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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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88.始まりの記憶

 ───彼女と初めて出会ったのは勇者パーティーとして招集された時だろう。この時はまだ彼女が女性だと気付かずに、同性だと思って接していた筈だ。


「初っ端から色々な事が起きて大丈夫かっていう思いもあると思うけど、これから一緒に旅をする仲間の事をある程度知っておきたいんだ。少しだけ時間を取って自己紹介しないか?」


 城を出て直ぐに勇者が窃盗を行い捕まった。汚い話ではあるが保釈金と賠償金を払って勇者を釈放して貰い、その間待っていて貰った仲間と合流した。

 幸先の良い旅のスタートとは言えないが、これから長い旅が始まる事が予想される。全員が全員初対面である以上、仲間について最低限知っておくべき事はあるだろう。

 本来なら中核である勇者が場を仕切るべきなんだが、何故かは知らないが彼女は喋ろうとしない。話を円滑に進める為に仕方なく俺が話を切り出した訳だ。だからいきなり舌打ちするのはやめて欲しい。

 エルフの少女のゴミでも見るような冷たい目が心にくる。喋るだけで舌打ちされたらこの先やっていける自信がなくなるぞ。


 実力者を集めたのは分かるがここまで癖のある人選になるとは国王も思っていなかったんじゃないか? 勇者パーティーの一人に選ばれた時は光栄に思えたが貧乏クジを引かされた気分だ。


「うむ!仲間の事を知っておくのは大事な事なのじゃ!」

「そう言ってくれると助かるよ」


 仲間の反応はそれぞれだ。無言の勇者、舌打ちするエルフ、豪快に笑うだけの獣人、酒を飲むドワーフ。帰っていいかな? 赤毛の少女がいなければ辞退して今すぐにでもフリーの傭兵に戻っていた所だ。


「言い出した本人だし俺から名乗っておくよ。俺の名前はカイル。カイル・グラフェム。『アルカディア王国』に所属しているフリーの傭兵だ。

魔法の適正がないから前衛を務める予定だ。これからよろしく頼む」


 仲間の反応は様々。赤毛の少女は元気な声でうむ!と返事をしてくれた。獣人は相変わらず笑うだけ。勇者は小さく頷く。頼むから喋ってくれ。

 ドワーフの女性はお酒を飲みながらよろしくーって軽い反応。エルフの少女の舌打ちがやはり1番心にきた。

 次は誰がするか。皆の視線が勇者に集まるが彼女は話す気配がない。無言のまま俺たちの顔を確認するように見回すだけだ。喋るのが苦手なタイプか?まぁ彼女に関してはここにいる皆が誰か分かっているだろう。


「エクレア・フェルグラントだったかな?」


 エクレアがコクリと頷く。聞くまでもなく皆が知っている。彼女が喋る気配がなかったので尋ねただけだ。

 勇者の血筋として知られるフェルグラント家の神童。彼女の名前は魔族の被害が増えるにつれ、世界中に広がっていった。それだけ皆が望んでいるのだろう。魔族の脅威から世界を救う勇者の存在を。そんな勇者が犯罪を犯すのは勘弁してくれ。


「我はダルなのじゃ!得意な魔法は『火』属性の魔法なのじゃ!よろしく頼む」


 腰に手を当てて得意気な表情を浮かべる赤毛の少女───ダル。簡潔な挨拶だ。彼女の場合は経歴だったり不明な点が多い。色々と聞きたい事はあるが初対面で深く追求するのは野暮というものだろう。旅をしていればいずれ分かる事だ。

 それに王様が彼女を紹介する時に索敵やマッピングが得意と言っていた。盗賊(シーフ)としての適正があるのだろう。


「サーシャ・ルシルフェルよー。賢者の塔に所属しているわ。見ての通り魔法使いだから、前衛は任せるわねー」


 真昼間からお酒を実に美味しそうに飲んでいる。そんな姿を見て魔法使いと判断出来るだろうか? 彼女が持っているのは杖ではなく酒瓶なのも笑えない。彼女が世界中の魔法使いが集まるとされる賢者の塔のNo.2なのだから驚きだ。

 『若き賢者』サーシャ・ルシルフェルの名前は魔法使いで知らない者はいない。剣士である俺ですら知っている名前だ。高名な魔法使いが仲間なのは心強いと思っていたが、ここまでの酒好きとは思わなかった。

 俺の計算違いでなければ今飲んでる酒は12本目だ。ドワーフだから酒が強いのは分かるが、こうして話している間も飲んでいる姿を見ると不安になる。


「ノエル・キリストフ。人間は話しかけないでくれるかな」


 仲間の視線が集まるのを感じてたかエルフの少女───ノエルが口を開いたが言葉に棘がある。特に俺を見る目がキツイな。人間の男が嫌いなのだろうか。

 ノエル・キリストフ。教会に仕える神官の一人で『大司祭』の地位に着く重鎮だ。2年前に起きた騒動で顔を合わせているが、彼女は覚えていないらしい。あるいは興味がないのかも知れない。

 現存する『聖』属性の魔法全てを使える神童としてその名は教会だけでなく世界全土で知られている。長い歴史から見ても聖属性の魔法を全て使えた存在が彼女しかいない。今まで誰一人として達成出来なかった偉業と言えるだろう。

