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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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93.修羅場の跡

 ───翌日の朝、俺はデュランダルの案内でタケシさんの家へと向かっていた。本来ならば崩れた外壁から侵入者が来ないか警備しないといけないのだが、今日に限っては事情を説明して警備を代わって貰っている。聞いた話によると俺の代わりに入口の警備をしているのはルークの隊らしい。

 警備の交代についてはジェイクに頼んだ訳なんだが、騎士団の者に話した際に彼が真っ先に名乗り出てくれたそうだ。今度お礼をしに行かないといけないな。


 早朝という事もあり歩いている人影は少ない。警備の為に巡回している騎士くらいか?国民の殆どは王宮や教会へと避難している。

 どちらも国を象徴する建物らしく建物もバカでかい上に敷地も広い。それでも国民全てを受け入れる事は出来ないので、被害の少なかった貴族の屋敷などに避難しているそうだ。


 巡回している騎士に挨拶しながら崩れた道を歩く。まだ倒壊した建物はそのままであり、道もひび割れや穴が目立つ。倒壊した建物の中から生存者も救助されているそうだが、生きている者より亡くなった者の方が多いそうだ。

 今回の騒動で亡くなった者の遺体は既に教会に運び込まれおり、身元が分かった者から順に埋葬されている。被害の確認が終わった区域から倒壊した建物を撤去して、また新しく居住スペースを建てていく予定らしいが再興までに時間はかかるだろうな。

 建物を一瞬で生み出すような都合のいい魔法は存在しない。倒壊した建物は魔法で消し去る事が出来るので倒壊した建物の撤去という点だけなら前世より遥かに早いだろう。


 今回の騒動におけるせめてもの救いは倒したドラゴンから取得した魔晶石の存在だろうな。土地の開拓等にも使われる大型の魔導器を動かすのに必要不可欠なアイテムだが、貴重な鉱石な為なかなか表に出回る事はない。

 ドラゴンのような体内に魔石を蓄える魔物を討伐すれば入手する事は出来るのだが、そういった魔物はどれも手強く1つ手に入れるのに少なくない犠牲が出る。今回の騒動では災害級指定の魔物の危険度を改めて実感出来た。

 その見返りとして大量の魔晶石と魔物の素材の入手出来た訳だが…。亡くなった者の事を考えればそれを利として捉える事は出来ないだろう。大量に入手した魔晶石によって一日でも早く復興が進む事を祈る。


「もう直ぐ王宮ですね」

「本当にあの近くにあるのか?」

「はい。王宮の近くまで行ったら分かりますよ」


 巡回している騎士以外に人の姿がない為、こうしてデュランダルに案内して貰う事が出来ている。早朝からタケシさんの家に向かっているのは、デュランダルが道案内しやすいように人の少ない時間を選んだからだ。この手にタケシさんの書いた地図も持ってはいるが、正直この地図では詳細な場所は分からない。地図に書いてある大きな建物はおそらく王宮の事を差しているのだろうが、なんだこの四角の上に玉ねぎを乗せたような絵は? 玉ねぎに見えなくもないが、流石にそれは王宮に失礼だろう。

 この地図を見る限り王宮の直ぐ近くに大きな岩があり、そこを矢印が示している。岩…なんだんだよなこれ。ギザギザな雲みたいな絵に『岩』って書いてある。この岩の近くにあるのか?

 デュランダルの道案内がなければ到底、目的地に辿り着く事は出来ないだろう。


 王宮に近付くにつれ巡回する騎士の数が増えた。こうなる事は予想出来ていたのであらかじめどこら辺かをデュランダルに聞いているので、迷いなく進める。

 多くの国民が避難し、エルフの国(テルマ)を統治する女王陛下が御座す王宮の警備が厳重になるのは至極当然の事だ。俺の顔は既に騎士たちの間で知れ渡っているのか、こちらに向かって会釈をすると直ぐに巡回に戻っていく。

 王宮の中へと入ろうとすれば流石に止められるだろうが俺の目的地とは違うので問題ないだろう。


 デュランダルに言われた通りに歩いていけば地図にも書かれている大きな岩が目に付いた。俺が想像していたより大きいな。タケシさんが書いた玉ねぎと同じ位の大きさだったから小さいかと思ったが普通に大きい。15、いや20mくらいか? やけに大きいな。

 王宮からさほど離れていない位置に無造作に置かれた岩。何の変哲もない岩だ。置かれている場所だけがどこか違和感を感じる。触った感触は普通の岩だな。俺が押した所でピクリとも動かないだろう。

 このサイズの岩は邪魔になったりしないのだろうか? 王宮を拡張しようと思えば間違いなく邪魔になる位置にある。少なくともタケシさんが居た時代から存在していた事になるが…。


「ここで合っているのか?」

「はい。地図にも書いてある通りここが前のマスターの家です」


 どこか懐かしそうに弾んだ声でデュランダルが告げる。家?これが?

