二十四、仕組まれた狩り
狩り場の近くでは事前に天幕が張られていた。天幕の中にはそれぞれ皇帝が用意したと思われる矢が置いてあった。
皇帝の息子である俊智、賢建、月亮、それに加え、羅国三大家族、馬家、夏家、万家の子息たちも参加していた。
馬家は馬や牛、豚などを育て、皇帝に献上している。夏家は商いをしており、後宮のほぼ全てのものを賄っている。万家は羅国一の富豪の家である。
それぞれの天幕で準備をし、皇帝の前に皆集まっていた。
皇帝が催す狩りの規則では一度放った矢は再度使用することはできない。監視の目もあり不正をすることも難しい。獲物は矢が刺さったまま回収する決まりである。
「天幕にあった矢はそれぞれ皆違う模様が描かれている。描かれている場所もそれぞれ違う。いいか、自分の模様が悟られぬように。それを知っているのは朕だけだ。今日の狩りはいつもと違う趣向だ。一番多く獲物を捕らえた者は朕から褒美をやろう。一つだけ願いを聞いてやる。どんなことでもよい。その者の願いを叶える」
皇帝の言葉を聞いた瞬間、皆表情が変わった。多くの者が喜んでいる中、一部の者の顔は野心に満ちていた。
「おい、ちゃんとすり替えただろうな」
「はい、指示通りに」
「これで月亮に勝って、雪華を手に入れられる。月亮、私のために頑張れよ」
男は周りにわからないように声を殺して笑っていた。
皇帝が始まりの合図を出し、皆馬で駆けだしていった。
俊智が月亮に近づいてきていた。
月亮は小声で周廣に何かを伝えていた。
周廣少し驚いた顔をしたが頷いて、俊智の周りを観察していた。
「月亮、いつもいつも負けてばかりでは兄としては面目ないからね。今回は勝たせてもらうよ。安心しろ。私と雪華の結婚式には参列させてやるから」
俊智はすでに勝負に勝ったかのような誇らしげな顔をしながら去って行った。
「周廣、どうだったか」
「・・・が殿下と同じ・・・でした」
「そうか、しかしあの様子じゃ、翰の言うとおりだな」
皆が去った頃を見計らって、家豪は皇帝に近づき、雪華が再びさらわれそうだったことを伝えた。
「雪華は無事なのだな」
家豪は安心した表情で頷いた。
月亮は家豪と皇帝が話している姿を見て、雪華に何かあったのかと思い、皇帝の元へ急いで駆けつけた。
「父上、家豪将軍」
皇帝は月亮が言わんとすることがわかった。
「月亮、安心しろ。大丈夫だ。それより、絶対に獲物を逃すな。絶対にな」
(雪華は無事だったのか。よかった・・・。しかし、どういうことだ?父上は私の弓の腕を知っているはずだが・・・。なるほど、そういうことか)
月亮は皇帝に笑顔を向け、一礼をして周廣と共に去った。
一方、劉毅は弟の翰の伝言の通りある人物の後を追っていた。
(特に変わった様子はないな・・・護衛もいつもの従者だし。翰の勘も鈍ったのか?)
「主様、勝たなくてよろしいのですか?」
「今回はいいのだ。どうせあいつには勝てないだろうし。私は楽しみは後にとっておくほうだ。それよりも面白いことが起こりそうな気がするぞ」
謎の二人は狩りを楽しみながら、移動していた。
「殿下・・・。その、すごいですね。初めて見ました」
「そうだな。あまり知らないかもしれないな。披露する機会もなかったからな。では、最後の一本!」
月亮の矢は獲物の心臓を貫いていた。
狩りの終了の合図が鳴り響き皆天幕の方へ戻って行った。
「久しぶりの狩りは楽しんでくれただろうか。では、一番獲物を狩った者を発表する」
皇帝は集計結果を宦官から受け取り読み上げた。
「今回の勝者は・・・獲物を二十射止めた、趙月亮だ!」
周りが感嘆の声を上げ、拍手をする中、異議を唱える者がいた。
「皇上、僭越ながら一言いいでしょうか」
俊智が皇帝の前に出てきた。
皇帝は発言を許した。
「趙月亮は不正をしております。月亮が獲った獲物は全て私のものです」
周りがざわつく中、下を向いている俊智の口元には笑みがこぼれていた。
「俊智、月亮の矢でない証拠はあるのか」
「はい、こちらが私の矢です。見てください。月亮の矢と同じです」
月亮は跪き、
「父上、私は不正などしておりません」
と訴えた。
俊智は宦官に渡し、皇帝へ届けてもらった。
「確かに、俊智と月亮の矢は同じだな・・・。これは俊智の矢だ」
「その通りです」
「俊智、月亮がどんな矢を使っていたかわかるか?」
「はい、月亮の矢は趙家の紋章に月が描かれています」
皇帝と月亮は同時に口元が緩んだ。