 人間嫌いではないかという噂は聞いていたが、どうやら事実らしい。視線を向けると舌打ちされた。胃がキュッとなるな。


「クハハハハハ!なかなかに個性的な面子が集まっているな!これからの旅が楽しくなりそうだ」


 俺たちの様子を見ていた虎の獣人が腕を組んだまま豪快に笑う。凄い筋肉だな。俺も鍛えている方ではあるが、彼と比べれば貧相な肉体に見える。

 腕や足なんかは丸太のように太い。それが見せかけの筋肉ではないのは彼の佇まいから分かる。パッと見の第一印象は二足歩行の虎。豪快な笑い方からどこか親しみやすさを感じた。

 低いバリトンボイスを聞くといい声だと率直な感想が浮かんだ。


「俺の名前はトラ・ヴィルカス・ヘルスティム・ノーゼンカズラ・F・タイガー・ホワイト・シルバーファークだ。カイルと同様に前衛を担当する事になるだろう!」

「名前が随分と長いな」

「クハハハハハ!長いのは自覚しているからな、好きなように呼んでくれて構わないぞ」

「そうか、ならトラさんと呼ばせて貰う」

「うむ!我もトラさんと呼ぶのじゃ!」


 俺たちの呼び方に不満はないらしい。トラさんが豪快に笑っている。獣人の名前が長い事は知っていたが、彼の名前を一度で覚えるのは難しいだろう。

 それにしても本当に有名どころが集まっていると思う。トラさんは獣人の国『ジャングル大帝』の格闘王だ。一言で言ってしまえば格闘王の称号は獣人最強を指す。年に一度国を挙げて行われる武術大会の優勝者が格闘王に挑戦する権利を持ち、彼は10年ほど前に格闘王と戦ってその称号を継承。その後10年間その称号を守り続けている。

 分かりやすく言うなら無敗のチャンピオンと言った所だろう。一度武術大会を観戦した事があるが、大会の優勝者相手を圧倒している光景が脳裏に焼き付いている。彼と戦って勝てるだろうかと頭で考えたものだ。


 デュランダル抜きで戦えばまず勝てないだろう。デュランダルありでも俺の方が勝率は悪いだろうな。見た目に反して軽やかな身のこなしと、その逞しい肉体から放たれる拳を一撃でも喰らえば終わりだろう。

 脳裏で彼と戦う姿を想像したが、顔に拳が当たってパァーンと頭が弾け飛ぶ光景を幻視して思わず首を振る。仲間で良かったな。

 共に前衛を担当する事になるだろうから彼とは仲良くなりたいものだ。一先ず自己紹介は済んだな。約一名仲良くやれるか不安な仲間もいるが、時が解決してくれる事を祈ろう。


「これからよろしく頼むよ」



 ───これは始まりの記憶だ。俺たち勇者パーティーの旅が始まった最初の記憶。魔王討伐という漠然とした目標を掲げて始まった俺たちの旅。

 これまで多くの苦難を共にした。仲間がいなければ、俺一人では旅の途中で命を落としただろう。共に支え合える仲間がいたからこそ、誰一人欠けずにこれまでやってこれた。




『…義兄さん…』



 ───初めて仲間を失った。セシルが目の前で亡くなった時、自分の無力さを嫌という程噛み締めた。

 勇者パーティーの1人に選ばれたからと言って全てを救える訳ではない。そんな事は分かっている。それでも目の前で取りこぼした命はあまりに大きく、俺の心に傷を残した。

 出来る事ならもう仲間を失いたくない。だからこれは嫌な夢だ。悪夢に違いない。


「トラさんが亡くなった?」

「はい。カイル様が『タングマリン』を出て直ぐに魔族が魔物を率いて押し寄せてきました」

「俺たちが出て直ぐに…」

「その内の一人が『冥闇』のエルドラドと呼ばれる四天王の一人でした。王都にいる戦力はエルドラド以外の魔族の対応に手を取られておりました。

トラさんとサーシャ様のお二人がエルドラドと戦い、お二人の奮闘のお陰で王都の被害は最低限に抑えられましたが…」

「………………」

「エルドラドによってトラさんが討ち取られました」


 強く握りしめた手に痛みが走る。ポタリと赤い血が地面に落ちた。痛みがある。どうやらこれは夢ではないらしい。


 ───トラさんが亡くなった。


 その現実を受け止められそうにない。目の前が真っ暗になるような、絶望感が心を占める。


 ───トラさんには多くの事を教えて貰った。


 魔力の操作、魔闘技の技術。戦場での心構え。彼女がいなければ俺は今よりずっと弱かっただろう。トラさんとは仲間であり師弟関係でもあった。トラという師匠がいたからこそ俺は強くなれた。


 ───脳裏に浮かぶ豪快に笑うトラさん。彼女の姿が砕けて消えていく。


「そうか…亡くなったのか…」


 空を見上げれば憎たらしい程に晴れ渡った青空が映る。今だけでいい、雨よ降れ。俺の涙も悲しみも全て洗い流してくれ。






 ───涙が頬を伝い地面に落ちた。

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