VOL.11:生徒会、動く(前編)
探検に費やした週末が終わり、また一週間が始まる。
「あれ、まだちひろもみちるも起きてないのか……そろそろ起こさないと遅刻するな」
朝7時15分、珍しく早起きした峻佑は朝食のパンをトースターに突っ込んでから2階に上がり、自室の隣にある姉妹の部屋の扉を開けた。と、その瞬間時が止まったように感じた。
「あ……」
まだ寝てると勝手に思い込み、ノックもなしに扉を開けた峻佑の視界に飛び込んできたのは、着替えの最中で、下着一枚の2人の姿だった。
「ご、ゴメンっ!」
峻佑は慌てて扉を閉めて立ち去ろうとしたが、それより早く、
「きゃあああ! 峻佑くんのエッチ――!」
2人の絶叫とともに閉めた扉が外れて吹き飛び、階段を逃げるように駆け降りようとしていた峻佑に直撃し、峻佑はドガシャン、と派手な音を立てながら扉と一緒に階段を転げ落ちていった。
「いてて……」
登校の道すがら、峻佑は階段から落ちたのと扉の直撃を受けたダブルの痛みにうめいた。
ちなみに、壊れた扉はすぐさまみちるが魔法で修理していた。
「ちょっとやりすぎちゃったのは謝るけど、でも今回は峻佑くんだって悪いよ。女の子の部屋はちゃんとノックしなくちゃ」
ちひろはちょっと怒った仕草で峻佑に話した。
「ああ、今日は珍しくオレのほうが早く起きたから起こしに行こうと思ったんだが、うっかりノックを忘れて開けちまったんだ。ホントすまなかった」
峻佑は素直に2人に謝ることにした。でないと次はどうなるかわからない。
「今回はもういいよ。でも次やったらたぶんこんなもんじゃ済まないよっ♪」
2人に笑顔でそう言われ、峻佑は立ち止まって震え上がっていた。
「あれ、峻佑くん、どうしたの? 早く行こうよ」
峻佑が後ろのほうで立ち止まっていることに気づいた2人が駆け寄ってきた。
「ああ、そうだな。すまんすまん」
峻佑ははっと我に返ると、2人とともに歩いていった。
昼休み、峻佑がちひろやみちると教室で昼食を取っていると、
[1年4組の市原峻佑くん、特別教室棟4階の生徒会室まで来てください。繰り返します――]
突如として峻佑は放送で呼び出された。
「峻佑、お前何か呼び出しくらうようなこと、あるいは生徒会に目をつけられるようなことをやったのか?」
近くにいた耕太郎がたずねてきた。
「なんだろうな? 特に身に覚えはないが……まあ、行ってくる」
峻佑は首を傾げながらも食べかけのパンを置いて教室を出た。
「特別教室棟4階……ここだな」
峻佑は‘生徒会室’というプレートが下がった部屋の前に着くと、ノックをした。
『どうぞー』
中からそんな声が聞こえてきたので、峻佑は「失礼します」と言いながら扉を開け、「あっ」と小さく声を上げた。
「ようこそ市原君。そしてこないだはありがとね」
部屋の中には、つい数日前に峻佑が痴漢から助けた女の子、仙堂雲雀と知らない男子生徒が1人いるだけだった。
「えーと、仙堂先輩でしたっけ? 先日東松海の駅でお会いしましたよね」
峻佑がそう挨拶すると、
「あ、名前覚えててくれたのね。改めて自己紹介をしましょうか。わたしは竹崎高校生徒会副会長、2年1組仙堂雲雀。あなたを呼び出した理由はそこの会長から聞いて」
雲雀は生徒会副会長の職にあることを付け加えた自己紹介をした。
「そして、僕が生徒会長、3年3組の一条 流星だ。さっそくだが本題に入ろう。市原君、君を次期生徒会役員としてスカウトしたい。君のような正義感の強い人材が生徒会には必要なんだ」
生徒会長の一条と名乗った青年は、静かに峻佑に告げた。
「は? なんでいきなりそんな話に……?」
峻佑はあまりにも突然すぎる話に困惑を隠せないでいた。
「先日の痴漢退治の武勇伝は仙堂副会長から聞いた。実に勇敢ではないか。それでだな……」
一条は生徒会のシステムを説明した。それをまとめると、こうなる。
この学校の生徒会は変わったシステムをしていて、他の学校のように一般生徒の選挙によって役員を決めるわけではなく、当代の役員が一般生徒の中から見込みのある生徒を自らスカウトして決めるやり方であり、一条たちも先代の役員たちからスカウトされて生徒会入りしている、必然的に、選ばれた生徒は他の一般生徒に対し多少なりとも強い権限を持てるということらしい。
「なるほど、確かに変わったシステムですね。でも、すみませんが辞退させていただきます。権限とか権力とかに興味はないし、あの日仙堂先輩を助けたのはただの偶然だったわけですから。では、失礼します」
峻佑はそう言って一礼すると、生徒会室を後にした。
「……仙堂副会長、彼を諦められるか?」
一条が雲雀に問う。
「彼はきっと次世代の生徒会役員として活躍してくれる。そう簡単に諦められないわ」
雲雀が静かにそう話した。
「ええ、どうにかして彼を生徒会に入れたいわね。ああいうかわいい1年生は放っておけないわ」
と、そこに突然第3の声が聞こえてきた。
「なつき、いたのか。なにかいい方法はないか?」
一条は第3の声をなつきと呼び、たずねた。
「とりあえず、彼についてはこの生徒会書記長兼、隠密調査部長の西園寺 なつきが調べてみるわ」
なつきはそう言いながら生徒会室を出ていった。
「さて、我々も授業に向かうとしよう。彼についてはなつきの調査結果を待ってもう一度スカウトする。調査結果によっては脅迫も辞さない。それでいいか、仙堂君?」
一条もイスから立ち上がって生徒会室の扉を開けながら雲雀にたずねた。
「ええ、わかったわ。でも、できれば脅迫なんてしないで彼が自主的に入ってくれればいいんだけど……」
雲雀は頷きつつ、2人は生徒会室を後にしたのだった。
今週も読んでいただきありがとうございました。
また来週、お会いしましょう。
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