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深夜。空では白い月が狂ったように笑っている。付き従う星々もまた月につられたように哄笑を挙げている。
――嗚呼、いい夜。
そんな夜空を見上げながら、男はうっすらと、艶やかな笑みを浮かべた。
最近巷を賑わせている事件がある。
10代の少年少女たちが立て続けに、この3日間だけで行方不明となっているのだ。
少年達は皆友人や親、誰かと一緒にいたにもかかわらず、ふとした瞬間から、あるいは別れたその後から一切詳細がわかっていない。警察は当初この事件を少年達の遊び歩きのようなものとして一切重視していなかった。だが、事件初日から3日間で7人の少年少女たちが行方不明となった。中には12歳になったばかりの幼い少女まで含まれている。父親がふと目を離した一瞬のうちに姿を消していたのだ。
様々な憶測が飛び交うも事件は解決の兆しら見えなかった。
ゴシップ好きの記者達は警察の職務怠慢と紙面を躍らせ、あるいは連続誘拐事件の犯人像を好き勝手に述べ、事件の混乱に拍車をかけた。
そのため、今この街では夜に一人歩きをする者は皆無と言っていいほどにいない。
だが、それでも自分は絶対に事件に会うことは無いと思い込んでいるのか、一人歩きをする者は極少数いた。
それはあるいは自らが犯人だとわかっているからかもしれない。
――彼、あるいは彼女は今宵も生贄の羊を探す。
路地裏を一人軽やかな足取りで歩くのは女性。
過度でない程度の、それでも豪奢と言ってもいいほどのドレスを着た女性は鼻歌を歌い上機嫌に月を見上げながら歩く。そうしていると、女性は道を間違えたのだろうか。不良たちの溜まり場たる一画にたどり着いた。
げらげらと下品に笑いながら話をしていた四人の少年達が女性に気付いた。
「おい」「あ?」「ヒュ〜」「へぇ」
現れた上玉と言える女性に少年達はそれぞれに声を上げる。女性はと言うと、最初「あら?」と言った風な表情をした後、下卑た笑みを浮かべる少年達に息を飲み。一歩、後退った。
「ヘ〜イ、どうしたの彼女?」
「俺らと遊ぶ?」
「結構金もってそうじゃね?」
「おいおい、どうするよ」
少年達が嗜虐的な下卑た笑みを浮かべながらじりじりと、女性ににじり寄る。
女性は恐怖で顔を彩ると、後ろを向き一目散に逃げ出した。
当然、せっかくの上玉を逃がすわけも無く少年達は追いかけた。
走る女性。後ろからは少年達の下品な声が投げかけられてくる。
わずかな月明かりと、覚えている道の記憶だけを頼りに路地裏を走る女性。もうすこし走れば十字路に差し掛かる。女性の顔には先ほどまでの恐怖に怯えた表情が嘘かのように凄烈な笑顔が張り付いていた。
十字路を曲がると手ごろな暗がりに身を隠す。そうして少年が追いついてくるのをじっと待つ。そう時間も経たずに足音が一つやってきた。女性は満面の笑みを浮かべゆっくりと暗がりから身を出すと、驚いている少年に抱きつき、熱い接吻をした。
女性の唇からは朱い雫がひとつ、零れ落ちた。
連続誘拐事件から四日目。今度は3人の不良少年達の消息がわからなくなった。その仲間で、唯一無事だった少年は警察に駆け込むや否や、自分の見たことの顛末を話した。少年は錯乱しているようで、言っていることはおよそ理解できるようなものでは無かった。
小年は病院に搬送された。
判ったことはこれで被害者は10人になり、一人の女性が容疑者として浮かび上がったと言うそれだけであった。
事件から五日目。ついに被害者は12人になった。
警察側としてはそれだけでも頭が痛いというのに、現状での最高重要参考人である少年が病院から消えたと言う。
そうして、その日の朝。警察に一人の少年による電話があった。
「郊外にある焼け落ちた廃屋。そこに皆居る」
それだけを言って電話は切れた。疑わしく思いはしたものの、何でもいいから進展の欲しかった警察はその場所へと向かった。
そこには元は少年少女達であったのだろうか。散乱した肉群と、元が人間であったのかどうかすら疑わしい、無機質的な朽ち果てた女性体らしい木乃伊が一つ。
ここで何があったのか。犯人は誰であったのか。電話をしてきた少年は誰だったのか。
様々な疑問を残しながらもこうして連続誘拐事件は、連続誘拐殺人事件としてとりあえずの幕を引いた。
――――様々な謎と、不快感だけを残し……
最後に何故今までそこに気付けなかったのか疑問は残るものの、被害者達の共通点がわかった。それは、少年と少女は対になっていたということだ。
これが一体何を意味するのか。
こうして疑問が一つ、増えた。




