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VOL.19:体育祭Part3 -障害物競走・後編-

『さあ、2年生の救助作業が終わったので、1年生のレースに参りましょう。エントリー人数は……35人ですね。紅組が18人、白組17人となります』

 実況が落ち着きを取り戻した声でしゃべり、1年生のエントリー選手35人がずらりとスタートラインについた。

「あのトリモチと壊滅暴風をどうするかが勝敗の分かれ目になることは確実ですよね。やはり、3年生みたいに誰かが犠牲にならないと攻略するのは無理でしょうか?」

 委員長はちひろにたずねてみた。

「そうだね。普通に真正面から突っ込んでもトリモチに引っかかってゴールできないのがオチだろうし……」

 ちひろは考えうる限りの一般論を委員長にぶつけつつ、

(あたしはチカラを使えばあの程度の障害なんてどうってことないけど、バレたら面倒だし、チカラを使わず、かつ無駄な犠牲を出さずに切り抜ける方法なんてあるのかしら?)

 もの思いにふけっていたせいで、委員長が呼んでるのに気づかなかった。

「――さん、真野さん、大丈夫? 聞いてる?」

「えっ? ごめん、考え事してて聞いてなかった。それで、何か言った?」

 ちひろは素直に謝り、もう一度聞き返した。

「だからね、私、目立たないけど中学のとき陸上選手だったんだ。種目は走り幅跳びとちょうどあのトリモチを飛び越えるには絶好のタイプなんだけど、問題はその距離なの。私の自己ベストは5メートルジャストで、あのトリモチもジャスト5メートル。イチかバチかの賭けに出るか、それとも3年生みたいに誰か犠牲を出してでも安全策をとるか、って話だったんだけど、真野さんならどうする?」

 委員長はちひろに作戦を話し、どうしようかとたずねた。

「一応、あたしも陸上部ではなかったけど、走り幅跳びは得意だった。あたしの自己ベストは4メートル99とあのトリモチを飛び越えるには少し足りない。けど、賭けてみる価値はあるわ。あたしたちの自己ベストを出せれば、引っかかっても自力で脱出できる」

 ちひろは委員長にウソを並べ立てた。一応走り幅跳びをやってはいたが、その記録は魔法で身体能力を強化した状態で出した記録なのだ。

「それじゃあ、その方向で行きましょう。目標は私たちのワンツーフィニッシュね」

 委員長はちひろとがっしり握手を交わし、互いの健闘を誓った。

『さあ、スターターピストルの故障で遅れていましたが、今度こそ1年生のスタートです』


 並んだまま待機させられていた1年生は多少列がバラけていたが、すぐに並びなおし――いよいよレースが始まった。


 やはりネットと平均台はあっという間に突破し、中盤の関門・トリモチ地獄に35人全員が到達していた。やはり上級生のレースで何人もの選手を沈めてきた関門だけに、両軍ともに動きがとれず膠着こうちゃく状態に陥った。と、そこに――

「行くよ、委員長いいんちょ!」

 ちひろがまず先に助走をつけて走りこみ、トリモチを飛び越えるため大きく跳躍した。あらかじめわずかに足に魔法をかけて普段より強化しておいたため、5メートルのトリモチをギリギリで飛び越えることに成功した。

「真野さん、やった! いま私も行きますね!」

 委員長はちひろの成功を喜ぶと、大跳躍を見せ付けられて呆然としているほかの選手たちの横を助走ゾーンにして、自らも跳躍した。しかし、わずかに跳躍のタイミングがずれ、足は飛び越えたものの、バランスを崩してお尻がトリモチにくっついてしまった。

委員長いいんちょ!」

 ちひろが戻ってきて委員長に手を差し伸べ、トリモチから救出したものの、勢いあまって2人ともすっ飛んだ。

「ありがとう、真野さ――え? いやああああああ!!」

 委員長はちひろに礼を言いかけ、ふと下を見て悲鳴を上げた。さっきまで穿いていたはずのハーフパンツがない。あわてて後ろを見ると、彼女の穿いていたハーフパンツがトリモチにへばりついていた。そう、トリモチから救出された際にハーフパンツだけが脱げてしまったのだ。

