VOL.12:生徒会、動く(後編)
その日の放課後。
「なるほど、市原くんは現在同級生の双子の姉妹と同居してるのね。住所は……と」
ノートパソコンをカタカタと叩きながら、生徒会書記長、西園寺 なつきは頷いていた。
「さて、それじゃ必要な情報は職員室のパソコンにハッキングして集めたし、身辺調査を始めましょうかしら。あっ、ちゃんと証拠は消しておかないとね」
なつきはまたカタカタとパソコンを操作すると、電源を切り、すでに日が暮れて誰もいなくなっていた教室を後にした。
「え? 冷蔵庫の中身が空っぽ?」
峻佑はちひろに聞き返した。
「うん、この通り。昨日の夜に使い切って、今日うっかり買い物行くの忘れちゃったから全くないの。買い物行く?」
ちひろは冷蔵庫を開けて峻佑に見せると、そう峻佑に訊ねた。
「今からじゃもう遠出しないと店が開いてないな。……よし、今日はどっか外にでも食べに行こうか」
峻佑はチラッと時計を見て少し考えてから2人に持ちかけた。
「そうだね。もう夜の8時を過ぎちゃって近くのスーパーも閉まっちゃったし、外で済ませちゃおうか」
ちひろは頷くと3人で家を出た。
「うわぁ、今夜はずいぶん蒸し暑いな……」
家を出た途端、峻佑はげんなりして着ていた上着を脱ぎ、家の中に放り投げると、改めて出発した。
(お、どこかに出かけるようね。チャンスだわ、今のうちにコイツを仕掛けておきましょう)
物陰から市原家の様子をうかがっていたなつきは、カバンから小型カメラを取り出し、数人の部下らしき連中と素早く市原家の庭に侵入し、数ヶ所にカメラを仕掛けていった。
「ふう、こんなもんかしら。これでしばらく観察して、会長に報告ね。さあ、撤収しましょう」
なつきはカメラを仕掛け終わると、軽く汗をぬぐって部下たちに撤収宣言を出した。
「そういえばなつきさん、あの噂は知ってますか?」
撤収準備を進める中、部下の1人――部下Aがなつきにそうたずねた。
「噂って、入学式の朝に女子生徒が1人上空から降ってきたとかいう、アレのこと?」
なつきは自分の知っている範囲で当てはまるものを答えると、
「ええ、それなんですけど、どうやら噂じゃないらしいんですよ。なあ?」
部下Aは別の部下――部下Bに話を振った。
「ええ。自分は全部見ていました。校舎の3階くらいの高さに突然女の子が現れて、ゆっくり降りてきたと思ったら、男子生徒を1人下敷きにして着地していました」
部下Bは見たまんまのことを話し、
「それをあとで調べてみたら、女の子は真野姉妹の姉、ちひろで、男子生徒は市原峻佑だったというわけです」
部下Aがそう補足した。
「それで? 真野姉妹が何か怪しいとでも?」
なつきは部下たちにたずねてみた。
「どうにも気になるんですよね。上空から降ってくるなんてただごとじゃないですよ。しかもヘリとかから降下してきたわけでもなく、まるで小説やマンガの世界の魔法使いのように突然その場に現れてるんですから」
部下Aは首をかしげてそう話した。
「それじゃあ、驚かせて動揺させてみましょうか。コレが暗闇の中突っ立ってたら結構怖いと思うのよね。もし彼女が本当に物語の中の存在みたいなものだったらきっと動揺した瞬間にボロを出すんじゃないかしら?」
なつきはニヤリと笑いながらカバンの中から等身大の人形を取り出し、組み立てると、玄関先に立てかけた。
「さあ、撤収するわよ。カメラの映像チェックは私が責任持ってやるから、あなたたちはしばらく待機してていいわ」
なつきは指示を飛ばすと、今度こそ部下たちとともに市原家を立ち去った。
一方、そのころ峻佑たちは、駅前の牛丼屋で夕飯を食べていた。
「そういやさ、再会したときからずっと聞こうと思ってたことがあったんだけど、いい?」
峻佑が食べ終わったところで突然話を切り出した。
「ん? なーに?」
2人ともまだ食べていたが、一度食事を中断して峻佑に話の続きを促した。
「まあ、別に大したことじゃないって言っちまえばそれまでなんだけど、2人と再会する前の日の夜、ガキの頃に2人と別れた日の夢を見たんだ。それまでほとんど忘れてたんだけどな。そんで、その夢の最後に、このブレスレットをもらって、さらにその後何かあった気がするんだけど、思い出せないんだ。ちひろやみちるはそのときのこと覚えてる?」
