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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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90.詰みポイント?

 唐突なカミングアウトの所為で先程まで浸っていた悲しみがどっかに行ってしまった。ふざんな。いや、それはまぁいい。愛する人か…ジェイクは男だよな?

 俺の記憶違いでなければローウェン卿は男性だった筈だ。彼の遺体を埋葬する場には俺も立ち会ったが、エルフにしては珍しく立派な顎髭を生やしていた。長命種である為、顔は若く見えたな。威厳を出すために髭を生やしているのだろうか?人間や獣人と違って一定の年齢で老化が止まるのだから羨ましい話だ。

 それと、ルークから聞いた話ではローウェン卿は既婚者で2人の娘がいると聞いたが…。


「ローウェン卿は確かご結婚なされていると聞きましたが」

「はい。叶わぬ恋でございました」


 あ、やっぱりそういう事なのか。深くは言うまい。人の思いというのは定められたモノではない。多種多様な思想や趣向がある。それを否定するつもりはない。ジェイク自身も叶わぬ恋と認めているようだった。彼は胸に秘めた思いを伝えたのだろうか? いや、彼の表情を見ると伝えていない事が予想出来た。

 この世界においても同性同士の恋というのは一般的ではないからな。理解がない訳ではないが難しい恋ではあったのだろう。


「俺も一度お会いして話す事が出来たら良かったのですが…」

「ローウェン卿もそう思っておいでですよ。よくカイル殿の名前を口にしておりましてので」

「俺の名前を?」

「はい。『剣聖』カイル・グラフェムと『聖騎士』ローウェン、どちらが強いのかと国民が良く話しておりましたので」


 どこの世界でもそういった討論は起きるのだろう。そういった話を聞かなかった訳ではない。『剣聖』という称号が持つ影響は俺が思っていた以上に大きいものらしく、よく引き合いに出される事がある。

 エルフ最強の騎士である『聖騎士』と最強の剣士の称号で『剣聖』。どちらが真に最強か決めたい者がいるようだ。エルフの国では当然ではあるがローウェン卿が人気なのだから、どちらが強いかと意見を聞けば俺ではなくローウェン卿を選びそうだな。


「俺ではローウェン卿には勝てないでしょうね

「ご謙遜を。私が見るにカイル殿の実力はローウェン卿を超えていると思います。私たちではドレイク(あの男)に傷一つ付ける事が出来なかった」

「俺の場合は仲間がいたからですよ。エクレア達のサポートがなければ俺の剣は届かなかったと思います」

「仲間という意味で言うのなら私達も部下を率いていましたので一人ではなかったですよ。いえ、これ以上は不毛ですね。この話は流してください」


 ジェイクが首を横に振る。些細な動作ではあるが色男がやるとその姿も絵になるな。創作の世界から飛び出てきたような理想的な騎士の立ち振る舞いをしているのが彼だ。

 普段は後ろで髪を纏めているが、今は解いているようで長い金髪が風に靡いている。エルフというのは美形が多いとつくづく思う。色白な肌と目鼻立ちの整った顔立ち。憂いを帯びた深緑に瞳で見つめられたら乙女はメロメロになるんじゃないか?

 まぁ、彼の好意は亡きローウェン卿に向けられている訳だが…。


 焚き火の炎が風に吹かれてユラユラと揺れている。太陽も随分前に沈んだ。夜も深まる時刻だ。魔道具を使えばこの暗闇を照らす事も出来るがあえて使っていないので、この場の明かりは俺の目の前にある焚き火だけだ。

 2人揃って焚き火を眺めること数秒。会話のない沈黙も不思議と悪くないと思っていたが、視線を感じてジェイクに顔を向けると沈黙を破るように彼が口を開いた。


「カイル殿は騎士になる気はありませんか?」

「騎士ですか?」

「はい。ダル殿に聞いた話によればカイル殿はフリーの傭兵だとか。カイル殿程の御仁ならば傭兵などではなく騎士としてもやっていけるのではないかと思いまして」

「騎士になろうとは考えた事もなかったですね」

「何かご理由でも?」


 騎士にならなかった理由を聞かれてもパッと答えが浮かばなかった。ジェイクの疑問も良く分かる。騎士と傭兵では天と地ほどの階級の差がある。身分が違えば扱いも当然違う。

 騎士は国に仕える者として社会的にも高い階級に属している。前世で言うなら公務員のようなものだ。対して傭兵は金で雇われた契約社員のようなモノで、騎士と違い替えのきく捨て駒としてその命を軽く扱われる事もある。