 俺の見間違いだろうか? 俺の視界に映るのは先程から変わらず、大きいだけの変哲もないただの岩だ。これを家と呼ぶには無理がある。


「どう見ても岩なんだが?」

「マスターの目の前にある岩は一言で言ってしまうとエルフの王族だけが知る、緊急の避難場所です」

「この岩がか?」


 緊急の避難場所と呼ばれても納得出来るものではないぞ。俺が首を傾げて唸っているのをデュランダルが可笑しそうに笑っている。


「パッと見はただの岩ですよ。近付いてよく見てください」


 既に触れるくらいには近付いているが、デュランダルがよく見ろという事は俺が見落としているモノがあるのだろう。目を凝らして岩を確認していると不自然な所が1つ見つかった。地面に近い位置に文字が掘られている。何て書いてあるかは分からない。古代文字か? 前世でも今世でもこんな文字は見たことがないぞ。


「マスターが見ているその文字に魔力を流してみてください。そこが入口です」


 これが本当に入口なのかと考えるのも馬鹿らしくなってきたので、言われるがままに岩に掘られた文字に触れ魔力を流す。俺の体が光に包まれ、警戒する間もなく気付けば見知らぬ空間にいた。


「どこだ此処は?」


 どこか見覚えがある空間だ。嗚呼…そうか、ミラベルと夢で会う場所と似ているのか。辺り一面白一色の空間。俺の知る夢の中の空間と違って俺が今いるスペースはそれほど大きくない。部屋で言うところの四畳半くらいの広さか?

 雲のようなフカフカとした床、その足元に1m程の魔法陣が刻まれている。床の一部に赤黒い染みが残っているのは見なかった事にしよう。四方は白い壁に囲まれており、それぞれの壁には色の異なる扉がある。白一色の空間で広さを認識出来たのは、この扉のお陰だ。天井も同じく白。正直に言って居心地は良くないな。


「此処は時空の裂け目です」

「時空の裂け目?」

「はい。世界各地に同様のモノが確認されていますね。何の意図で作られたかは不明ですが、刻まれた文字や魔法陣に魔力を流すとこのような空間に飛ばされます」

「こんな空間が幾つか存在するのか?」

「私が知っているのはレグ遺跡とタングマリン、ジャングル大帝の3箇所ですね。この空間の特徴は時間の流れが異なる点です」


 なんだそれは?


「といっても大きな差はないですよ。気持ちこちらの空間の方が時間が経つのが遅いくらいです。前のマスター曰く『3分が5分に伸びたような感覚』だそうです」


 要するにこの空間で5分過ごしたとしても俺たちが居た元の場所では3分しか経っていないという事か。微妙すぎるな。この微妙な誤差にタケシさんも良く気付いたものだ。


「この空間を創ったのはこの世界の神だそうですよ。前のマスターがこの空間の名称と創った者は聞き出せたのですが、それ以上はミラベルも分からないと言われてそれで終わっています」


 ミカが創ったのか? それなら彼女に聞ければ何の目的で創ったか知る事が出来る。ミカに聞きたいことが増えていくな。出来ればそろそろ話しかけてきて欲しい所なんだが…。こちらから接触する方法がない以上、あちらからコンタクトを取ってくるのを待つしかない。


「この鍵は4つの扉のいずれか1つを開ける為のものか?」

「はい。マスターから見て右側の緑色の扉の鍵になります。そこが前のマスターの家になります」


 正面には赤い扉。時計回りで赤、緑、黄、青と4つの扉がある。俺の持つ鍵は緑色の扉を開ける為のもの。残り三つの扉の鍵はおそらくエルフの王族が持っているんじゃないか?

 何となくだが、状況が飲み込めてきた。


「1つ確認したいんだが、この鍵の元々の持ち主はメリルか?」

「はい。前のマスターが元々住んでいた家が修羅場が起きた際に全焼しまして、住む場所に困った前のマスターにメリルが此処はどうかと案内した結果、『最高でござるぅ!』とウザイくらいに喜んで譲り受けました」

「色々と言いたい事はあるんだが…」

「修羅場の件とかですか?それとも譲り受けた家がメリルとの逢い引きの場所に使われた事ですか?」

「他にもありそうだな」

「前のマスターはここでメリルに刺されました」


 あぁ、なるほど。見ないように目を背けていたが白い空間で存在感を放つ血痕はタケシさんのものか。ふぅ…。










 ───タケシ!

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