峻佑は両手につけたブレスレットを見せながらたずねた。
「うーん……ごめん、覚えてないかな。きっとホントに大したことじゃないんだよ」
ちひろは謝ったものの、顔は笑っていた。
「そっか。まあ、10年も前の話だしな。悪いな、変なこと聞いて。でも、なんで笑ってるの? オレ何か変なこと言った?」
峻佑は一言謝って引き下がろうとしたが、2人が笑ってるのが気になってさらにたずねた。
「ううん、なんでもない。笑ってるのもこっちの事情だから気にしないで」
ちひろたちは首を振って何もないことをアピールすると、冷めはじめていた牛丼の残りを食べたのだった。
(ホントは覚えてるけど、まさかあのときに2人で峻佑くんにキスしたなんて恥ずかしくて言えないよ……)
みちるは峻佑の顔をうかがいながら心の中でつぶやいていた。と、そのとき。
「ん、みちる? どうかした?」
峻佑が不意にみちるの顔をのぞき込んでいた。
「えっ!? ううん、大丈夫だよっ!」
みちるは突然のことに焦りながらも、首を振って応えた。
「そうか、それならいいんだけどな。さて、腹も落ち着いたし、そろそろ帰ろうか」
峻佑はそう言って立ち上がると、3人分の会計を済ませ、牛丼屋を後にした。
その帰り道、
「明日は休みだけどどっか行く?」
峻佑は横に並んで歩くちひろとみちるにたずねた。
「そっか。明日は祝日か……そんじゃさ、お掃除しようよ。特に峻佑くんの部屋。男の子の部屋だからって言っちゃえばそれまでだけど、いくらなんでもあれは汚すぎだよ」
ちひろは少し考えてからそう提案した。
「あっ、さんせーい。こないだの朝見たときからやりたかったんだよね〜」
みちるも賛同し、2人で峻佑のほうを見るものの、
「え〜!? 別にあれくらい散らかってた方が落ち着くんだけど……」
当の峻佑が全く乗り気じゃなかった。
「ダーメ。あーんな散らかってる中で生活してたらホコリとかで病気になっちゃうよ? はいもう決定。明日は朝から峻佑くんの部屋を中心に大掃除するよ。あ、ちなみに逃げたり抵抗しようとしたら……どうなるか想像つくよね?」
ちひろとみちるは2人で一気にまくしたてた上、笑顔で脅しをかけて峻佑の反論を封じ込めたのだった。
「しまった。玄関の電気をつけておくべきだったな……」
峻佑は暗い玄関に後悔しながらも、手探りで玄関のカギを開けようとした。
「小さい明かりなら出せるけど、どうする?」
ちひろが峻佑の前に手のひらを差し出しながら提案する。
「いや、こんなところで魔法なんて使って、誰かに見られたら面倒だろ? だから何とかするよ」
峻佑はやんわりとちひろの手を押し返し、ドアのカギ穴を手探りで探していた。と、何かに肩がぶつかり、それが後ろにいた姉妹のほうへ倒れていくのがわずかに確認できた。
「あれ、何か倒れたぞ? ところで、そんなもん玄関先にあったっけか?」
峻佑がいったん振り向いてちひろに話しかけた。
「うわっと! もう、何よこ……れ……」
倒れてきたものを受け止めたちひろの顔が見る見る青ざめていき、
「きゃあああああ!」
絶叫の末、マネキンはちひろの魔法で粉砕されていた。
「誰のイタズラか知らんが、夜中にマネキンとはなかなかに不気味だな。でも、あれはやりすぎじゃね? しかもオレが意地を張ったせいで結局魔法が暴走してるし……」
峻佑が粉々になったマネキンを見て後悔と呆れが合わさったようなため息をつくのだった。
――この瞬間がなつきたちの仕掛けたカメラに撮られていたことをまだ3人は知らない――
生徒会が調査のために送り込んだなつきの仕掛けたカメラによってちひろが魔法を使った瞬間が撮られてしまった!?
果たして、峻佑やちひろたち姉妹、そして盗撮カメラを仕掛けたなつきたちはこの後どう動くのか?
次回、『VOL.13:Let's大掃除!(仮)』お楽しみに!
今週も読んでいただきありがとうございました。
それでは、今週はこの辺で。