 それに仕事が終われば雇い主との関係はそれで終わりだ。一定の国に留まらず仕事を求めて世界各地を放浪するのも傭兵の特徴だろう。

 騎士のように収入が安定している訳でもなく、危険な戦場に身を置く事も多い。安息からかけ離れた職業とも言える。


 最も傭兵の大多数が最初から傭兵になろうとは考えていない。騎士になろうとして夢破れた者や、生きる為に仕方なく傭兵になった者が大部分を占める。俺の育ての親であるリゼットさんは前者に当たる。彼女の場合は産まれた国であるクレマトラスで騎士になりたかったが、魔法の才能がなかった為騎士になる事が出来なかった。

 分かりきった事ではあるがこの世界は魔法というモノを重視している。騎士になる者の最低条件に『魔法が使える』という項目があるほどだ。剣の腕は後からでも鍛えられるが魔法だけは生まれ持っての才能だ。産まれた時点でふるいにかけられると言っていい。


 現代において魔法が重視されているのは遙か昔から魔法の探求に熱心だったのもあるだろうが、一番は俺たちの脅威となっている魔族の存在だろう。

 人間とエルフの2つの勢力において仮想敵となっているのは魔族だ。強力な『闇』属性の魔法を使う彼らに対抗するにはこちらも魔法を使うしかない。剣1本で魔族に対抗する事など本来は不可能とされている。遠距離から攻撃出来る相手に剣だけでは近寄る事さえ困難だからな。

 その為、強力な闇属性に対抗する為に魔法の研究をする魔法使いの社会的地位は当然ながら高い。はっきり言ってしまえば騎士よりも上だ。

 優れた魔法使いに関して言えば下手な貴族より権力を持っている。魔法という存在はそれだけこの世界では大きな意味を持つ。


 俺が騎士にならなかったのは魔法が使えない、その一点に尽きるだろう。今はデュランダルの『蓄積』のお陰で魔法(メテオ)を使う事が出来るが、俺にとって魔法は使えない代物だった。魔法使いになんて当然なれる訳がない。魔法が使える事が最低条件の騎士にもなれない。そうなると俺が選べる選択肢は少なかった。

 とは言っても傭兵一択という訳ではなかった。幼い頃からリゼットさんに拾われ傭兵として生きてきたが、独り立ちする時に幾つかの選択肢は存在した。

 商人や農民になって戦いから離れる事も出来ただろう。前世の経験からそれなりに料理を作る事も出来た。その腕を鍛えて料理人としての道を進む事も出来た筈だ。それでも傭兵として生きる事を選んだのは、真っ当な道を歩むには俺の手があまりに血に染まりすぎていたからだろう。

 感覚が麻痺するほど人を殺した。殺す為に剣の腕を鍛えた。俺の最も優れた才は人殺しの才だった。魔族という脅威がいる今はいいが、平和な世界では無用の長物かも知れない。


「俺が騎士にならなかった理由は簡単ですよ、魔法が使えないからなれなかった。それだけです」

「あぁ…人間の国では騎士になるのに魔法が使える事が最低条件でしたか。私たちの国とは少し違いますね」

「エルフの国は『聖』属性の適正がある、あるいは教会の神を信仰している。そのどちらか1つが当てはまれば騎士になれる」

「その通りです。どうです、カイル殿もエルフの国(テルマ)で騎士になりませんか?」

「嬉しいお誘いですが、俺はどちらにも当てはまらないので…。それに今は勇者パーティーとして魔王の討伐を第一に考えないといけないですからね」


 エルフの国の騎士の最低条件が人間の国と違うのは実に単純だ。エルフは人間に比べて魔力の絶対量が多い。その為、基本的に魔力が足りず魔法が使えないとなる事がない。エルフにとって魔法は使えて当たり前のモノだ。

 だからこそ重視するのは彼らエルフが信仰を捧げる神の存在。エルフにとって神とは唯一無二の絶対者だ。神の語る言葉こそがこの世の理とまで言っている。そんな神が司るとされる聖属性をエルフが重視するのは必然と言える。

 ジェイクが俺を誘ってくれたのは嬉しく思うが残念ながら俺は聖属性は使えないし、騎士になる為に教会に入信するつもりはない。神に対する信仰心がないのだから門前払いの可能性が高いな。

