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EP 8

ルナ、道路を破壊する

「よし、断熱材の充填完了。気密シートの施工も完璧だ」

『黒霧の丘』改め、高宮邸建設現場。

優也は、組み上がった壁の断面をチェックし、満足げに頷いた。

日本の建築基準法、さらには寒冷地仕様(北海道基準)をクリアする高気密・高断熱住宅。

外壁には、キャルルとガイマックスが圧縮した「野菜レンガ」の上に、ドワーフ製の漆喰を塗っているため、強度も魔力耐性も抜群だ。

「あとは外構(家の周り)の整備だな。玄関までのアプローチを作らないと、泥だらけになる」

優也が図面を確認していると、視界の端で金色の髪が揺れた。

エルフのルナだ。彼女は、みんなが働いている中で自分だけ役に立っていないことを気にしていた。

「あの……優也さん! 私にも何か手伝わせてください!」

「気持ちは嬉しいけど、ルナの魔法は威力が強すぎて……」

「大丈夫です! 手加減覚えました! ほら、そこのボコボコした道、私が綺麗に平らにしますから!」

「え、ちょっと待っ――」

優也が止める間もなく、ルナは杖を振り上げた。

彼女の瞳が、使命感に燃えてキラキラと輝く。

「大地の精霊よ! 凸凹をなくして、ツルツルにして! アース・フラット!!」

ズゴゴゴゴゴゴゴ……!!

嫌な音が響いた。

ルナの放った魔力は、地面の表面だけでなく、地中深くまで浸透してしまったのだ。

土粒子が極限まで微細化され、液状化現象のような状態になる。

「あれ……? なんか、地面が……?」

「ルナ、伏せろぉぉ!!」

ドシャアアアアアアン!!

優也の絶叫と共に、建設予定地の前面道路――幅6メートル、長さ50メートルに渡る道が、音を立てて陥没した。

綺麗に平らになるどころか、巨大な地割れと泥沼が出現していた。

「あ、あわわ……! ごめんなさいぃぃ!」

ルナが涙目でへたり込む。

キャルルとリカが駆け寄ってきた。

「主様! ご無事ですか!?」

「あらあら、派手にやったわねぇ。これじゃあ、資材運搬車も通れないわよ?」

優也は泥だらけになりながら、陥没した穴の底から這い上がった。

普通なら激怒する場面だ。損害額は金貨数十枚にのぼる。

だが、優也は穴の断面をじっと見つめ、ニヤリと笑った。

「……いや、怪我の功名だ」

「へ?」

「ちょうどいい深さまで掘れてる。これなら、『アレ』を埋められるぞ」

優也の目が、建築士から「都市計画プランナー」の目に変わった。

「どうせ直すなら、ただの土の道には戻さない。……この異世界に、『完全舗装道路アスファルト・ロード』と『上下水道』を通す!」

「全員集合! 緊急夜間工事だ!」

優也の号令と共に、スマホから二人の男が召喚された。

筋肉の巨人・ガイマックスと、胡散臭い魔導師・ザーマンスだ。

「ヌンッ! 筋肉マッスル残業か! 望むところだァ!」

「ヒヒッ、追加料金は頂きますよぉ?」

優也は図面を広げ、矢継ぎ早に指示を飛ばした。

「まずガイマックス! 陥没した穴の底を突き固めろ! 路盤材(砕石)の代わりに、近くの河原の石を砕いて敷き詰めろ!」

「了解! ローリング・ストーン・プレスッ!!」

ガイマックスが自身をボールのように丸め、穴の中で高速回転する。

その凄まじい遠心力と重量で、緩んだ地盤が鋼鉄のように締め固められていく。重機ロードローラー顔負けの転圧だ。

「次、ザーマンス! お前の魔法で『ヒューム管(コンクリート管)』を出せ! 3分で消える前に埋設して、ルナの土魔法で周りを固定する!」

「へいへい、お安い御用で! クリエイト・パイプ!」

ザーマンスが指を鳴らすと、直径50センチの土管が次々と出現する。

それをキャルルが超スピードで運び、ガイマックスが並べ、ルナが土を被せて固定する。

3分経ってザーマンスの魔法が解けても、ルナが生成した土壁がパイプの形状を維持しているため、完璧な「土魔法製の下水管」が完成した。

「よし! これでトイレも風呂も水洗化できる! 最後は舗装だ!」

異世界の道は、雨が降れば泥濘ぬかるみ、馬車が通ればわだちができる。

だが、優也が目指すのは「メンテナンスフリー」の道路だ。

「ザーマンス! 黒くて粘り気のある『アスファルト合材』を出せ! 温度は160度!」

「アチチッ! はいよぉ!」

ドロドロの黒い塊が出現する。

優也はトンボ(整地用具)を構えた。

「キャルル、敷き均せ! ガイマックス、仕上げの転圧だ! 勾配(傾き)は2%、水はけを考えろ!」

「はいっ!」「オラオラオラァァァ!!」

深夜の丘に、男たちの怒号と、筋肉がぶつかる音、そしてアスファルトが焼ける独特の匂いが立ち込める。

それは異世界ファンタジーというより、昭和のド根性工事現場の光景だった。

翌朝。

近隣の住民や、ルルーの街から来た商人たちは、我が目を疑った。

「な、なんだこれは……!?」

昨日まで泥だらけだった丘への道が、黒く、滑らかで、美しい帯に変わっていたからだ。

馬車が通っても揺れず、泥も跳ねない。

道の脇には「側溝」が整備され、朝露が綺麗に流れていく。

「魔法か? 古代文明の遺産か?」

人々が恐る恐るその「黒い道」を踏みしめる中、道の先――完成間近の高宮邸の前で、優也は満足げにコーヒーを飲んでいた。

「ふぅ……いい仕事だった」

目の前には、ルナがしょんぼりと立っている。

「ごめんなさい優也さん……私、また余計なことを……」

「いや、ルナのおかげで工期が短縮できた。……ほら、見てみろ」

優也が指差した先では、荷馬車の御者が「すげぇ! 全然揺れねぇ!」と感動して走り抜けていた。

子供たちが、平らな道路で転ぶこともなく走り回っている。

「君の魔法がきっかけで、みんなが快適になったんだ。……破壊も、使いようによっては『創造』の第一歩になる」

「優也さん……!」

ルナの瞳に、再び尊敬(と恋心に近い何か)の光が宿る。

その横で、ユアが電卓を叩きながら冷や水を浴びせた。

「いー話だけどさー、昨日の深夜料金と緊急召喚料、締めて金貨50枚ねっ☆」

「……はい」

優也は現実に引き戻された。

道路は完成したが、会社の資金は再びカツカツだ。

「稼ごう。……次は、もっとデカい案件だ」

優也の視線は、遠くに見える「タロウ国の城郭」に向けられていた。

この道路工事の噂は、すぐにタロウ国王の耳に入り、国を挙げた一大プロジェクトへと発展することになる。

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