表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

EP 11

出張! 高宮建設、空へ行く

「……揺れすぎだろ」

高宮優也は、青ざめた顔で肘掛けを強く握りしめていた。

場所は、高度3000メートル上空。

タロウ国が誇る最新鋭魔導飛行船『タロウ・エアライン壱号機』のVIPルームである。

「おっかしいなぁ。俺の記憶にある『ジャンボジェット』を再現したはずなんだけど」

向かいの席では、タロウ国王が揺れなど意に介さず、機内食の「空弁からべん」をパクついていた。

横ではレオが「高ぇ! 最高だぜ!」と窓に張り付き、キャルルとルナは「うぷっ……酔いました……」とエチケット袋を抱えている。

「タロウ王、これは構造欠陥です。気流の乱れじゃなくて、設計ミスによる振動ですよ」

優也は【建築士】のスキル……というより、大学で習った構造力学と流体力学の知識で、機体の挙動を分析していた。

今回の依頼は、雲の上に隠れ住む『竜人族の里』のリフォーム。

普通の人間では到達不可能な場所にあるため、タロウ王が自慢の専用機を出してくれたのだが……このままでは目的地に着く前に空中分解しかねない。

ガガガガガッ!!

凄まじい振動と共に、機体が大きく傾いた。

機内アナウンスが流れる。

『あー、機長です。えー、右翼の魔導エンジンが不安定です。墜落するかもしれませんが、パラシュートはないので祈ってください』

「祈ってる場合か!」

優也はベルトを外して立ち上がった。

職人の血が騒ぐ。自分が乗っている乗り物が「欠陥品」だなんて許せない。

「タロウ王、この船、俺がいじっても文句言いませんね?」

「え? 直せるの? 好きにしていいよー」

「言質は取りましたよ!」

優也はスマホを取り出した。

ここは大空の上。通常の重機は使えない。

だが、あの男なら「場所」など関係ない。

【アプリ『超人要請』起動】

【オプション:機内モード(爆発なし)】

《ポチッ》

「ヌンッ! 筋肉マッスル搭乗!!」

通路のど真ん中に、テカテカのプロレスラー・ガイマックスが音もなく現れた。

狭い。天井に頭がぶつかっている。

「呼んだか市民! ……む、なんだこの揺れは。三半規管が鍛えられるな!」

「ガイマックス、仕事だ! 右翼へ行くぞ!」

「了解だ! だが俺は空を飛べないぞ! 重力とマブダチだからな!」

「飛ぶ必要はない。……『直す』んだ!」

優也とガイマックスは、緊急ハッチから強引に右翼の上へと出た。

猛烈な風圧。普通なら吹き飛ばされるところだが、ガイマックスは足の裏の筋肉で(どういう理屈か)機体に張り付いている。優也はガイマックスの背中にロープで固定されていた。

「うわぁ、酷いなこれ……」

優也は右翼の形状を見て絶句した。

翼の断面形状エアフォイルが、揚力を生む流線型ではなく、ただの「板」に近い。これでは気流が剥離して失速ストールを起こすのは当然だ。さらに、魔導エンジンの取り付け角度も歪んでいる。

「よくこれで飛んでたな……奇跡かよ」

「市民! 俺は何をすればいい!?」

板金バンキンだ! 俺が指示する通りに、この翼を『曲げろ』!」

「ぬんっ!? 翼をか!?」

「そうだ! 筋肉で航空力学をねじ伏せろ!」

優也はチョークを取り出し、翼の上に直接「修正ライン」を書き殴った。

ベルヌーイの定理に基づいた、理想的な流線型のカーブだ。

「ここをこう曲げて、前縁リーディングエッジを丸く! 後縁トレーリングエッジは鋭く!」

「分かった! マッスル・プレス・成形ッ!!」

ベキベキベキッ!!

ガイマックスが翼の端を掴み、自身の胸筋と上腕二頭筋で挟み込むようにして、ジュラルミン合金(魔鉄製)の翼を強引に曲げていく。

精密機械である飛行機を、力技で矯正する荒療治。

だが、優也の指示はミリ単位で正確だ。

「そこだ! 角度プラス3度! そこで固定!」

「ヌンッ! ……固定完了!」

「次はエンジンマウントだ! 振動の原因はボルトの緩みじゃない、溶接不良だ! その腕で溶接し直せ!」

「任せろ! 摩擦熱フリクション・ウェルディング!!」

ガイマックスが両手を合わせ、超高速でこすり合わせる。

発生した数千度の摩擦熱を、エンジンの接合部に押し付ける。

ジューッ!! という音と共に、歪んでいたパーツが完全に一体化した。

「よし! 作業完了! 戻るぞ!」

二人が船内に戻った瞬間。

それまでガタガタと悲鳴を上げていた機体が、嘘のように静まり返った。

振動ゼロ。まるで氷の上を滑るような、極上のフライト。

『あー、機長です。……え? なにこれ? 出力が安定した? 燃費が30%向上? ……神か?』

アナウンスも困惑している。

VIPルームに戻った優也を、酔いが覚めたキャルルとルナがキラキラした目で迎えた。

「主様! 揺れが止まりました!」

「すごいです優也さん! お空の上でもリフォームしちゃうなんて!」

タロウ王も、空弁のデザートを食べながら感心していた。

「いやー、快適快適。さすが特級建築士。飛行機も作れるの?」

「原理は一緒ですよ(暴論)。……とりあえず、修理費として金貨10枚、ガイマックスの出張費別途で請求しておきます」

「安い安い!」

優也がコーヒー(揺れないのでこぼれない)を飲んで一息ついていると、窓の外に巨大な「積乱雲」が見えてきた。

いや、ただの雲ではない。

その頂上には、黄金に輝く神殿と、無数の島々が浮いている。

「見えてきたぜ優也」

レオがニヤリと笑った。

「あれが『竜人の里』だ。……ま、頭の固い連中が多いから、着いたら一悶着あると思うけどな」

「……でしょうね」

優也はスマホの『超人要請』アプリを閉じず、いつでも呼べるようにスタンバイした。

高宮建設の出張業務。

最初の現場は、雲の上の「頑固な職人街」だ。

技術と物理で、彼らを黙らせる準備はできている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