十六、本来生きるべき未来
小蘭はいつものように起きてきて、椅子に座って朝餉を待っていた。
いつもなら店の厨房に行ってる時間なのに珍しく父もいる。
母が朝餉を持ってきたので、食べようとしたが、父と母のただならぬ雰囲気を感じ、手を止め、二人ともどうしたのと聞いた。
しばらく沈黙があり、林晨が重い口を開いた。
「小蘭、お前に話がある・・・その・・・お前の過去の事だ」
「・・・過去?」
林晨は昨晩、劉翰と朱輝に話したことを全て伝えた。
小蘭は少しだけすっきりしたような顔で、捨てられた子供だったんだねと言った。
それに対し、林晨は否定した。
「はじめてあの男たちにあった時も、白髪の少女、お前のことを探しているみたいだった。あの二人のうち話していた男、劉翰といったか、その男はそれなりの身分だろう。恰好は俺たちが着ているようなやつだったが、話し方が普通の平民ではなかったからな。もしかしたら、お前はどこかの令嬢かもしれないぞ」
林晨は笑い声を上げるが、冷ややかな目で妻と娘に見られ、ゴホンと咳払いをした。
それから少し考え込んで、小蘭を優しく見つめ、穏やかな父親の顔をした。
「あの二人はお前の本当の家族を知っているのかもしれない。もし本当の家族の元に連れて帰ると言われたら・・・俺はそうしたほうがいいと思う。俺は、本来生きるべき小蘭の未来を奪ったのかもしれない。あの時、俺たちはお前を手放すべきだった。森の中に子供が捨てられてると報告すべきだった。だが、俺たちは子供を亡くした悲しみから救われるためにお前を娘として育てた。天意とさえ思った。それは間違いだった。本当の親がずっと待っていたのかもしれない。お前は戻るべきだ。本来、いるべき場所に」
徐媛も涙を流しながら頷いていた。
小蘭は首を横にふった。
「どんな理由があるとはいえ、私をここまで育ててくれたのは父上と母上です。父上が私を拾ってくれなければ、私は赤子の時にすでに死んでたでしょう。誰が何と言おうと私にとっての父と母は二人しかいません」
林晨と徐媛は小蘭を抱きしめ、声を上げて泣くのであった。
小蘭は、天井を見ながら涙をこらえていた。
翌日の夜、あの二人の若者が現れた。
林晨は二人を見て驚いた。
この前の町民の装いとは異なり、明らかに身分の高そうな服を着ていた。光沢のある生地で上質なものと見える。しかし、その服がどんな身分や役職を表すのか林晨にはわからなかった。
動揺しながらも、二人を家の中へ招き入れた。
部屋に入ってきた二人を見て、徐媛も林晨と同じ反応をした。
本日は本来の立場としてこちらに来まして、驚かせてしまい申し訳ございませんと劉翰は二人に向かって、頭を下げた。
林晨は徐媛に小蘭を呼びに行かせた。
しばらくして、白髪の美しい少女が現れた。
「はじめまして。林小蘭と申します」