プロローグ
「はっはっはっ」
二人の男は必死に逃げていた。木が生い茂げ、月明かりさえ見えない森の中を。
頼りになるのは手に持っている火折子だけだ。
男たちはひたすら走っていた。どこに向かって走っているのかすらわからないまま。
男たちの後ろからは追手たちの"待て"という声と駆け抜ける馬の蹄の音が聞こえる。
一人は背が低く無精ひげを生やし、いかにも鈍足そうな男である。
もう一人はすらりとした長身の男で二十そこそこだろうか、服装が違ったならば高貴な家の出だと思うことであろう。
鈍足男は、このままでは追いつかれてしまうとぜぇぜぇ息を上げながら言った。
長身男は心の中で、誰のせいだ、お前が遅いからだろ、相棒はきちんと選ぶべきだったと考えながらもなんとか打開策を考えていた。
(このままじゃ追いつかれるのは時間の問題だ。こいつをどうにかしないと・・・)
長身男は布に包まれた何かを背負っていた。走りながらも時々後ろを振り向き、心配そうな顔をしながらそれを見つめていた。
左側になんとか下れそう斜面を見つけた。そこだけなぜか木々が生い茂っていない。下までそこそこの高さで急斜面だが死にはしないだろう。それにこの斜面なら馬も下れないだろう。
「おいっ、こっちだ」
長身男は瞬く間に斜面を下りていった。
鈍足男は長身男が疾風のごとく下って行ったので、このままでは置いて行かれると思い、長身男の真似をして下ったが、結局足がもつれ、転がり落ちるように下っていった。
斜面を転がり落ち、止まることができなったが、転がり落ち、着いた場所は長身男の目の前であった。
(鈍足のくせに運だけはいいやつだな。それよりも、はやくこいつをなんとかせねば・・・)
追手の者たちの声は遠ざかったがまだ油断はできない。
長身男は背中に背負っていたものを両手に抱いた。立ち止まり辺りを見回しはじめた。
鈍足男は息が切れ、はぁはぁ言いながら不思議そうに長身男を見つめていた。
(ん?あれは?)
長身男は生い茂っている草をかき分け、木箱を見つけた。だいたい2尺ぐらいの大きさだろうか。側面には何か文字が書かれているが、だいぶ年月がたったのだろう、読めない。
追手の者たちの声が近づいてきている。
(後で必ず・・・)
長身男は布に包まれた何かをそっと木箱の中に入れた。それからまた辺りを見回して、樹齢何年だろうか、一本だけ立派な大木があり、その木の陰に隠した。
鈍足男には何も言わずに、再び疾風のごとく去って行った。鈍足男はびっくりした表情をし、慌てて長身男を追いかけた。
しかし、二人の男が共にこの場所を訪れることはなかった。
翌朝、ある男が森の中を歩いていた。男はやせ細っており、見た目は四十近くだ。
(あぁ、どうすれば・・・)
男は何かに取り憑かれたようにぶつぶつ言いながら歩いていた。
しばらく歩き続けていると、少し先の方に立派な大木が見えてきた。遠くからでも一目でわかる。明らかに幹の太さ、高さが群を抜いていた。
立派な大木だなと感心していると、何かが聞こえてきた。男は立ち止まり、耳を澄ました。
獣の声かと思い、持っていた鎌を構えて、震えながらも声のするほうへ近づいていく。
声を追ってゆっくりゆっくり進んで行くと、一本の立派な大木に着いた。
(声はここから聞こえる・・・何の声だ?)
すると、木の陰にある木箱を見つけた。
(声はここからだ)
恐る恐る箱の中を覗いてみた。
「こっ、これは!」