 実際にやり取りしたミカを考えると信仰を捧げようとは思えない。なんと言うかポンの匂いがする。


「そうですか…、残念です。もし、気が変わったら仰ってください。カイル殿が魔王を討伐した頃なら私がエルフの国(テルマ)の騎士団長になっていると思います」

「その可能性は高いでしょうね」


 『薔薇の騎士』に次ぐエルフの国の戦力『妖精の騎士』が不在とはいえ、この国の騎士は現在ジェイクの指揮で動いている。

 ローウェン卿の右腕であり薔薇の騎士の副団長である彼の権力はそれだけ大きい。騎士団の実質No.2なのだから彼が騎士団長となるのは自然な流れだろう。


「カイル殿が望むならエルフの国(テルマ)の騎士として迎え入れますよ。それこそ私の右腕…いえ、私に代わって騎士団長になってくれても構いません」

「俺には荷が重いですよ。俺の事を評価してくれている事は嬉しいですが」

「分かりました。今の話は頭の片隅にでも置いておいてください。未来がどうなっているかは分かりませんからね。魔王を討伐した後に、安定を求めて騎士なりたいって思いが湧くかもしれませんし」


 フフフっと笑う姿が嫌味な程に似合っているな。ジェイクの言う通り未来がどうなっているかは分からない。それでも騎士になる事を選ぶだろうか? 疑問だな。


「あ!申し訳ありません。カイル殿から頼まれていた事が判明しましたので、その事をお伝えしようとこの場まで来たのですが本来の目的を忘れていました」


 申し訳なさそうにジェイクが頭を下げる。慌てて気にしなくていいから頭を上げて欲しいと伝えると、直ぐに応じてくれた。真剣な表情のジェイクと目が合う。

 彼に頼んだ事は2つ。ノエル宛に書いて手紙を届けて欲しいのと、『世界樹の巫女』について知ってる事を教えて欲しい。前者は既に手配してくれている。後者に関してはジェイクも『世界樹の巫女』という存在は聞いた事がないと返答を貰っている。

 世界樹の巫女に関してはノエルに聞けば何か分かるかなーと考えていたので特に気にしていなかったが、ジェイクのプライドが許せなかったのか『知っている者がいるか探しますので少し時間をください』と強い口調で捲し立てられ、多忙なジェイクにお願いする事を申し訳なく思いつつ頼んでしまった。

 この様子だと世界樹の巫女について分かったのだろうか?


「世界樹の巫女について分かったのですか?」

「はい。教会の上層部が隠蔽していた為情報を入手するのに苦労しましたが、我が国の大臣が亡くなったエドモンド様とご友人であられたので事情を説明して教えて頂きました」

「お手数お掛けしてすみません」

「カイル殿のお力になりたかったので」


 爽やかな笑顔だ。色男がすると華がある。いい笑顔だ。けど視線が熱っぽいのは気の所為か? 焚き火の所為という事にしておこう。


「世界樹の巫女についてですが、大臣も詳しい所在地は存じ上げないそうです。何でも8年ほど前に教会を抜けたそうなので」

「教会を抜けた?」

「はい。結婚を機に教会から抜けたそうです。世界樹の巫女としての役割は大陸の何処でいても影響はない事からエドモンド様がお許しされたようですね」

「なるほど…」

「教会を抜ける前に向かう場所を仰っていたようです。8年前になるので其処に居るとは断言出来ませんが手掛かりになればと」

「その場所は?」

「クレマトラス領内、大陸の南東に位置する『ナノハナ』と呼ばれる町です」


 ジェイクから告げられて場所は俺も良く知る場所だった。勇者パーティーとして一度訪れた事がある。そして、そこで起きた騒動は良くも悪くも俺たちに爪痕を残した。


「その地に住むベリエルという男と結婚する為に世界樹の巫女は向かったそうです」

「ベリエル?」


 知っている町に住む聞き覚えのある名前。出来れば外れて欲しいと思いながらジェイクに尋ねる。


「世界樹の巫女の名前はご存知でしょうか?」

「はい。人探して一番大事な事なので大臣から聞いております。世界樹の巫女、彼女の名前はアイリス。アイリス・スノーフレーク。教会の者からは聖女とも呼ばれていたようですね」






 ───もしかして、詰んだか?

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