67.危機管理は大事
───『幻惑』のディアボロは今から300年程前に四天王と呼ばれるようになった。どうやら封印されたシルヴィとの入れ替わりで四天王の仲間入りしたようだ。
ディアボロの事を調べていると悩みの種が1つ増えた。俺はシルヴィを四天王の1人と数えていたが、どうやら彼女は500年前の時点で四天王から外されていたようだ。
よくよく考えたらシルヴィの裏切りによって4代目魔王ロンダルギアは討ち取られているし、魔族側で居られる訳がない。シルヴィもシルヴィでタケシの味方と公言していた。
という事はシルヴィを除く四天王を探して俺たちは戦わないといけないのか。つまり5人だな。可笑しいな。四天王なのに5人いるらしい。頭が可笑しくなるぞ。
既に判明している四天王は『赤竜』のドレイク、『幻惑』のディアボロ、『2代目豪鬼』バージェスJrの3人。
この3人にシルヴィを入れた4人が四天王だと思っていたがそうではないようだ。他にあと一人四天王がいる。噂では『5人目の四天王』の異名で呼ばれる魔族がいるとか。5人目の時点で四天王ではないと思うがそこら辺は如何なのだろうか?
「うむ、真剣な表情のカイルはカッコイイのじゃ」
「そうですか?凡人が本の内容を理解出来ずに悩んでいるようにしか見えませんが?」
300年前の勇者ハロルドについて記された本を読んでいると、当時のパーティーの仲間である魔法使いがディアボロによって廃人にされてパーティーを脱退している。その穴埋めとして、参加したのがドワーフの魔法使いトトレレ。サーシャに確認したが特に関わりはなく、マクスウェルの弟子とかではないらしい。
古くから存在する魔法使いの家系で、魔法の扱いが秀でていた為推薦を受けて勇者パーティーに加入したそうだ。
魔法使いの功績としては風属性の魔法『フライ』の詠唱を発見したとかで、それが高く評価されていたようだ。
「セシルは分からぬか?我には分かるぞ。カイルとの付き合いが長いからのぅ」
「付き合いの長さが全てではないと思います」
ディアボロの種族である淫魔について調べていると、既に人間とエルフによってその殆どが討ち滅ぼされているのが分かった。
1度魔族という脅威を許した事で第二の魔族となる存在を許す事が出来ないらしく、淫魔の能力が発覚した後に人間とエルフの共同で淫魔を討伐したようだ。
竜人のように種族ごと滅ぼされた訳ではないが、数は著しく減りこのままだと危険と判断したのか隠れ潜むように姿を消した。
恐らく人間やエルフの勢力が消えるか、勢いを落とすまで出てくる事はないだろう。淫魔という種族のポテンシャルが高いのはディアボロを見ていれば分かる。
「今眉間にシワを寄せたじゃろ?アレはカイルから我に向けたメッセージなのじゃな!
どうしてキスをしてくれないだと怒っておるのじゃ」
「ただ考え事をして悩んでるだけだと思いますが?
キスして欲しいなら…僕も…その…してもいいですし」
淫魔という種族は基本的には夜型のようだな。太陽の日差しが苦手で日中は屋内か陽の届かない場所で休息を取っていると記されている。
吸血鬼のように陽の光に当たると灰になるとかではなく、単純に明るいのがダメなようだ。
ディアボロを探すなら屋内か暗い所か?いや、彼女はハーフだから淫魔として見るべきではないかも知れない。
魔族としての魔法も使えるから『擬態』で人の中に紛れている可能性が高い。改めて直面するとディアボロを探す、それだけなのに難易度が果てしなく高い。
魔族側が暴れているなら直ぐに分かるが潜む事を選ばれるとこちら側は手段が限られてしまう。数で負けている魔族がこれまで滅ぼされてこなかった理由は間違いなく『擬態』の魔法だろう。本当に厄介な魔法だ。
「目を瞑ったカイルは愛らしいのぅ。我を待っているようじゃ」
「疲れて眠ろうとしているだけでは?
義兄さん、もし寝るのであれば僕の膝を貸しますよ」
俺たちと違って魔族は教会で属性適性と使える魔法を知ることが出来ない。それなのに魔族が自分が使える魔法をしっかり把握している事を疑問に思いデュランダルに聞いた。
答えは簡単だ。初代魔王が現存する全ての『闇』属性の魔法を使えた。魔法の名前も全てミラベルから聞いたらしい。後は種族全てに魔法の名前と魔力の流し方を共有して、それぞれがどの魔法が使えるか1つ1つ確認したようだ。
奴隷として酷使される事に比べればどの魔法が使えるか試行を繰り返す作業など、造作はないだろう。
人間やエルフと同様に魔族もまた詠唱の研究をした。威力や性能が上がった事で脅威は増したが、そもそも詠唱をしなくても闇属性の魔法は強力だ。
詠唱も魔法の名前すら口に出さなくても十分な殺傷能力を秘めているのは闇属性くらいだろう。戦闘中に不意に飛んでくるから厄介なのだ。
詠唱すれば強力にはなるが備える事が出来るのでまだマシだと思う。
「ため息をついたのか? 憂いの表情じゃな。心配事があるなら我に相談欲しいのじゃ!
