EP 7
VS 悪徳貴族(立ち退き要求)
「ガイマックス! 基礎の杭打ち、あと3本だ! 角度修正、右へ2度!」
「ヌンッ! 筋肉・パイルドライバー!!」
ズガァァァン!!
「よし、次はコンクリート打設だ! ルナ、ミキサー車に水を供給! キャルルは骨材(砂利)を投入!」
「はいっ! 水流魔法・ウォーターポンプ!」
「えいっ、やぁっ!(超高速で砂利袋を投げ込む)」
黒霧の丘にて。
優也は現場監督として、異世界最強の作業員たちを指揮していた。
プロレスラーが重機代わりになり、魔法使いが水道代わりになり、獣人が運搬機になる。
おかげで工期は驚異的なスピードで短縮され、わずか数日で巨大な「高宮邸」の基礎と骨組みが姿を現し始めていた。
「ふぅ……順調だな」
優也が缶コーヒー(ユアからの差し入れ)で一息ついていると、丘の麓から土煙が近づいてきた。
馬蹄の音と、ガチャガチャという金属音。
現れたのは、派手な紋章を掲げた馬車と、20名ほどの私兵団だった。
「工事を止めろぉぉぉ!!」
馬車から転がり出てきたのは、風船のように太った男だった。
高価だが趣味の悪い服を着込み、顔を真っ赤にしている。
「わ、私はこの地を治める領主、ボルゲ子爵である! 誰の許可で私の土地に勝手な真似をしている!」
「あ?」
優也はヘルメットを被ったまま、冷めた目で子爵を見下ろした。
「この土地は正規の手続きで購入しました。ゴルド商会仲介のもと、登記も済ませてあります」
「黙れ! ここは古来より我がボルゲ家の狩場なのだ! 商会の契約書など知らん! 不法占拠で全員処刑してやる!」
典型的な言いがかりだ。
綺麗な更地になった途端、価値が出たと踏んで横取りしに来たのだろう。
「おい若造、聞こえんのか! 兵たちよ、あの薄汚い建物を破壊しろ!」
子爵が喚くと、私兵たちが槍を構えて建設中のマイホームに近づく。
「主様の城に傷はつけさせません!」
「私の野菜レンガがぁ!」
キャルルとルナが殺気立つ。
だが、優也は二人を手で制した。
「待て。ここで暴れたら、俺たちが『犯罪者』になる。向こうは腐っても貴族だ」
「で、でも!」
「安心しろ。……こういう時のために、『プロ』を呼んである」
優也はスマホを取り出し、登録したばかりの連絡先をタップした。
直後、上空から優雅な旋律と共に、一台の真新しい魔導馬車が舞い降りてきた。
車体には、黄金に輝く『ゴルド商会』のエンブレム。
「あらあら、野蛮な声が聞こえますわねぇ」
馬車の扉が開き、一人の令嬢が降り立った。
ゆるふわな栗色の巻き髪に、フリルのついたドレス。手には日傘。
その愛らしい笑顔は、一見すると深窓の令嬢だが――その背後に控えるニャングルは、ガタガタと震えていた。
「リ、リベラ様……ど、どうか穏便に……」
「黙ってらっしゃいニャングル。私のクライアントが脅されているのですわよ?」
彼女こそ、ゴルド商会会長の愛娘にして、最強の弁護士――リベラ・ゴルド。
優也が土地購入の際、ニャングルを通じて「法務顧問」としての契約を取り付けておいたのだ。
「な、なんだ貴様は! 私は子爵だぞ!」
ボルゲ子爵がリベラを睨みつける。
リベラは優雅にカーテシー(挨拶)をした。
「ごきげんよう、子爵様。わたくし、この土地の所有者である高宮様の代理人弁護士、リベラと申します」
「べ、弁護士だと? 女が偉そうに!」
「単刀直入に申し上げます。貴殿の行為は、刑法第208条『不動産侵奪罪』および『強要未遂罪』に該当します。直ちに撤収し、慰謝料として金貨100枚をお支払いください」
