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EP 4

欠陥ダンジョンのリフォーム

「ユア、今の俺の借金はいくらだ?」

「んーと、ガイマックスの召喚料、私のサブスク代、リカお姉ちゃんの飲み代、それにルナちゃんの魔力補給用のお菓子代……締めて金貨120枚(120万円)だねっ☆」

宿場町ルルーの冒険者ギルド。

優也は請求書の束をテーブルに叩きつけ、頭を抱えていた。

野菜レンガの家で街を救ったとはいえ、報酬は現物支給(野菜)がほとんど。現金収入が圧倒的に足りない。

「稼がなきゃ……高宮建設の運転資金がショートする」

優也が掲示板で「割のいい依頼」を探していると、受付カウンターの方が騒がしいことに気づいた。

「ふざけんな! あんなの『初心者向け』じゃねぇ! 死ぬぞ!」

「階段が急すぎて転げ落ちたんだぞ! 賠償しろ!」

怒り狂う冒険者たち。その中心で、小さな妖精がプンスカと怒っていた。

「なによぅ! 君たちがヘタクソなだけでしょ! ボクのダンジョンは芸術的で完璧なの!」

手のひらサイズの妖精。虹色の羽に、工事用ヘルメット。そして身の丈ほどあるツルハシを背負っている。

彼女こそ、ユニークスキル【ダンジョンクリエイト】を持つ妖精、キュルリンだ。

「おい妖精! 金返せ! 攻略できるかあんなもん!」

「むー! 悔しかったらクリアしてみなさいよーだ!」

一触即発の空気。

優也はため息をつき、その輪に入っていった。

「すいません、ちょっといいですか」

「あ? なんだお前」

「そのダンジョンの『検査』をさせてください。……私は一級建築士です」

「へぇ、建築士? 人間にしては変わったジョブね」

ダンジョンの入り口にて。

キュルリンは宙に浮きながら、疑り深い目で優也を見ていた。

「ボクの作った『始まりの洞窟』にケチつけようって言うの? 魔法のトラップも、モンスターの配置も絶妙なバランスなんだから!」

「魔法やモンスターはどうでもいい。俺が見るのは『構造』だ」

優也はヘルメット(現地で購入)を被り、懐中電灯アプリを点灯させた。

後ろには、完全武装したキャルル、興味津々のルナ、やる気のないユアとリカが続く。

ダンジョンに足を踏み入れて5分後。

優也は眉間にシワを寄せ、バインダーに猛烈な勢いでメモを取り始めた。

「……ダメだ。欠陥だらけだ」

「はぁ!? どこがよ!」

優也は壁を指差した。

「まず、通路の幅員不足。1.2メートルじゃ、重装備の戦士がすれ違う時に接触して転倒事故が起きる。避難経路としても不適合だ」

「えっ、そ、そこ?」

「次に階段の蹴上げ(高さ)と踏み面(奥行き)。高さ30センチに対して奥行きが狭すぎる。これじゃ人間工学的に下りで必ず躓く。殺す気か?」

「だ、だって侵入者を拒むためのダンジョンだし……」

「拒むのと、理不尽な事故を誘発するのは違う。さらに最悪なのが換気だ。奥に行けば行くほど酸素濃度が低下してる。酸欠で全滅するぞ」

優也の容赦ない「建築基準法(日本基準)」に基づくダメ出し。

キュルリンは顔を真っ赤にして反論しようとするが、言葉に詰まった。

彼女は「難易度」ばかり気にして、「利用者の動線」など考えたこともなかったからだ。

「ぐぬぬ……! 口だけならなんとでも言えるわよ! ボス部屋まで来れるもんなら来てみなさい!」

キュルリンは捨て台詞を吐いて奥へと消えた。

「主様、どうしますか?」

キャルルがトンファーを構える。

優也は冷静に指示を出した。

「攻略(検査)続行だ。……ただし、正面からは戦わない」

最下層、ボス部屋。

そこに鎮座していたのは、全身が岩石で構成された巨大な魔物『ロック・ゴーレム』だった。

「グルァァァァ!!」

咆哮と共に、ゴーレムが拳を振り上げる。

本来なら、新人冒険者パーティが知恵と勇気で戦う相手だ。

だが、優也は戦わない。部屋の天井と柱を凝視していた。

「ルナ、魔法は禁止だ。洞窟が崩落して俺たちが死ぬ」

「えぇーっ! 爆裂魔法撃ちたかったのにぃ!」

「リカさん、ユア、照明確保。キャルル、出番だ」

優也はゴーレムを無視し、部屋の隅にある一本の柱を指差した。

「あの柱を見ろ。ひび割れがある。……この大部屋、天井の荷重をあの柱一本に依存してる『欠陥構造』だ」

「え? つまり?」

「あそこを壊せば、天井が落ちる」

優也の指示に、キャルルのウサギ耳がピクリと動いた。

「了解しました! 月影流……!」

キャルルが超高速で駆け出す。

ゴーレムが鈍重な動きで迎撃しようとするが、キャルルはその股下をすり抜け、標的の柱へと肉薄した。

顎砕アギト・クラッシュッ!!」

闘気を纏った渾身の膝蹴りが、柱の亀裂に叩き込まれる。

バキィッ!!

石柱が粉砕された。

瞬間、部屋全体が地鳴りを上げる。

「撤退! 出入り口へ走れ!」

優也たちが通路へ退避した直後、ボス部屋の天井が**ズドオオオオオン!!**と轟音を立てて落下した。

哀れなロック・ゴーレムは、戦うことすらなく、数百トンの岩盤の下敷きになって圧殺された。

「う、うそ……ボクの最高傑作のゴーレムちゃんが……!」

土煙が舞う中、キュルリンが呆然と立ち尽くしていた。

優也は埃を払いながら、彼女に歩み寄る。

「構造を理解していれば、力押しなんて必要ない。……これが『建築士』の戦い方だ」

「……」

キュルリンは涙目で優也を睨み上げた。

怒られるかと思いきや、彼女の瞳はキラキラと輝き出した。

「すごーい!! 今の何!? 柱一本でズドーンって! 魔法も使わずに!?」

「え?」

「ねぇねぇ、キミ面白いね! 建物のこと詳しいの? もっとエグいトラップ作れる?」

どうやらこの妖精、自分のダンジョンが壊されたショックよりも、「新しい破壊のノウハウ」への好奇心が勝ったらしい。

彼女は優也の周りをブンブンと飛び回った。

「ボク、キュルリン! キミの名前は?」

「……高宮優也だ」

「ユーヤね! 気に入った! 今度ボクが作る『天魔窟』の設計、手伝ってよ! 報酬は弾むからさ!」

優也のスマホが震えた。

どうやら『高宮建設』に、初めての大型案件(ダンジョン設計)が舞い込んだらしい。

もちろん、その前に「安全性」と「避難経路」の確保について、この妖精を徹底的に教育する必要がありそうだが。

「……まずは見積書を作る。話はそれからだ」

優也はそう言って、プロ用の笑顔(営業スマイル)を浮かべた。

こうして優也は、物理最強のウサギ、魔法最強のエルフに加え、最凶のダンジョンメーカーとのコネクションを手に入れたのだった。

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