二十一、暗号の本当の意味
雪華に危機が迫っていた頃、劉家一行は狩り場の近くまで来ていた。
「奥様、私がお嬢様に変装してるとばれないでしょうか」
冰夏は落ち着きのない様子だった。
「冰夏、むしろ、雪華の代わりはあなた以外できないでしょう。あなたは雪華のことを知り尽くしているでしょう?」
冰夏は琳琅の言葉に少し自信を取り戻した。
「そういえば最近のお嬢様は以前より感情が顔に出るようになった気がします。初めて会った時は無表情というか、不愛想というか、何を考えているのかわかりませんでしたが、今は笑顔も良く見られるようになりました。劉家に戻ってきてようやく心を開けるようになったのではないでしょうか」
琳琅はうれしそうに頷いていた。
「あの子はあの子なりに何か感じていたのかも。容姿が人と異なっていることだったり、本当の親は誰なのだろうとか。今まで心のどこかで引っかかていたものがなくなって、少しずつ本来の雪華に戻っているのかもしれないわね。冰夏、雪華はあなたのことを信頼してるわ。あなたには迷惑かけるでしょうけど、これからも雪華のことをお願いね」
「奥様、おまかせください。どこまででもお嬢様と一緒にいます」
二人の会話を聞いていた家豪も笑みがこぼれていた。
「殿下、後ろに劉家の馬車が見えてきましたので、少しだけ行ってもよろしいですか?」
月亮は翰を細目で見ながら、
「どうせ妹に会いに行くのだろう。すぐ戻れよ」
「御意」
翰は後方から来ている劉家の馬車へ向けて、馬で駆け抜けていった。
(雪華との婚姻の最大の難関は間違いなく翰だな)
月亮は翰の後ろ姿を見ながら、ため息をついていた。
劉家の馬車に着いた翰は馬車の中を覗き込んだ。しかしそこには、雪華の姿はなかった。
「父上、雪華はなぜいないのですか?何かあったのですか?」
家豪は例の暗号の紙を翰に渡した。
「昨夜、何恩が見た怪しい者が落としていったものだ。毅と忠とこの暗号を解読したのだが、翰は説明しなくてもわかるだろ」
「この暗号解読したの忠だぞ。あいつもなかなかやるよな」
毅も家豪と反対側の方から顔を出して話を聞いていた。
翰は暗号の紙を見てぶつぶつ独り言を言っていた。
(たしかにこの暗号では、雪華を同行させるのは危険ですが・・・。この"火"が引っかかりますね。ん?この香りは柑橘?・・・まさか!」
「誰か火折子をお持ちじゃありませんか?」
後ろにいた朱輝が翰に向って投げてきた。
翰は礼を言って、暗号の紙を燃やさないように炙りはじめた。
火折子を朱輝に返し、再び暗号の紙を見つめていた。翰の顔がみるみる血の気が引いていった。
「父上!なぜ、昨夜私にこの暗号を見せなかったのですか!」
「翰が家を出た後だったし、夜も遅かった。今日会った時に見せようと」
(やられた!)
「周廣さん、私の代わりに第四皇子の護衛をお願いします。あと第四皇子に・・・と伝えてください。朱輝さん、私と一緒に来てください。父上と兄上はそのまま狩りに行ってください。何があったか気づかれないようにお願いします」
何の説明のないまま駆けだそうとする翰に家豪が、翰どういうことだと尋ねると、翰は、説明は後です、この紙を見てくださいと渡し、朱輝を連れて急いで駆けていった。
家豪が暗号の紙を見ると炙り出された文字はこのように書いてあった。
『翰 看/ 雪 華 不 在 家 了」
「翰が見る。雪華は家にもういない・・・。やられた!」
「父上!今何と!」
毅は家豪の言葉に青ざめていた。
家豪は、昨夜翰を呼び戻さなかったことに後悔した。
(私たちは手の上で転がされてるようだ・・・。翰、どうか間に合ってくれ・・・。忠、雪華を守れ)
翰があまりにも速いので朱輝は置いていかれないよう必死についていっていた。
(忠、雪華を守るのです!)
翰はそう願いながら全速力で馬を走らせた。




