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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第二章 世界樹防衛戦

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84.世界樹防衛戦Ⅴ

 結界が壊れたのを確認したドレイクが空高く飛び上がっていくのが見えた。ドレイクを放置してはいけないが、それ以上に対処を優先させる相手がいる。

 

「世界樹が!」


 セシルの声から緊迫感が伝わる。先程まで結界を壊そうと体当たりしたり、炎を吐いていたドラゴンが砂糖に群がるアリのように世界樹に群がっている。無防備になった世界樹に炎を吐くドラゴンや、鋭い爪で傷を付けようとするドラゴン。

 騎士たちが魔法で止めようとしているが、世界樹を巻き込む事を懸念して威力の大きい魔法が使えないようだ。


「『狂乱飛燕』」


 デュランダルに魔力を込めて世界樹に向けて剣を振る。燕の形をした魔力の斬撃が世界樹に群がるドラゴンに向かっていく。念の為もう一発『狂乱飛燕』を放ってから、俺では手が出せないほどの高度で浮かぶドレイクを見る、

 何か詠唱している? 投擲の構えを取るドレイクを見ると嫌な予感がする。


「『カースドジャベリン』」


 黒い槍に紫色の不気味な光が宿っている。アレは止めないとダメだ。直感に従い蓄積分の魔力を引き出して空に浮かぶドレイク目掛けて飛燕を放つ。

 エクレアも同様にドレイクを止めようと聖剣からビームを放っていた。だが、少し遅かったらしい。

 俺たちの攻撃が届くより先にドレイクが世界樹目掛けて槍を投擲した。


「『バリア!!』」


 世界樹を護ろうとセシルが魔法を発動したが、直後にドラゴンが世界樹の前に張られた障壁を破壊した。ドレイクの邪魔をさせないつもりらしい。

 俺が放った狂乱飛燕が邪魔をするドラゴンの首を切り落とす。そのままドレイクの槍を妨害しろと願うが飛燕は不自然に止まってしまった。


 ───世界樹に黒い槍が突き刺さった。


 痛みに悶えるように世界樹が大きく揺れた気がした。いや、実際に揺れているのか? 世界樹だけじゃない、俺が立っている地面も揺れている。世界そのものが揺れているようだ。

 槍の突き刺さった部分が紫色に変色している。綺麗な水がヘドロによって汚染されるように徐々にそれが広がっていく。


「デュランダル!」


 俺の声に動きが止まっていた飛燕が動き出し世界樹に突き刺さった黒い槍に衝突する。飛燕は消滅したが同時に世界樹に刺さっていた槍も抜けた。だが、槍が抜けた後も徐々に紫色の部分が広がっている。守れなかったのか…。


 独りでに動きだした黒い槍が俺たちの上空へと向かっていく。槍を追うように視線を向ければ、黒い槍を手に持ったドレイクがこちらを見下ろしていた。槍を投擲した後しっかりと攻撃も回避したのか…化け物だな。


「俺の目的は達成した。このまま決着を付けてやってもいいが、今は我が君の命を優先するとしよう」

「何をするつもりだ」

「安心しろ今は何もしない。既に種は撒いたからな」


 ドレイクの視線の先にあるのは槍によって傷付けられ、紫色の何かに汚染させる世界樹。アレが何かは分からないが間違いなく良いものではない。毒に近いモノじゃないのか?


「やれやれ、俺が手ずから育てたドラゴンも全滅か。目的は達したが少しばかり勇者パーティーを甘く見たか」


 言葉ではそう言っているが気にはしている様子はない。むしろ何処か楽しげな口調だ。ドレイクの言葉通り世界樹を襲っていたドラゴンは全滅した。

 狂乱飛燕もそうだが、世界樹を守ろうとエクレア達と騎士が放った魔法のお陰だ。

 残る敵はドレイク1人だが、世界樹に起きた異変に皆が動揺しているのが分かる。ドレイクを気にする余裕がない程だ。特にエルフである騎士たちは顔は呆然とした表情だ。

 彼らにとって何千年と守ってきた世界樹が傷付けられた。その事実は俺たちが思っている以上に重たい。


「そう殺気立つな。俺に戦う意思はない」

「その言葉を信じると?」

「信じなくても構わんさ。先程も言っただろう。目的は達したと。既にこの場に用などないのだよ」


 こちらを見下すような冷たい目と、蔑むような口調だ。世界樹を守りきれなかった俺たちを嘲笑っているかのようだ。

 エクレアがドレイクに向けてビームを放ったのをどこか他人事のように眺めていた。結果が分かりきっていたからだろう。空を自在に移動するドレイクはビームを容易くに躱してみせる。

