十五、小蘭の思いと勇敢の誓い
勇敢はずっと不思議に思っていた。
小蘭が媛おばさんにおつかいを頼まれる時、俺は必ずついていった。
その日は決まって晴れの日だった。
雨の日は小蘭が外に出ることはなかった。
媛おばさんに理由を尋ねると、いつも同じ答えが返ってくる。
体の調子が悪いからだと。
俺は嘘だとわかっていた。でも、聞けなかった。
小蘭には何か秘密があるのだろうか。
その日は雲一つない青空で、蒸し暑い日だった。
いつものように媛おばさんにおつかいを頼まれ、二人で町を歩いていた。さすがに、暑いので手はつながなかった。
「しかし、暑いなぁ。小蘭は暑くないのか?」
私も暑いに決まってるじゃないと言いつつ、涼しげな顔をしている。
それにしても、いつ見てもきれいな顔である。この顔で笑顔を向けられれば、男は皆、花に引き寄せられる虫のように群がるだろう。感情表現が不器用でよかったとつくづく思う。
人の顔じっと見て何?と小蘭が俺に冷たい視線を送った時だった。
空が急に暗くなり、今にも雨が降りそうだった。
小蘭は慌てた様子で、急に俺の手を引っ張り、来た道を帰りだした。
俺は小蘭の手を持ったまま立ち止まり、まだ雨は降っていないし、店はすぐそこだから買ってから帰ればいいと提案した。店はもう見えていた。
小蘭は頑なに拒否し、一人で帰ると言って走っていった。
(急にどうしたんだよ・・・あんなに慌てた小蘭はじめて見るな)
不思議に思いながら、俺も追いかけるように小蘭の後を追った。
俺たちが小蘭の家に入る少し前に雨が降り始めた。
小蘭は飛び込むように家の中に入っていった。小蘭は息を切らしていた。
俺も息が切れ、膝に手をつき、頭を下げ、呼吸を整えていた。
小蘭が何も言わずに家の中に入ろうとしたので、手を引っ張り、顔を上げた。
俺はその時、あまりにも衝撃的な光景を見てしまい、驚いた表情をしたまま動けなかった。
小蘭は溜息をつき、何かを決意した表情で、家の中に入って、話すからと言った。
勇敢は一足先に着替えて待っていた。借りた着物は小蘭の父、林晨の着物だから少し小さかった。
着替えを終えた小蘭が部屋に入ってきた。
現れた小蘭は真っ白の絹のような髪をしており、その姿はいつもにも増して美しかった。
小蘭は座って、何から話そうかしばらく考え込んでいた。
痺れを切らした勇敢が小蘭に優しく問いかけた。
「ずっと隠してきたのか?」
小蘭は黙って頷いた。
またしばらく沈黙が続いたが、小蘭はじっと勇敢を見つめ、堰を切ったように話しはじめた。
物心ついた時には自分は人と違うことを理解していた。
毎朝、母が髪を黒に染め、雨が降る日は家から出られず、近くに住む子供たちと川遊びをすることもできなかった。
父が私を溺愛していることも、母が私を大切に思っていることもわかっていた。しかし、白髪の髪、それなりに美しい顔、琥珀色の瞳。どれをとっても両親とは程遠かった。二人の実の子供ではないということが心の奥底でくすぶっていた。
そのせいか、自分の感情を表に出すことができなくなっていた。
誰かから託された子供なのか、捨てられた子供なのか、そもそも私は一体何者なのか、真実を知るのも怖かった。
事実がどうであれ、私にとっては、林晨と徐媛、この二人が父と母なのだと思っている。
勇敢は小蘭の目をじっと見つめながら聞いていた。
話を聞き終えた勇敢は小蘭の手を取り、握りしめ、
「心配するな、小蘭。俺は誰にも言わない。俺にとっては白髪だろうが、黒髪だろうが、誰の子だろうが関係ない。小蘭は小蘭だ。何があっても俺は小蘭の味方だ。いつでも困った時は俺を頼れ」
(何があっても俺がお前を守ってやる。ずっとそばにいてやる)
勇敢は心の中で固く誓うのであった。
はじめて涙を流す小蘭を見て、勇敢は少しうれしく思ってしまった。