カイルの為ならこの胸も貸すぞ」
「僕もいますよ!
凡人が1人で考えるより天才である僕と一緒に考えた方がいいと思います。甘えたいのであれば、…いいですよ僕も」
話が逸れたな。ディアボロについての情報だ。淫魔の情報を調べていると1つ分かった事がある。ディアボロに実際に使われた能力だが、あれには有効範囲があるようだ。
大陸全土で使える訳ではなく、対象とする相手が一定の距離にいないと使えないらしい。その距離は個人差はあるが、最低でも同じ国にいなければ使えない。つまり俺に対して能力を使った時は少なくともこの国に居た可能性が高い。もしかしたら今もこの国にいるだろうか?
彼女の性格考えるとコソコソと隠れ潜むような事をせず、堂々としている気がする。可能性があるなら探してみるか?
いや、流石に無理だな。一人一人見て回る訳にはいかない。王都だけでも何万人と人がいるんだ。国全体となるとどれくらいの人数になる?果てしないぞ。『擬態』の魔法で人に紛れた魔族を探すのは不可能だな。
他の方法を探すべきだ。
「唇に手を当てた、これは我にキスをして欲しいという意思表示ではないかのぅ?」
「唇と言うより顎に手を当てて考え事をしてるだけでは?
いえ、仮にそうだとしたらダルさんではなく僕じゃないでしょうか?
義兄さんは僕のことを随分と意識していましたので」
「カイルは我の事を好いておるぞ!それならキスして欲しい相手は我であろう!」
「兄さんには既に姉さんが……いえ!僕だと、思います。僕も義兄さんの事好きなので、キスしてもいいかと」
前と同じように俺を夢の世界に誘うように誘導するか? リスクの方が高い気がするな。
能力にかかる程心が弱っているのなら夢に溺れて廃人になる可能性がある。前回はリゼットの夢だったから立ち直れたが、ディアボロもその事は既に分かっている。
仮に夢を見せてきたとしても同じ夢は使わないだろう。肉弾戦が好きな女ではあるが、魔族らしい狡猾な一面も持っている。彼女の好みに合わなければゴミのように処分されるだろう。
思っていた以上に彼女を探すのは難しいな。他の手段を考えるのはどうだ? 調べるとしたら初代法皇ルドガーがいた『聖地エデン』か、未開の地が多い『ジャングル大帝』のどちらか。
ドワーフの技術で作れないだろうか? 流石に無理か。相手は人や魔物ではなく神だ。世界を見て何時でも干渉してこれるような怪物だ。先生の話しだと人の運命まで自由自在のようだ。
ミラベルにバレない会談の手段なんて本当にあるのか? いや諦めたらダメだな。それこそ先生の言う通りミラベルの操り人形として一生を終える事になる。
俺は足掻こう。まだ死ぬつもりはない。
「セシルもカイルの事を好いているのか?
好意は個人の勝手じゃからとやかくは言わんが、我とカイルは相思相愛だから諦めた方が良いぞ」
「ダルさんは知らないんですね…」
「何をじゃ?」
「義兄さんはお姉さんの婚約者ですよ」
「は?」
───現在の場所は王都の図書館。普段は利用者が多いと聞くが何故か今は俺たち以外に人がいない。先程まで館長がいたがそそくさと逃げていくのが確認出来た。
つまりこの場にいるメンバーは俺とセシルとダルの3人になる。
誰とは分かっていないようではあったが、女性と関係を持ったらしい俺を厳しく監視すると宣言するセシル。当然図書館にも同行する事になった。
その道中、ベンチで飴を頬張っていたダルと出くわし彼女も一緒に行くことになった。前世でいうりんご飴のような物を食べていたな。見ていると欲しくなったが我慢した。
調べ物があるから集中すると言い、彼女達の会話に参加せずスルーしてきたが何やら不穏な空気を感じる。鋭い視線を感じ顔を上げれば眉を寄せて明らかに怒ってるダルの顔。
その隣にツーンとそっぽを向くセシルがいる。
「どういうことじゃ?カイル」
どうやら危機管理を間違えたようだ。
修羅場!修羅場!修羅場!