 目的を達したと言っていた以上、この男がする事は決まっている。余裕綽々といった様子で俺たちを見下ろした後、ドレイクはその身を翻して飛んで行った。

 止めようという気すら起きない程その動きは滑らかでそして早かった。


 ───世界樹を守りきれなかった。

 赤い点となり、既に姿すら見えなくなったドレイクが去った戦場でその事実が重くのしかかる。


「…………」


 空気が重たいな。ドレイクが去った後も誰も動けずにいる。心を落ち着かせる為に深く息を吸って吐く。その音がやけに響いた気がした。


「世界樹の様子を確認しよう」

「うむ!何が起きておるか把握するべきじゃ!」

「…………」コクコク。

「僕は怪我人の治療を行います。後で向かうので僕の代わりにしっかり確認しておいてください」

「分かった」


 騎士たちと同様に呆然としていたセシルも俺の言葉で動き出した。ドレイクたちによって傷付いて倒れた騎士達の元へと走って行く姿はどこか無理をしているように見えた。

 俺達も行くぞ!っとルークが声をかけてセシルの後を追った。


「行こうか」

「…………」コクコク

「うむ!」


 彼らを見送ってから世界樹の元へと駆け寄る。近くで見るとあまりに大きな樹だ。雄大でどこか美しさすらある世界で1番偉大な樹木だろう。

 その世界樹が今、苦しんでいる。ドレイクは何をした? 槍が突き刺さった部分から広がる紫色の何かは見るだけで背筋が凍るような思いだ。触れてはいけない。その毒々しい紫色が俺たちに警告しているように見える。


『カイル君聞こえる?』


 不意にミカの声が聞こえた。どこからだ? 前と同じではない。天から響くような声ではなくもっと近くから聞こえた気がする。


「ミカか?」

『そうだよ。愛しのミカちゃんだよ。カイル君に言いたい事があって神器を通して話しかけているの』


 声の発生源は左手に付けた指輪か。ここからミカの声がしている。


「カイルよ、急にどうしたのじゃ? ミカとは誰の事じゃ?」


 すぐ傍にいるダルが首を傾げている。この様子だとミカの声は2人には聞こえていないのか? エクレアも不思議そうにこちらを見つめている。

 ミカの声が聞こえないのなら彼女と話しているだけで、ヤバい奴に見えないか? 1人でブツブツと喋ってる奴なんて明らかにヤバいだろう。


『気付いたと思うけど私の声は今神器の所有者であるカイル君にしか届いてないよ!私に対しての返事は今はいいから、要件だけ手短に伝えるね』


 やっぱりミカの声は俺にしか聞こえないようだ。なら変に反応はせず彼女の要件を聞こう。ダルやエクレアにヤバい奴を見るような目で見られた日は一日落ち込む自信がある。

 あらかじめ話しておけば問題ないだろうが、ミカという存在に2人が納得してくれるかが問題だろう。


『世界樹の状況だけど、一言で言って激ヤバな状態だよ!あの竜人が籠めた呪詛によって世界樹が呪われてしまったの』


 あの毒々しい紫色の正体は呪いという事になるのか?


