EP 11
出張! 高宮建設、空へ行く
「……揺れすぎだろ」
高宮優也は、青ざめた顔で肘掛けを強く握りしめていた。
場所は、高度3000メートル上空。
タロウ国が誇る最新鋭魔導飛行船『タロウ・エアライン壱号機』のVIPルームである。
「おっかしいなぁ。俺の記憶にある『ジャンボジェット』を再現したはずなんだけど」
向かいの席では、タロウ国王が揺れなど意に介さず、機内食の「空弁」をパクついていた。
横ではレオが「高ぇ! 最高だぜ!」と窓に張り付き、キャルルとルナは「うぷっ……酔いました……」とエチケット袋を抱えている。
「タロウ王、これは構造欠陥です。気流の乱れじゃなくて、設計ミスによる振動ですよ」
優也は【建築士】のスキル……というより、大学で習った構造力学と流体力学の知識で、機体の挙動を分析していた。
今回の依頼は、雲の上に隠れ住む『竜人族の里』のリフォーム。
普通の人間では到達不可能な場所にあるため、タロウ王が自慢の専用機を出してくれたのだが……このままでは目的地に着く前に空中分解しかねない。
ガガガガガッ!!
凄まじい振動と共に、機体が大きく傾いた。
機内アナウンスが流れる。
『あー、機長です。えー、右翼の魔導エンジンが不安定です。墜落するかもしれませんが、パラシュートはないので祈ってください』
「祈ってる場合か!」
優也はベルトを外して立ち上がった。
職人の血が騒ぐ。自分が乗っている乗り物が「欠陥品」だなんて許せない。
「タロウ王、この船、俺がいじっても文句言いませんね?」
「え? 直せるの? 好きにしていいよー」
「言質は取りましたよ!」
優也はスマホを取り出した。
ここは大空の上。通常の重機は使えない。
だが、あの男なら「場所」など関係ない。
【アプリ『超人要請』起動】
【オプション:機内モード(爆発なし)】
《ポチッ》
「ヌンッ! 筋肉搭乗!!」
通路のど真ん中に、テカテカのプロレスラー・ガイマックスが音もなく現れた。
狭い。天井に頭がぶつかっている。
「呼んだか市民! ……む、なんだこの揺れは。三半規管が鍛えられるな!」
「ガイマックス、仕事だ! 右翼へ行くぞ!」
「了解だ! だが俺は空を飛べないぞ! 重力とマブダチだからな!」
「飛ぶ必要はない。……『直す』んだ!」
優也とガイマックスは、緊急ハッチから強引に右翼の上へと出た。
猛烈な風圧。普通なら吹き飛ばされるところだが、ガイマックスは足の裏の筋肉で(どういう理屈か)機体に張り付いている。優也はガイマックスの背中にロープで固定されていた。
「うわぁ、酷いなこれ……」
優也は右翼の形状を見て絶句した。
翼の断面形状が、揚力を生む流線型ではなく、ただの「板」に近い。これでは気流が剥離して失速を起こすのは当然だ。さらに、魔導エンジンの取り付け角度も歪んでいる。
「よくこれで飛んでたな……奇跡かよ」
「市民! 俺は何をすればいい!?」
「板金だ! 俺が指示する通りに、この翼を『曲げろ』!」
「ぬんっ!? 翼をか!?」
「そうだ! 筋肉で航空力学をねじ伏せろ!」
優也はチョークを取り出し、翼の上に直接「修正ライン」を書き殴った。
ベルヌーイの定理に基づいた、理想的な流線型のカーブだ。
「ここをこう曲げて、前縁を丸く! 後縁は鋭く!」
「分かった! マッスル・プレス・成形ッ!!」
ベキベキベキッ!!
ガイマックスが翼の端を掴み、自身の胸筋と上腕二頭筋で挟み込むようにして、ジュラルミン合金(魔鉄製)の翼を強引に曲げていく。
精密機械である飛行機を、力技で矯正する荒療治。
だが、優也の指示はミリ単位で正確だ。
「そこだ! 角度プラス3度! そこで固定!」
「ヌンッ! ……固定完了!」
「次はエンジンマウントだ! 振動の原因はボルトの緩みじゃない、溶接不良だ! その腕で溶接し直せ!」
「任せろ! 摩擦熱・ウェルディング!!」
ガイマックスが両手を合わせ、超高速でこすり合わせる。
発生した数千度の摩擦熱を、エンジンの接合部に押し付ける。
ジューッ!! という音と共に、歪んでいたパーツが完全に一体化した。
「よし! 作業完了! 戻るぞ!」
二人が船内に戻った瞬間。
それまでガタガタと悲鳴を上げていた機体が、嘘のように静まり返った。
振動ゼロ。まるで氷の上を滑るような、極上のフライト。
『あー、機長です。……え? なにこれ? 出力が安定した? 燃費が30%向上? ……神か?』
アナウンスも困惑している。
VIPルームに戻った優也を、酔いが覚めたキャルルとルナがキラキラした目で迎えた。
「主様! 揺れが止まりました!」
「すごいです優也さん! お空の上でもリフォームしちゃうなんて!」
タロウ王も、空弁のデザートを食べながら感心していた。
「いやー、快適快適。さすが特級建築士。飛行機も作れるの?」
「原理は一緒ですよ(暴論)。……とりあえず、修理費として金貨10枚、ガイマックスの出張費別途で請求しておきます」
「安い安い!」
優也がコーヒー(揺れないのでこぼれない)を飲んで一息ついていると、窓の外に巨大な「積乱雲」が見えてきた。
いや、ただの雲ではない。
その頂上には、黄金に輝く神殿と、無数の島々が浮いている。
「見えてきたぜ優也」
レオがニヤリと笑った。
「あれが『竜人の里』だ。……ま、頭の固い連中が多いから、着いたら一悶着あると思うけどな」
「……でしょうね」
優也はスマホの『超人要請』アプリを閉じず、いつでも呼べるようにスタンバイした。
高宮建設の出張業務。
最初の現場は、雲の上の「頑固な職人街」だ。
技術と物理で、彼らを黙らせる準備はできている。




