十九、二度目の誘拐
皇帝、家豪、琳琅は月亮、雪華、翰について話していた。
「月亮も翰には頭が上がらないようだな」
「申し訳ございません。皇上。私の教育不足です。どうも雪華のこととなると」
皇帝は良い兄ではないかと褒めていたが、家豪は翰が雪華のことを妹としてではなく、女として見ているように思えて複雑な気持ちだった。
隣で琳琅は、そうなのです、いい子なのですと翰を誉めていた。
(翰の婚姻相手でも決めたほうがいいのか?・・・いや、無理だろうな)
家豪だけが翰について悩んでいた。
皇帝は真剣な顔つきになり、
「家豪、琳琅と二人で話したいことがある。すまないが、下ってくれるか」
家豪は何の話なのか理解した。
琳琅に外で待っていると伝え、皇帝に一礼をし出ていった。
「琳琅、もうそろそろあの二人に話すべきだと思わないか?」
皇帝と琳琅はお互いに見つめたまま止まっていた。
家豪が出るとすぐに何恩がいた。
「何恩、なぜここにいるのだ」
「旦那様・・・雪華お嬢様が何者かに攫われました」
家豪はゆっくりと何恩を睨みつけた。
何恩はその場で跪き、申し訳ございません、と頭を下げた。
家豪は大きく深呼吸をして、心を落ち着かせた。
「何恩、立て。お前だけが悪いわけではない。何があったのか話せ」
何恩は小走りしながら、経緯を伝えた。
(もしかしたら・・・劉家の中に・・・)
「あと、冰夏がある者からこの地図を渡されて、ここの✕印のところに来てほしいと伝えてくれと言われました」
家豪は立ち止まり、
「誰だ?ある者とは」
「冰夏は万昌と言っておりました」
「万昌?」
家豪は思い出していた。
(たしかあの時、勝手に屋敷をうろついてたやつだったな・・・。そんなやつを信用していいのか?しかし・・・)
家豪には考えている時間はなかった。
「何恩、琳琅がまだ皇上と話している。ここで琳琅を待って馬車で送ってくれ」
「御意」
家豪は何恩が乗ってきた馬に乗り、急いでその場所へ向かった。
雪華は目を覚ますと手足を縛られ、口は布で塞がれており、声を出すこともできなかった。
(ここは馬車の中?一体、どこに向っているの?)
馬車が何かに乗り上げたのだろうか。一瞬宙に浮き、馬車の中で下に落ちた。
(痛たたた・・・。これは!)
雪華はあるものが目に留まった。
忠はいつものように胡風の指導の下、訓練に励んでいた。
「先生、あいつは今日来てないのですか?」
「あぁ、あいつは最近何か探っているような感じだったな。残念ながら、私もそのことについては尋ねることができない」
胡風は憂しげな顔をしていた。
「ところで忠、劉家の新年の祝いは盛大にやるのだろう。私も行って構わないか?久しぶりにお嬢様にも会いたいしな」
「えぇ、ぜひ来てください!きっと・・・」
忠は急に眉をひそめ、周りを見渡しはじめた。
「忠、どうし・・・」
忠は口元に人差し指をあて、静かにしてくださいと言って、再び見渡していた。
忠は神経をとがらせ、自分の両耳に集中していた。
「・・・!」
忠は急に走り出し、
「先生!馬借ります」
と許可を出す間もなく、駆けていった。
(どうしたのだ?・・・まさか!)
胡風は送り出すことしかできない自分に腹立たしく感じていた。