『呪詛について説明すると長くなるから時間がある時にまた話すね。魔法とは違う禁忌の力って覚えてくれていたらいいよ』


 呪詛って言葉ですら危ない感じが伝わってきたが、禁忌とまで付け加えられると本当にヤバいモノというのは分かる。

 見た目の毒々しさと、体が覚える恐怖は間違っていないようだ。


『見ていて分かると思うけど呪いが徐々に広がっていってると思うの。簡潔に言うとこの呪いが世界樹全体に広がると世界樹が枯れます』


 世界樹が枯れます。じゃないだろう。めちゃくちゃ自然に言われたが世界の危機と言っても過言ではないだろう。

 世界樹が枯れればこの世界に生きる生物は皆死に絶えるとすら言われている。世界樹の働きはそれだけ大きい。


『神官に要請して世界樹にかけられた呪いの解呪を頼むつもりだけど、恐らく呪いの進行を遅らせるのが限界だと思う。あの竜人が世界樹にかけた呪いは神である私ですら手に負えないレベルなの』


 じゃあもうお手上げじゃないか?神であるミカですらどうしようもないならあの呪いを解呪する術がないと言える。


『あ!1つ訂正させてね!あくまでも天界にいる私では手に負えないって話で、下界に降りる事さえ出来たら呪いの解呪は出来るの。私それなりに仕事は出来るから安心してカイル君!』


 物凄い言い訳のように聞こえたが、この際いいか。どの道彼女はミラベルが張った結界の所為で下界に降りてくる事は出来ない。つまり何も変わらないという事だ。


『私からのお願いは1つ。『世界樹の巫女』を探して欲しいの。世界樹にかけられた呪いを私以外で解呪する事が出来るとすれば世界樹の巫女しかいないの。彼女は世界樹の代わりに瘴気の浄化が出来る唯一の存在。

呪いも瘴気と同様に浄化する事が可能な筈!』 


 ───世界樹の巫女を探してと言われても、どう探したらいいかが分からないんだが? 教会に所属しているのだろうか?

 セシルやノエルに聞けば分かるか?

 一般的な呪いと同じ性質をしているなら、呪いをかけられた本人がその呪いを解呪する事は出来ない。神官が呪われた場合、自分で解呪するのではなく他の神官に解呪をお願いする。呪われるとどうやら魔力の流れに悪さをするらしく上手く解呪が出来ないそうだ。

 世界樹が自らその呪いを解呪、あるいは浄化しないのはそれが理由かも知れないな。単純に呪いによって弱っているという可能性もある。


『詳しくはまた今度話すからカイル君は世界樹の巫女を探して!私は神官に要請して、呪いの進行を少しでも食い止めるから!』


 プツンっと、電話が切れるような音と共にそれ以降ミカの声が聞こえる事はなかった。言いたい事は色々とあるが、また時間がある時に詳しく話してくれるらしい。その時に聞きたい事を聞こう。

 世界樹の巫女とやらの所在はセシルに聞けば分かるだろうか? 確認してみるか。


「ダル、エクレア。詳しい理由は後で話すから、一先ずセシルと合流しよう」

「世界樹に何が起きたか分かったのか?」

「そういう事になる。解決法についてもセシルの意見が聞きたいんだ」

「分かったのじゃ!我が見ていても何が起きてるかさっぱりよ。カイルが分かったのならそれで良しなのじゃ!」

「…………」コクコク。

「セシルの元へ向かおう」


 2人と共に世界樹に背を向けて騎士の治療をしているであろうセシルの元へと向かう。

 既に亡くなっている者もいるだろうが、まだ僅かにでも生きているのならセシルの魔法で助かる可能性は高い。それほど彼女の魔法は強力だ。

 世界樹からそれほど遠くない位置でセシルは倒れた騎士に魔法をかけていた。倒れている騎士の数が減っている気がする。魔法によって助かったのか、あるいは亡くなった者の死体を動かしたかのどちらかだな。

 

 セシルの魔法を受けた騎士が起き上がるのが見えた。また1人助けたようだ。優しい笑みを浮かべて騎士に話しかけるセシルが聖女のように見える。

 騎士と話すセシルの背後から近付く者がいた。騎士団に所属するエルフが身に纏う一般的な鎧に身を包んだ、騎士の1人。だが、その姿を見た時何故かは知らないが止めないといけないと心が強く訴えかけた。

 心が動かすままにセシルに駆け寄る。


「義兄さん!どうしました?」


 俺の姿を認識して嬉しそうに微笑むセシルの背後で、騎士が剣を構えていた。






 避けろ!その一言が出るより先に騎士の剣がセシルの胸を貫いた。

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