二十七、雪華に届いた訃報
翰と毅は琳琅の部屋に向かっていたが、翰が急に立ち止まった。
毅は思い切り翰にぶつかった。
急に止まんなよと翰に言っていると、翰が振り返り、獲物を狙っているかのような目付きをしていた。
「そういえば、あのことについて雪華に問い詰めてなかったです。兄上、先に雪華の部屋に行きます」
そう言うと、翰は雪華の部屋へ走り出した。毅はよくわからないまま、翰の後をついていった。
翰は雪華の部屋の前の着くと、護衛をしていた白狼と方康が止める間もなく、勢いよく戸を開けた。
そこには肌着姿の雪華がいた。
雪華と翰は目を合わせたまま止まっていた。
冰夏が翰に向かって、お嬢様はお着替え中ですと言って、無理やり外へ押し出し、戸を閉めた。
翰は口を押さえ、耳まで赤く染め、下を向いていた。
後から追いかけてきた毅は状況を理解できず、白狼に尋ねた。
雪華が湯あみ後、着替えていることを知っていた白狼と方康は、戸を開けようとした翰を止めようとしたが、一歩遅かったようだ。着替えている途中の雪華の姿を見て、冰夏に追い出され、この状況に至ったという。
(しかし、翰でもああいう顔はするんだな。初めて見たよ)
その表情を見せたのが実の妹であることに、毅は複雑な心境だった。
翰は急に冷静になり、白狼と方康の方を見た。
翰の気配から殺気を感じ、二人は変な汗をかいていた。
「もちろん、お二人は見てないですよね」
「見てません、見てません。何も見てません」
本当に見ていないのだが、翰の圧に焦り、嘘っぽく聞こえてしまっていた。
「もし見たのなら、正直に言ってくださいね。目を潰しますから」
白狼と方康はお互い抱き合いながら、怯えていた。
毅は、すかさず翰を止めに入った。
「翰、もうやめろ。元々は勝手に戸を開けたお前が悪いのだろう?」
翰は毅の言葉に、
「それもそうですね。申し訳ありませんでした」
翰は丁寧に頭を下げて、雪華の部屋の前に立っていた。
白狼と方康は目を涙ぐませながら、何度も頭を下げていた。
「その・・・弟のことで苦労かけて、すまないな。今度また翰に何かされたら私に言ってくれ」
二人は目を輝かせながら、はいと声を張り上げた。
冰夏は冷静な雪華に驚いていた。取り乱すこともなく、衣を着ていた。
「お嬢様はもっと恥ずかしがるかと思いましたが、意外と冷静ですね」
「だって、裸を見られたわけでもないし。これくらいなら別に」
「翰様の方が照れてるかもしれませんね」
(あぁよかった。あと一歩翰兄様が早かったら、確実に見られてた。何の用事かわからないけど声くらいかけてよね)
実は、内心少しだけ焦っていた。
冰夏は戸を開けて、お着替えが終わりましたのでどうぞと翰と毅を招き入れた。
「ところで私に何か用ですか?」
翰は先程のことを引きずっているようで、雪華と目を合わせないでいた。
翰の態度がよそよそしく、変な空気が流れていた。
「翰兄様、私は気にしてませんから。翰兄様がそんな様子だと私まで調子が狂います」
翰が顔を上げると、雪華が困った顔をしていた。
「雪華、申し訳なかったです。次からはきちんと声をかけます」
雪華もくすくす笑い、はい、お願いしますねと温かい笑顔をしていた。
「翰様、雪華お嬢様は胸を揉まれた相手にも普通に接する方ですよ」
雪華は冰夏の方を見て目を丸くして、首を横に振っていた。
冰夏も雪華の表情を見て口を押さえたが、すでに手遅れだった。
翰がいつもの調子を取り戻していた。
「冰夏、詳しく話してください。誰が雪華の胸を揉んだのですか?そいつの手を斬り落とさないといけませんね」
毅は引き気味に、落ち着けと翰を押さえていた。
雪華は顎をくいっと動かして、冰夏に白状するように伝えた。
「その・・・お嬢様の胸を揉んだのは・・・万昌様です」
「万昌!」
翰と毅は思わず叫んでしまった。
「翰兄様、毅兄様、万昌さんは私に情報を提供してくれてたの」
雪華は万昌とのやり取りを全て話した。
「やはり、そうでしたか・・・」
翰は考え込んだまま、瞬きひとつせずにいた。
「雪華、雪華の誘拐を企んだのは万昌の父、万暁東でした。それで、万昌ですが・・・父親を殺し、その後、後宮で皇上によって処刑されました」
冰夏は衝撃のあまり腰を抜かし、床に座り込んでしまった。
雪華の目には涙が流れていた。
「雪華、万昌とそんなに親しかったのですか?」
「いえ、会ったのは数回だけです。でも、万昌さんは私を守ろうと動いてくださってました。それが原因だと思うと・・・私のせいで・・・」
冰夏は立ち上がり、雪華を横からそっと抱きしめた。
雪華は冰夏に寄りかかり、泣きはじめた。
「雪華のせいじゃありませんよ。万昌が自分で決めたことです。自分を責めてはいけません。万昌はきっと後悔していないはずです」
「雪華、翰の言うとおりだ。私たちも雪華のために命を張っているのは自分で決めたことだ。何があっても雪華のせいではない。むしろ、誇りに思っているぞ。こんなに美しい妹も守れることを」
雪華は立ち上がり、毅兄様と名前を呼びながら、毅を抱きしめた。
毅は雪華の頭をなでながら、もう泣くなと笑っていた。
「雪華、抱きつかれていると、後ろからの視線がつらいのだが」
毅の後ろから、翰がじっと毅を見つめ圧をかけていた。




