十一、蠢く虫
「兄上、私たちはこんなことしている場合ではないのでは?」
月亮と賢建は後宮内にある的場に来ていた。
二人で弓の修練をおこなっていた。
「闇雲に動いたって見つかりはしないさ。それより、自分の腕を磨いていたほうがいいと思わないかい?月亮は雪華に会いたくてしょうがないだろうけど」
賢建の言葉は的を得ていた。
「兄上、私の心が射られてます」
賢建は月亮の返しに大笑いをしていた。
月亮の腕は優秀であり、的のど真ん中を正確に射っていた。
一方、賢建は癖があり、的の左上に当たる傾向があった。
「月亮には負けるな。獲物も心臓を一発で貫く。私はどうしても頭にそれてしまう。ところで、翰はどうした?妹のところか?」
月亮はため息をつき、
「翰は溺愛しすぎなのですよ。父上からの聖旨がなければとっくに私は殺されてますよ」
そう言いながら射った矢は相変わらずど真ん中に突き刺さっていた。
月亮はわざと誇らしげな顔をしながら賢建を挑発した。
「翰が兄では月亮も手を出せないな。本当は触れてくてしょうがないのだろう。私だったら手を出しているな」
月亮は動揺しながらも的を外すことはなかった。
「くそっ、これでもだめか」
二人は笑いながら引き続き修練をするのであった。
万昌は自分の家の中で息をひそめていた。
「あぁ、おそらく劉家の娘のことだろう。長年息をひそめていた甲斐があった。昌のやつは使い物にならない。その時は私がいただくとしよう」
万昌は声を殺して涙を流していた。
(やはり、そうだったのか・・・。私は間違ってなかった。何があっても雪華お嬢様を守る。絶対にお前のようなやつには渡さない)
万昌は一寸の迷いもなく前に進むのであった。
翰は縁側に座り、雪華の部屋を見つめていた。
「翰様、第四皇子の護衛はよろしいのですか?」
翰が振り返ると、そこには逸美の侍女琴韻がいた。
翰と琴韻は共に武術を学んだ同志である。歳は翰が三つ下であるが、立場は翰が上であるため普段は敬称をつけ呼んでいるが、二人の時は昔のように砕けて話す。
翰は大丈夫だと言って再び雪華の部屋を見ていた。
「翰、もしかしてお嬢様の事・・・」
翰は悲しい目つきで琴韻を見て、
「それ以上は何も言うな・・・」
と言って空を見上げていた。心はどこか別のところにあるように感じた。
琴韻は翰の全てを察し、雪華のことについてはそれ以上触れなかった。翰の隣に静かに座った。
「翰、誰が黒幕か、これから何が起きようとしているのか、なんとなくわかっているのだろう」
翰は鼻で笑って、さすがですねと言って琴韻の方に体を向けた。
「予測はついていますがまだ断定はできません。雪華の周りには多くの虫が蠢いています。私が手を出せば一瞬で潰せますが、さすがに根拠もないのに殺したら、私も皇帝から殺されますからね。今は自由に這わせています。大丈夫です。そんな虫どもは鳥に食われてしまいます。雪華に触れただけで私は殺してしまうでしょうね」
琴韻は少し引いていた。
(まさか、ここまでとはな。第四皇子も下手に手を出せないだろうな)
琴韻は月亮に心の中で同情していた。




