VOL.18:体育祭Part2 -障害物競争・前編-
「障害物競争はあたしと委員長の出番ね。行きましょっ!」
ちひろはたった今借り物競争で峻佑と一緒に疾走したにも関わらず、元気に立ち上がると委員長に声をかけた。
「はい、行きましょうか」
委員長はまだ種目に出ていない分、体力は十分なようで、ちひろとともに紅組陣地を飛び出した。
「ちひろ、委員長、2人とも頑張れよ。さっきの借り物のときにいろいろと変な借り物が交じっていたことから考えて、障害物にもきっと妙な仕掛けが……ってなんじゃありゃ!?」
2人を励まして送りだそうとした峻佑が何気なく競技場のほうを見ると、そこには――
『今年の障害物競争の目玉はコースの最後に控える最強最悪の障害、その名も“壊滅暴風”! コース脇に設置された2台の巨大扇風機によって左右から吹き荒れる風はもはや竜巻にも匹敵する威力! 選手はこれに耐えきってゴールしなくてはなりません!』
コース上に用意されたバカでかい機械に騒然となる生徒たちに向かって放送委員が解説を入れているが、それを聞いてさらにざわめきは大きくなった。
『なお、その他の障害は一般的なネットくぐり、平均台、ああ、これは一般的とは言いがたいですが、トリモチ地獄が仕掛けられ、それを抜けると壊滅暴風が待ち受ける、そんなコースになっています』
コース解説が終わると、あちこちからブーイングが巻き起こっていた。
「ちひろ! 委員長!」
峻佑はまだ近くにいた2人を呼び止め、
「峻佑くん、どうしたの?」
ちひろは振り向いて聞き返した。
「あんな危険な障害物のあるコースだ。2人とも、無理に勝とうとしなくていいから、無事に帰ってきてくれ」
峻佑はちひろたちに真面目な顔で話した。
「……うん、わかった。やれるだけはやるけど、無理はしないよ」
ちひろはちょっと考える素振りを見せた後、峻佑に笑い返した。
「さ、もうすぐスタートだ。呼び止めたりしてごめんな」
峻佑は一言謝って2人を改めて送り出した。
「真野さんって市原くんと仲いいんだね。幼なじみなんだっけ? うらやましいな、私にはああいう風に言ってくれる男子なんていないよ。さっきの市原くんは私にも言ってくれたけど、それはきっと真野さんのついでだっただろうし……」
入場門へ向かう途中で、委員長がちひろに話しかけた。
「うん、峻佑くんとは10年前まで家が隣同士で、この高校で10年ぶりに再会したの。そんなに心配しなくても、さっきの峻佑くんの言葉は委員長に対してもあたしと同じくらいの重さを投げかけてくれてたはずだよ。峻佑くんは優しいし、ああいう場面で差をつけない人だからね」
ちひろは思ったままを委員長に話す。
「そっか。うん、これで心配事はなくなった。私、頑張れる!」
委員長はグッと拳を握りしめてつぶやいた。
「コースはかなりきつそうだけど、頑張ろうねっ!」
ちひろは委員長と励ましあいながら、入場門までやってきた。
『この種目は学年ごとにエントリーした全員が一斉にスタートすることになります。複数エントリーを認めたのはそのためで、自らを捨て駒にしてチームに貢献するか、はたまた捨て駒となった仲間の屍を越えてゴール目指して駆け抜けるか、作戦が重要になってきます。なお、レース中、相手選手を妨害する目的でのドツキ行為は認められます。まずは3年生のレースですのでスタンバイしてください。エントリー数は8クラスで計30人。紅組16人、白組14人となっています』
実況の声とともにスタートラインには30人の選手が3列に配置された。そして――
おなじみの乾いた音とともに、3年生のレースがスタートした。まず序盤のネットくぐりや平均台までは全員が一気に駆け抜けたものの、その先に待ち受ける5メートルのトリモチ地獄エリアを前にしてとまどいを隠し切れていなかった。
1、2分ほど経ったそのとき、紅、白両軍ともに数名の選手が自ら仲間に「自分の上を踏んでいけ」と頼んでトリモチに突撃してその身を散らし、残った選手はすまないと謝りながら1人ずつトリモチにへばりついた仲間の背中を駆け抜けていった。だが、途中で足を滑らせてトリモチに散った選手も出てしまい、その数を減らしていった。
『中盤の難所、トリモチ地獄を数名の選手の自己犠牲により抜けた選手たちですが、果たして最後の難所にどう立ち向かうのか!? 救助班、トリモチ地獄にて散っていった選手の救出を頼みます。現在、生き残りは紅12人、白9人です』
トリモチ地獄を抜けた選手たちの背に実況の声が響く。彼らの目の前には、巨大扇風機が待ちかまえている。
と、紅組の選手のひとりが風速に強弱があることに気づき、うまくタイミングを取ると、風が弱まった瞬間を狙って突撃をかけた。しかし、わずかにタイミングがずれてしまい、彼が通り抜ける瞬間に風が再び強くなったことで発生した竜巻に巻き込まれ、コースの外にまで吹き飛ばされてしまった。と、そこからヒントを得た選手が次々と突撃をかけたが、ことごとくタイミングを外して吹き飛ばされてしまい、気がつくと両軍の生き残りはそれぞれ2人しかいなかった。
『さあ、最強最悪の障害の前に選手たちも壊滅寸前か? 生き残りは両軍ともに2人! なお、誰もゴールできずに全滅となった場合は引き分けとなります』
実況の声を背に、タイミングを取っていた生き残りの選手4人が吹き荒れる風へと突撃をかけた。
『おーっと、4人全員が暴風を抜けた! あっと、紅組の選手がひとり白組の選手に突き飛ばされて風の中へ押し戻されてしまった! そこへ容赦なく風が巻き起こり、もはや万事休す!』
実況が興奮気味にマイクをつかんで叫び、紅組陣地では大ブーイングが起こっていた。
結局、3年生30人のうちゴールできたのはわずか3人にとどまり、白が1位と3位、紅が2位を獲得したのだった。
その後の2年生のレースでは両軍合わせて25人がエントリーしていたものの、トリモチと壊滅暴風の前に全滅した。
『さあ、1年生のレースへ……といいたいところですが、トリモチに散っていった2年生の救助作業がまだ終わらないので、少々お待ちください』
放送委員の実況に選手席や観客席のあちこちで笑いが起こるのだった。
3年生のほとんどと2年生全てを葬り去った最強最悪の障害物に対し、ちひろや委員長はどう立ち向かうのか?
次回、VOL.19:体育祭Part3 障害物競走・後編! お楽しみに!
……委員長の本当の名前が明かされる?
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では、また来週〜。