二十、意外な犯人
呉昭は静宜の目の前に立ち、にらみつけるような目をしながら言った。
「静宜、なぜ二人の男を目撃したすぐに、悲鳴を上げなかったのですか」
皆の視線が一気に静宜に集まった。静宜は明らかに動揺していた。
呉昭は話を続けた。
「あの男たちがこの部屋から塀を乗り越えるまで少しだけ時間を要します。その間、あなたは何をしていたのでしょうか。おそらく、あの男たちが逃げるため時間稼ぎをしていたのでしょう。男たちが逃げたのを確認して悲鳴を上げたのではありませんか?男たちを追う護衛を減らす目的もあったのではないでしょうか。違いますか?」
静宜はその場にひれ伏した。
家豪は今にも殴りかかりそうな勢いで、なぜ、雪華をさらったのだと胸ぐらをつかみ上げた。
静宜は震えながら涙を流し、何かを伝えようとしていた。
呉昭と白竜が家豪を必死に止めて、何とかその場を収めた。
「母上・・・どうして・・・」
白竜は涙を流しながら、膝から崩れ落ちた。
そんな白竜を見た静宜は、全てを打ち明ける決意をして、もう一度家豪と琳琅にひれ伏した。
そんな静宜を見た琳琅は、静宜に近づき、手を握り
「私はあなたが私の家族に手を出すような人だとは思えません。私にとってはあなたも家族同然です。何があったのですか」
静宜はその温かい言葉に緊張の糸が切れたのか、琳琅の手を両手で握りしめ、申し訳ございませんと何度もいながら泣き崩れるのであった。
「私は狼と竜をあの男から守りたかったのです」
落ち着きを取り戻した静宜は自分の過去について語りはじめた。
静宜は元々、後宮に食材や茶、絹を納める商家の娘であった。本来の名は沈瑶であり、何不自由なく暮らしていた。
その日は突然やってきた。
ある日父の沈益は皇帝を暗殺しようとした罪でとらえられ処刑された。母の思敏も捕まり牢獄に入れられ、自ら命を絶った。
沈家は取り潰され、当時十四歳だった瑶は捕まらなかったが、ある家に連れて行かれた。名を白静宜と変え、侍女として働きはじめた。
その家では奴隷のようにこき使われ、特にその家の息子には、はたかれ、蹴られ、酷い扱いだった。
その二年後、十六の時、初めてその息子に襲われた。言葉では言い表せないぐらいの屈辱だった。
その家の旦那様も奥様も知っていただろう。見て見ぬふりをしていた。
十八の時、その息子の子を身ごもった。予想はしていたが、旦那様も奥様も許さず、お腹の子を殺そうとした。あんな息子の子供であっても、静宜には殺せなかった。
静宜は逃げるようにその屋敷から出ていった。
お腹も大きくなって目立ってきたころ、静宜の方を向いて立っている女の人がいた。その人は頭から肩にかけて布をかぶっており、少ししか顔は見えなかったが、それでも美しい顔であることはわかった。
侍女らしき人に何か耳打ちをしており、その侍女は頷いて、こちらに向かってきた。
「失礼ですがご家族は?」
静宜は首を横に振った。侍女は再び女の人のところへ戻るとまた何か耳打ちし、侍女がやってきた。
「奥様が屋敷に来るようにと言っておられます」
そういうと侍女に手を引かれ、半ば強引に馬車に押し込まれて、連れて行かれた。
馬車の中でも奥様と呼ばれる女の人は顔の口元しか見えなかった。




