VOL.13:Let's大掃除! -峻佑の部屋に隠されしモノ-
翌日、太陽が南の空高く昇ってその日差しを惜しげもなく地面に向けて照らしているころ――
「よし、これで峻佑くんの部屋以外はきれいになったね。それにしても、峻佑くん起きないなぁ。みちる、峻佑くんいい加減起こしてきて。もうあそこだけだから手段は問わないわ」
ちひろは掃除機を止めて軽く汗をぬぐうと、みちるに峻佑を起こしてくるよう頼む。その顔はニヤリと笑っていた。
「わかった〜」
みちるはあえてちひろの笑みには触れずに軽く頷くと、階段を上がっていった。
「峻佑くん、あと掃除するのここだけだからいい加減起きて〜」
みちるは峻佑の部屋のドアをノックしながら呼びかける。
「…………」
しかし、部屋の中から応答はない。
「ん、もう! 開けるよ!」
みちるはドアを押して開けようとした……のだが。
「あれ、開かない!? こらー! 峻佑くん、開けなさーい!」
みちるがドアを激しくノックしていると、
「いくら頼んでも開けないよ。オレは少し散らかってるのが一番落ち着くんだ。一応片付けはしてるから心配いらないよ」
部屋の中で峻佑がそう言うのが聞こえた。と、そこに、
「みちるー? まだ峻佑くん起きないのー?」
掃除機を持ってちひろが階段を上がってきた。
「お姉ちゃーん、峻佑くん、起きてはいるみたいだけど部屋に閉じこもって出てこない〜。ドアも開かないし……」
みちるはちひろに現状を伝えた。
「なるほど、ドアの裏に本棚を移動してバリケードにしたのね。いいわ、あたしがやる。峻佑くーん? あたし昨日言ったよねー? 抵抗しようとすればどうなるか……って。それでもまだ出てこないつもりー?」
ちひろがドアをノックして中の峻佑に呼びかけ始める。
「ま、またドアをぶっ壊すつもりか?」
峻佑はちひろの登場に多少動揺したのか声が上ずっている。
「ううん、さすがに直すのに手間がかかるから、そんなことはしないよ。でもね、こうしちゃえばどう?」
ちひろが指をパチンと鳴らした直後、ドアの向こうでガタガタと何かが動き出す音が聞こえた。
「げっ! バリケードが!?」
峻佑が部屋の中であわただしく動き回るような音がしているが、その隙に2人はドアを開けた。
「さ、もう逃げられないよ。おとなしく掃除しましょっ!」
ちひろが掃除機を片手に峻佑にそう宣告した。
「うぅ……わかったよ。でも、10分だけ待ってくれ。捨てられちゃ困る本だけしまうから。大丈夫、もう逃げない」
峻佑は諦めたのかがっくりとうなだれて頷くと、いったん2人を部屋の外に追い出して、これまでひそかに集めていた秘蔵の本をクローゼットの奥にある自作の隠し扉の中にしまっていった。
と、そのとき。
「峻佑くーん、やっぱりそろそろお昼になるからいったん休憩に……」
ちひろが突然ドアを開けて入ってきた。
「うわぁっ! いきなり開けるなって! こないだ『ノックは大事だよ』って言ってたのはなんだったのさ!?」
峻佑はあわてて持っていた雑誌を後ろ手に隠したが、隠しきれず床にバサバサと落ちてしまった。
「あはは、ゴメンゴメン。あれっ? 峻佑くん、何か落ちた……よ……」
ちひろが床に落ちた雑誌を拾おうとして、ぴたりと動きが止まった。
「うわぁっ! 見るな! お願いだから見ないで――!」
峻佑が叫びながらちひろから雑誌を取り返したがもう遅い。
「峻佑くん……捨てられちゃ困る本って、そういうののことだったの……?」
ちひろが身体を震わせながら峻佑に問いかける。
「え、えーっと……ち、違うんだ! これは……そう! 友達のを預かってるんだ! だから捨てられると困るんだ!」
峻佑はウソで固めた言い訳をしてみるが、姉妹の視線は冷ややかだった。
「こんな……こんなえっちな本を持ってちゃダメ―――! 全部没収っ!」
ちひろは叫ぶと、隠し途中だったものも含め、峻佑の秘蔵のエロ本を没収し、ゴミ袋に放り込んだ。峻佑も抵抗しようとしたが、みちるの魔法で床に押さえつけられ、万事休す。
「さ、お昼にしよっ! あ、そこのゴミはさっさとどこかにやらないとあとで取り返されたら意味ないね」
ちひろは峻佑の本をゴミ呼ばわりして空間に開けた穴に放り込んで捨てた。それらを捨て終わるのを確認すると、みちるはようやく笑顔を取り戻して峻佑を押さえつけていた魔法を解いた。
「あ、ああ……」
峻佑は秘蔵のコレクションが捨てられたショックで苦笑いするのがやっとだった。
時間は戻って、その日の朝、西園寺家。
「さてと、何か面白いものは映ってるかしら?」
なつきは目を覚ますなり、市原家に仕掛けたカメラの映像に見入っていた。無線でリアルタイムに映像をチェックできる優れもののカメラ(暗視モード付き)を仕掛けてきたので、夜でも昼でも今現在の市原家の様子が手に取るようにわかるのだ。
「な、何よこれ……」
昨夜録画された映像から見始めたなつきは、いきなり驚かされていた。というのも、昨夜市原家の玄関先においてきた等身大の人形が、いつの間にか粉々になっていたのだ。決定的瞬間こそ映っていないものの、わずか2〜3秒の間に粉々にするなど、普通はできない。
「どうなってるのかしら……」
なつきは人形が粉々になる瞬間を丁寧にスロー再生してみることにした。すると、
「こ、これは!?」
一瞬の映像だったが、暗闇の中で何かが光り、それが収まると人形が粉々になっていたのだ。
「うーん、まだ証拠としては不十分ね。もっと調べてみないと」
なつきは唸ると、リアルタイムの映像に切り替えた。
「……彼女たちはホント何者なのかしら……?」
なつきが観察を続けていると、峻佑と姉妹の口論らしきものの直後、峻佑の部屋の本棚が勝手に動き出して姉妹が突入してきたり、さらに、床に倒れている峻佑の横で黒い空間が出現してゴミ袋を飲み込んでいたりと常識ではありえないことが連発していた。
「仕方ない、この映像を証拠に直接訊いてみるしかなさそうね。このままじゃいくら考えても答えは出なさそうだし」
なつきはため息を一つ吐くと、残りを録画に切り替えるのだった。
市原家に仕掛けた盗撮カメラの映像を見たなつきは何をたくらんでいるのか?
次回、『VOL.14:生徒会、再び(仮)』お楽しみに〜