「はぁ!? バカを言うな! 領主の私が法律だ!」
「ほう、そうですか」
ここで、優也が一歩前に出た。手には分厚いファイルを持っている。
「子爵。あなたが『法律』だと言うなら、この書類についても説明してもらえますか?」
「あ? なんだそれは」
「あなたの領地における、過去5年間の『裏帳簿』です」
「なっ……!?」
子爵の顔色が一瞬で青ざめた。
それは、ユア(情報屋)に頼んで入手させた、子爵家の不正の証拠データだ。
優也は【簿記1級】のスキルで解析した内容を淡々と読み上げた。
「架空の治水工事費の水増し請求、金貨3000枚。領民への不当な重税と、国への過少申告による脱税、金貨5000枚。さらに、ゴルド商会の競合相手からの賄賂受け取り……」
「で、デタラメだ! そんな証拠が……!」
「ありますよ。あなたの屋敷の金庫番、昨日付で我がゴルド商会に再就職しましたので」
リベラが悪魔的な笑みを浮かべて補足した。
得意技『証人引き抜き(ヘッドハント)』だ。
「さぁ子爵様? この帳簿が王都の監査局と、タロウ国王の目に触れたら……どうなるでしょうね?」
優也が冷徹に告げる。
タロウ国王は「汚職」と「不味い飯」を何より嫌う。知られれば、爵位剥奪どころか極刑は免れない。
「ひぃッ……!?」
子爵は膝から崩れ落ちた。
武力で脅すつもりが、法と金で完全に包囲されていたのだ。
「ま、待ってくれ! 金なら払う! 見逃してくれ!」
「あら、賄賂ですか? 罪を重ねるおつもり?」
リベラが日傘の先端を子爵の喉元に突きつける。
「示談になさるなら、条件がございます」
* 今後一切、高宮建設への干渉をしないこと。
* この地域の「通行税」および「関税」を撤廃すること。
* 迷惑料として、子爵家の資材置き場にある「最高級石材」を全て譲渡すること。
「ど、泥棒だぁぁ……!」
「おや? 監査局に行きますか?」
「わ、分かりましたぁぁ!!」
子爵は泣きながら誓約書にサインをし、逃げるように去っていった。
私兵たちも、主人の惨敗を見て蜘蛛の子を散らすように消える。
「……ふぅ。片付いたな」
優也がファイルを閉じると、リベラが日傘を閉じて近づいてきた。
「お見事でしたわ、優也様。あの帳簿の分析……ただの建築士とは思えませんわね」
リベラは興味深そうに優也を見つめる。
その瞳は、獲物を見つけた肉食獣のようでもあり、同志を見つけた共犯者のようでもあった。
「リベラさんこそ。あのタイミングでの証人引き抜き、さすがです」
「ふふっ。私、優秀な殿方は嫌いじゃありませんの。……ねぇ、高宮建設の顧問弁護士、正式にお引き受けしてもよろしくてよ?」
「……報酬は?」
「そうですねぇ……。私が困った時、あなたの『建築』と『知恵』を貸してくださるなら、お友達価格で」
リベラが小指を差し出す。
優也は苦笑しながら、その指に自分の小指を絡めた。
「契約成立ですね」
こうして、高宮建設に最強の「盾」が加わった。
物理攻撃はキャルルとガイマックスが、法的攻撃はリベラが防ぐ。
まさに鉄壁の布陣である。
「よし! 邪魔者は消えた! 今日中に屋根まで葺くぞ!」
「「おー!!」」
掛け声と共に、再び工事の槌音が響き渡る。
しかしこの時、優也はまだ知らなかった。
自分の土地を守るために敷設した完璧な「道路」と「上下水道」が、ルナのドジによって再び壊滅の危機に瀕することを……。




