあとで」と伝えて自分の割り振られた席へつくのだった。