「あ――」

 ちひろは気まずそうにトリモチまで戻ると、ハーフパンツをどうにか引っぺがして、

「ごめん、委員長。勢いよく引っ張りすぎちゃったみたい」

 ちひろがハーフパンツを渡しながら謝った。

「ううん、大丈夫。まだほかの選手はトリモチでとまどってるみたい。今のうちに行きましょう!」

 委員長はすばやくハーフパンツを穿くと、再び走り出した。

『なんと、トリモチを恐れず走り幅跳びの要領で突破する荒業がでました! さて、ほかの選手は未だトリモチを突破できずにいる! だが、そろそろ突破しないと後が厳しくなるか!?』

 実況が委員長のハプニングに再びテンションを上げて叫んでいた。その声に反応したのか、トリモチを前に怖気づいていた残りの33人の選手たちが一斉に走り幅跳びの要領で飛び越えようとし始めた。だが、33人もいては狭いフィールドでぶつかってしまうことは必然である。その結果、まともに跳躍できたのは3分の1にも満たない、両軍合わせてわずか8人だった。先行するちひろや委員長と合わせてもわずか10人と、かなり厳しい状況に陥っていた。

「さ、最後の難関ね……どうする、委員長?」

 先行していたちひろたちもさすがに壊滅暴風はすんなり突破というわけにはいかず、立ち止まって作戦を練っていた。

「ここはやっぱり3年生がやってたように風が弱まる瞬間を狙うしか方法はないんじゃないでしょうか?」

 委員長は目の前で吹き荒れる風を見つめながらちひろに話した。

「そうよね、それしかないわよね……あっ、いま弱まった! うーん、大体弱まってる時間は5秒くらいね。弱まったらすぐに駆け抜けないと吹き飛ばされるわ」

 ちひろは風が弱まっている時間を推測し、次のタイミングを待った。と、誰かが後ろからちひろを突き飛ばした。

「きゃあっ!」

 ちひろは不意打ちに対し踏ん張りきれず、まだ暴風が吹き荒れる中に飛び込んでしまい、上空高く吹き飛ばされた。

『ああっ、先行していた紅組の真野選手、何者かの妨害工作で突き飛ばされ、竜巻に巻き込まれた! このままコースアウトしてしまうの――あれは!?」

 実況がちひろの危機を伝え、紅組の全員がその行方を見守っていた。すると、風の向きが良かったのか、吹き飛ばされたちひろはコース上、トリモチを抜けたところに着地し、戻ってきた。

「あ〜、びっくりしたぁ〜。あっ、今よ! 委員長!」

 ちひろは安堵のため息をついたところで、風が弱まるのを確認し、委員長と2人で飛び込んでいった。

『紅組の真野選手と、委員長こと酒井さかい選手、ワンツーフィニッシュで今ゴール! わずかに遅れて暴風エリアに飛び込んだ白組選手は次々と吹き飛ばされていき、無念の全滅! これで1年生のレースは終わり、紅組の勝利となりました』

 実況の声に、紅組陣地は歓喜の声に沸き、逆に白組では敗北したことで士気は下がっていた。


 一方、ゴールしたちひろと委員長は――

「やったね、真野さん! あの跳躍すごかったよ〜。あと、風に飛ばされたときに無事だったのは奇跡なのかな?」

 委員長はちひろとハイタッチで喜びを分かち合いつつも、ちひろに疑問を投げかけていた。

「う、うん。きっと奇跡だったんだよ。ところで、委員長の本名って‘酒井’って言うんだね。下の名前はなんていうの?」

 ちひろは話題をすり替えて委員長にたずねた。さすがに、吹き飛ばされたときに実は魔法で空を飛んで安全を確保してた、なんて言えるはずがない。

「やっと私の本当の名前を覚えてもらえるんだ。私の名前は酒井 晴香はるかって言うの。わたしもちひろって呼ぶから、私のことも晴香って呼んでくれるとうれしいな」

 委員長改め晴香はちひろにそう頼んだ。

「わかったわ、晴香。ついでだから、峻佑くんにも言っとくね。もう委員長なんて呼び名はやめてあげて、って」

 ちひろは頷き、今ここに新たな友情が生まれたのだった。


『これで午前中の種目は全て終了です。各自昼食をとって午後の競技に備えてください。午後の競技は午後1時から、男子騎馬戦で開幕します』

 紅白両軍で明暗がはっきり分かれる中、実況の声がグラウンドに響き渡った。



なんだかんだで障害物競走を攻略したちひろと晴香。

昼食を挟んで、午後の競技は何が待ち受けているのか?

そんなわけで、次回、VOL.20:体育祭Part4 -午後の競技・開幕-(仮)

お楽しみに!


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