十、朱輝と包子娘
俺は物心ついた時には、母と二人で生きていた。母は俺に優しく、いつも笑顔で、きれいな人だった。貧しい生活だったが、母との暮らしは幸せだった。
しかし、俺が十歳の時、母が知らない男たちに連れて行かれた。俺は必死に男たちに対抗して母を連れ戻そうとしたが、勝てるわけがない。
母は、輝、家で大人しく待ってて、すぐ帰るからと言っていたが、心配でこっそり跡をつけていった。
路地裏で母の悲鳴が聞こえ、恐る恐る覗いてみた。
母は服を脱がされ、男たちは笑いながら何かをしていた。
俺は何が起きてるのかわからなかったが、怖くなり、走って家に帰り、部屋の隅で震えていた。
その日母は帰ってこなかった。
翌日、俺は昨日母を最後に見た路地裏に走った。
そこには人だかりができていた。人をかき分け、行きついた先は、母の無惨な姿だった。
(絶対にあの男たちの顔を忘れない。いつか必ず・・・)
その日から俺は物乞いになった。
毎日あてもなく町をうろついていた。
ごみを漁り、畑から野菜を盗み、人から銭を盗む。生きるためだった。
時には盗みが見つかってしまい、殴られ、蹴られ、体中青あざができ、動けない日もあった。
ほとんどの人間が蔑んだ目で俺を見ていた。
俺も人を人として見ないようにしていた。
ある日俺はいつものように町をうろついていた。
いい匂いが風を伝い、俺の鼻に届く。
もう何日食べてないだろうか。匂いにつられてその方向へ歩いていく。
ある食事処の料理の匂いだった。
陰から様子を覗くと客がおいしそうに飯をかきこんでいた。
ぐぅ~
自分の腹が腹立たしい。
俺はその店の近くの物陰に隠れていた。
「はぁ、飯が降ってこないかなぁ」
とつぶやいた時、何かが俺に飛んできた。
(包子?)
俺が不思議そうに包子を見ていると
「お兄さんお腹空いてるんでしょ?」
声のする方に顔を向けた。体の大きさからすると六、七歳ぐらいだろうか。子供がこっちを見ていた。よくよく顔を見ると、その小さな体にはそぐわないほど、美しい顔立ちで、琥珀色のきれいな瞳がじっとこっちを見ていた。
「お兄さん、その包子あげるよ」
俺は久しぶりのごちそうを一口、口に入れた。あまりの美味しさに泣きながら貪った。
勢いよく食べ過ぎて、途中でゲホッゲホッと咽てしまった。
先程の包子娘がゆっくり食べてねと言いながら、包子を三つと水を持ってきてくれた。
ありがとうとお礼を言って、今度はゆっくり食べた。
遠くの方から包子娘の名前を呼ぶ母親の声が聞こえてきた。
お兄さん、また来てねと言いながら手を振り、母親のところへ去って行った。
何とも不思議な子だった。終始顔の表情が変わらず、淡々と話す。
(また、来ようかな・・・)
久しぶりに人の温かさを感じた。
しかし、この日以降、あの包子娘に会うことはなかった。
命をかけてもよい恩人と出会ってしまったからである。




