十四、頼りになる兄
月亮は後宮の庭で浮かない顔をしながら空を眺めていた。
「どうした、月亮。浮かない顔して」
遠くから一人の男が歩いてこっちに来ていた。
「兄上、いろいろどうしたらよいかわからなくなりまして。考えをまとめていました」
月亮に声をかけたのは第三皇子の趙賢建だった。
賢建は月亮の四つ年上で、月亮と同じく皇帝の地位に興味はない。いつも弟の月亮を気にかける心優しき兄である。
賢建は月亮にとっては翰の次に信頼する人物である。
「月亮、聞いたぞ。私より先に婚姻が決まるとは。女に興味がない振りをしてたのか」
賢建は月亮の首に腕を回しわざと首を絞めていた。
月亮は笑いながら降参ですと賢建の手を叩いていた。
「で、相手はどうだったか。可愛かったか。きれいだったか」
「きれいというより美しいという言葉の方が当てはまります。目が離せないと言うか。私にはもったいないというか・・・だた表情がいつも同じなので何を考えているかはよくわかりませんでした」
賢建は、にたにたしながら笑って、
「月亮がもったいないなら私が・・・」
「絶対だめです」
「まだ何も言っていないぞ」
「兄上の言うことなど聞かなくてもわかりますよ」
二人はお互いの顔を見、我慢できなくなり、噴き出して笑っていた。
「しかし、その子を兄上に会わせたら大変なことになりそうだな」
それを聞いた月亮はため息をついて下を向いた。
「まさか・・・」
「はい、そのまさかです・・・」
月亮は先日俊智が帰って来た時に起きた出来事を賢建に話した。
「嫌な予感しかしないな・・・。月亮、雪華だったか?兄上は本当に奪う気だろう。でも大丈夫。私にまかせろ。困った時は助けてやる。太刀打ちできるかはわからないがお前に協力するぞ」
「兄上、ありがとうございます」
月亮は頭の中でばらばらになっていた考えがまとまりそうな気がした。
頼りになる兄がいて本当によかったと心から思うのであった。
「忠、身が入っていないぞ。どうした」
忠は学舎で日課の素振りをしていたが、胡風の目から見ると力が入っていないようだった。
「先生、明日軍部の訓練に行くのです。でも、嫌なんです。明日は雪華も来ます。あんなところ見られたくないのです・・・本当の僕は」
胡風は少し休もうかと言って、忠を座らせた。
「忠、お前の言いたいことはわかるが、言いたいやつには言わせとけ。私はお前の強さを知っている。雪華お嬢様も軍部の訓練のお前の姿を見ても幻滅はしないと思うが。いつ見てもお嬢様は無表情だが、何だろうな、人を馬鹿にするような子ではないと思うんだよな」
「雪華は感情表現が苦手なだけで人を馬鹿にしたりはしません」
胡風は声を上げて笑いながら、
「それなら気にする必要はないではないか。無様に切られてこい。ただ、お嬢様が危険な時は全力で守れ。いいな」
忠は少し腑に落ちない顔をしていたが頷いて、
「雪華は必ず守ります」
忠は立って、深呼吸をし、自分の頬を叩いて気合を入れ、再び剣の素振りをしはじめた。




