十四、あの日拾った花
林晨は一本の立派な大木の陰にあった木箱の中を、恐る恐る覗いてみた。
「こっ、これは!」
木箱の中には、はっきりとしたきれいな顔立ちで、瞳の色は琥珀色、髪が白髪のおそらく三月ぐらいの赤子がいた。
まるで小さな白い蘭の花のようだった。
「こんなにもきれいな赤子は見たことがない。もしかして異国の血でも入っているのだろうか。
だから、捨てられたのだろうか。どっちにしろ、このままにしておけない」
林晨は拾った赤子を家に連れて帰った。
徐媛は相変わらず泣き続けていた。美蓮、美蓮と名前を呼び続けながら。
すると、外から赤子の泣き声が聞こえてきた。
美蓮なの?と言って外に飛び出す勢いで走り出したら、目の前に林晨が現れた。その手には赤子が抱かれていた。
「あなた、美蓮なの?その子は美蓮なの?」
明らかに我が子ではない容貌だったが、突然の赤子の出現に徐媛は混乱していた。
林晨は徐媛を落ち着かせて、赤子を連れてきた経緯を話した。
「この子は美蓮ではないけれど、生きていたらちょうど同じぐらいだ。この子は普通の赤子とは違うから捨てられたのかもしれない。媛、これは天意かもしれない。我が子を亡くした俺たちに、捨てられたこの子を育てろと」
徐媛はしばらく黙って赤子を見つめていた。
その子を抱かせてほしいと言ったので、徐媛の両手に赤子をゆっくりとのせた。
徐媛はじっくりと赤子を見つめながら
「なんて美しい子なの。きれいな白髪・・・あなたが言うように天意よ。この子を我が子として育てましょう」
「あぁ、この子は私たちの子だ」
林晨は久しぶりに妻の笑顔を見て、ほっとし、肩をなでおろすのであった。
「そして俺たちは小蘭と名付けて、本当の娘として育ててきた」
本当に大切に育ててきたのだろう。娘の話をするときだけは、眉間にしわを寄せた気難しい顔が、優しい父親の顔になる。
今まで黙って聞いていた徐媛が娘について話だした。
小蘭の白髪は幼い頃から徐媛が毎日黒に染めていたという。雨の日は染料が落ち、白髪に戻ってしまうため、その日は家の中で過ごしていた。なぜ自分の髪が白髪なのか小蘭は一度も尋ねることはなかった。徐媛からも話すことはなかった。なぜなら、本当の娘ではないことを話さないといけなくなるからだ。それは辛い事だった。林晨も同じだった。
劉翰は深く頷きながら
「お二人の事情は理解できました。雪・・・じゃなくて小蘭が白髪であることはお二人だけが知っているのですか?」
徐媛は知っている者があと一人いると言った。
小蘭の幼馴染である黄勇敢。晴れた日は小蘭におつかいを頼むことがあり、必ず勇敢がついていった。ある時、雲一つない晴れた日から一転、急に雨が降ってきた時があり、その時に白髪であることが知られてしまった。
「勇敢は小蘭のことが好きだから誰にも話してないと思うわ」
それを聞いた劉翰の形相がみるみるうちに恐ろしくなっていく。
「小蘭は勇敢のことを親友としか思っていないみたいだけど。勇敢は小蘭しか見てないから。この前は、小蘭が十八になったら俺に嫁ぐ、みたいなことを言ってたかしら」
劉翰は、ぜひ会ってみたいですねと言ったが、会ったらすぐにでも殺しそうな雰囲気だった。
妹の悪い虫は排除せねばと劉翰がぶつぶつ言っているのが聞こえたが、朱輝は聞こえないふりをした。
林晨は再び口を開いた。
「今話したのがすべてだ。お前たちと小蘭の関係は知らないが、小蘭を連れ戻しにきたのだろう。どうするのか。連れて行くのか?」
先程までぶつぶつ言っていた劉翰が考えはじめた。
「一旦この話は持ち帰ります。あるお方に相談してから、今後の対応を決めさせていただきます。あと、お嬢さんには、私たちに話したことを伝えてください。いずれは話さないといけないことです。この機会に話してみてはいかがですか」
林晨と徐媛は顔を見合わせ、ゆっくり頷いた。
「それともう一つ。私たちの存在はまだ知らせないでください。私たちが何者であるかは、次お会いした時にお伝えいたしますので」
劉翰と朱輝はでは失礼しますと頭を下げ、家を出た。
「それにしても本当に話してくれるとは。どうしてわかったんだ?」
劉翰は作ったような笑顔をしながら
「勘です」
と言った。
「はぁ?」
冗談なのか本気なのかわからない答えに困惑する朱輝だった。




