3 現場映像収録作戦
「そもそも先生、これ、ワープなんですか。テレポートなんですか」
理科の時間に、また菊池君が事件について橋口先生に質問した。
「うーん。ワープだと光速移動で、テレポートだと瞬間移動だな。まったく別の現象なんだけど、起こることは同じ。さて、どっちかなぁ」
「移動した人の話では、なんの前ぶれもなく別の場所に来たって、みんな言ってます。だから、ぼくは瞬間移動のテレポートだと思います」
「うん。しかし、ワープの真空ホール超光速移動でも、人間には瞬間で移動しているようにしか感じられないんだ」
「そうなんですか。へ~」
そんなの、ぼくたちにはどっちでいいことだったけど、テレビでは専門家と称する怪しい人たちが難しい顔をして意見を言い合う座談会も開かれた。
「怪奇現象でもオカルトでもありません。きちんと物理的に検証すれば必ず原因がわかります。まずは手がかりです」
「その手がかりがまるでない。空間が開いてすぐ閉じちゃいますからね」
「現場をつかまえるしかありませんな」
「半分出たとこでタックルかませりゃ、空間、開いたままですわ」
「いつ、どこから出るかわかったら苦労しませんよ」
「地磁気や放射線なんかも調べたんですが異常ありません」
「お手上げですな」
「ビデオカメラ、千台ほど設置してみますか。なんか判るかもしれません」
そのテレビ番組が企画したカメラ千台設置計画は、図工の八馬先生が協力した。八馬先生はカメラが大好きで、みんなにも写真のおもしろさを知ってほしいと写真部をつくったほどだ。男子だけでなく女子もけっこう部員が集まって、休日には撮影会もやっている。それはさておき、八馬先生の指示で部員がちゃっちゃかとビデオカメラをセッティングして回った。三百台も置けばカバーできるところをムリしてほんとに千台置いてしまった。
「いや、メンテがたいへんだわ。きみたち、トイレには置いてないから安心したまえ。プライバシーぎりぎりだけどね」
しばらく後のこと、またテレビで特番が組まれた。
「いや映ってるんですよ、たしかに。でもね」
「そうだね、これじゃあね」
「出る前と、出た後だもんね、これ」
「うーん。かんじんなとこが映ってないですね」
「ぽっかり空いた空間とか裂け目を期待したんだが」
「どれを見ても、出る前のコマと、もう次のコマでは全身が出ちゃってるもんね。コマをいくら検証しても空間の裂け目はない」
「カメラは1秒間に60コマ撮ってます。それよりも速い速度で空間が開閉しているのかも」
「一つの現象を複数台で捉えたのもあるけど同じだよ。互いにコマが多少ズレてるはずだけど、どのコマも出る前、出た後のばっか」
「てことはこれ、ワームホールとか空間の裂け目じゃないかもね。光速移動か瞬間移動、ワープかテレポートか」
「ワープの高速移動は空気あるとムリじゃねえか。真空でしょ。だとすると、真空のホールが出現してなきゃおかしいわな。でも映ってない」
「瞬間移動のテレポートにしても、空気で満たされている空間に突如として出現するわけだから、空気が跳ねられるというか、排除されるゆらぎみたいなモン見たかったなぁ」
結局、話は元にもどってしまった。ちなみにこのときの映像はまたも三上君だった。
スターティングブロックを置いて実戦練習をしていたとき、ブロックから足が離れた瞬間、背後から現れた大きな人にタックルされたのだ。なんと、それは、ラグビー日本代表リーチ・マイケル選手だった。これには気を失った三上君も後で知って驚くやら感激するやら、興奮しまくっていた。カメラは念のため、そのままに置かれることになった。