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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第二章 世界樹防衛戦

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66.ティエラとテスラ

 俺は現在、宿屋の部屋で手紙を書いていた。時刻は既に夜を回っているので照明用の魔道具を使って部屋を明るくしている。手紙の送り先はノエルだ。

 大変心苦しい事ではあるが、謝罪の意を込めて手紙を綴っている。ひたすらノエルに謝るつもりである。エクレアと関係を持ってしまった2日後である。

 サーシャとも体の関係を持ってしまった。ノエルに何て言えばいいだろうか?申開きをするなら俺は襲われた側だと言いたい。いや、しっかり抵抗しなかった時点で弁明のしようがないな。

 一応襲われた側ではある。体中痛かったしもっと別の時にしてくれと言ったが聞いてくれなかった。

 多分あの女Sだ。こっちの様子を見てニヤニヤしてたし。ただ初めてだったらしく、そういう行為の時はしおらしくそのギャップが非常に可愛かった。


「………………」


 ───そうだ股間の相棒を切り落とそう。悪さをしているのは俺のこの相棒だと思う。これを切り落とせばノエルに不義理な事をしないで済む気がする。

 痛いだろうか? 痛いで済まない気がする。考えたらヒュンってした。止めるべきか? 切り落とした方がいい気もするな。

 エクレアに続いてサーシャともだ。これはダメだと思う。男として好意を持たれているのは嬉しいが、手を出しすぎるのはダメだと思う。もう少し気持ちを強く持つべきだ。どうして断れなかったのだろうか?

 ノエルの顔が脳裏に浮かぶ。罪悪感で泣きそうだ。宿に戻った時にセシルに治療して貰ったから痛みはない筈なのに胸が痛い。


「大丈夫ですか、マスター?」

「デュランダル、相談があるんだ」

「なんですか?」

「俺の股間の相棒を切り落とした方がいいかなと考えているんだが、デュランダルはどう思う?」

「………ブふっ!」


 デュランダルが吹き出した。こちらは真剣な相談をしてるから真面目に受け取って貰いたい所だ。俺が思うにこの股間の相棒がいなければ全てが丸く収まる気がする。これ以上の悲劇を起こさない為にも切り落とすべきだ。

 リゼットさんとのやり取りが脳裏に過ぎる。


『リゼットさん、落ち着いて!』

『カイル離して!あの男は許してはダメ!』

『それでも彼氏さんのチ〇コを切り落とそうとするのはやり過ぎだよ』

『カイル、覚えておいて。浮気した相手のチ〇コを切り落としても許してくれるから』

『誰が許すの!?力強い! 誰か助けて!!リゼットさんご乱心!! 』

『離しなさい!』


 ───切り落とすべきだ。浮気した男のチ〇コなんていらないだろう。リゼットさんも切り落とすべきだと言っていた。

 やはり彼女の言葉は正しい事ばかりだ。いつもリゼットさんが俺を導いてくれている。俺も道を踏み外さずに済みそうだ。


「という訳だ。チ〇コを切り落とす事にした。介錯を頼むデュランダル」

「絶対に嫌です!というより落ち着いてください!マスター!」

「俺は正気だ」

「正気の人は自分が正気とは言わないです!大きく息を吸って吐いてを繰り返しましょう!はい、深呼吸!」


 デュランダルの言葉に合わせて大きく息を吸って吐く、それを何度か繰り返す。


「落ち着きましたか? マスター?」

「すまない。乱心していたようだ」

「本当ですよ。私にマスターの汚い相棒を切り落とさせないでください」


 心にグサッときた。なんというかもう少し言葉を選んで欲しかった。いや、全面的に悪いのは俺だ。

 乱心していた。それは間違いない。罪悪感から少しばかり可笑しくなっていたようだ。心が落ち着いたので引き続きノエル宛の手紙を書く。

 仮にチ〇コを切り落とすにしてもそれは俺がするべきではないな。ノエルにお願いしよう。婚約者であるノエルが許せないのなら俺は覚悟が出来ていると。

 流石に文面にしたら汚いので書くのはやめた。ひたすら謝罪文を書き最後に一応覚悟は出来ていると締めた。


 椅子にもたれ掛かる。何故か知らないがやたら疲れた。主に俺が悪い。というか全部俺が悪いと思う。

 気分転換をしたいな。このまま寝るには少しばかり気分が悪い。テーブルの上に置かれた本が視界に映る。読んでもいいだろうか?


「マスターダメです!そんな本は読むべきではありません」

「すまない、デュランダル。気分転換にもなると思うんだ。読んでいいか?」

「ダメです!」


 俺がマクスウェル著作の『ティエラとテスラ 愛の反逆』というタイトルの本を手に持つと、前回と同じように抗議の声が飛んできた。何故かは知らないが彼女はこの本を読んで欲しくないらしい。

 前回は折れたが今は気分転換がしたい。それとここまでダメと言われると逆に中身が気になるのが人間だ。

 本を開く。


「マスター、読まないでください。お願いします」


 すまない、デュランダル。俺読むよ。






 ───ティエラとテスラの2人の関係の始まりはテスラの一目惚れからだった。

 国でも名の知れた賢者の息子として生まれたテスラであったが、残念ながら魔法の才能は引継いでいなかった。家族や使用人に賢者の後継者として期待され育ったテスラであったが、神によって使える魔法を教えて貰いそれが使えない事に気付いた時の絶望を彼は忘れていない。

 優れた魔法使いになる為に必要な魔力がテスラには足りていなかった。それからだろう。父である賢者に彼が見放されたのは。

 賢者はテスラに失望したらしい。期待していたのに裏切られた。時間の無駄だった。そう言って、自分の前から立ち去る賢者にテスラは何も言えなかった。

 それまでは研究をしながら時間を作ってはテスラを可愛がった賢者であったが、それ以降はずっと部屋に篭もり家族の前にすら姿を滅多に現さなくなった。


 不愉快ではあったが、嫌っていた父に出会わなくて済むのは彼にとっては好都合だった。

 『このまま部屋に篭ってずっと研究でもしていろ。俺は俺で自分のやりたい事をする』

 魔法の才能がなかった為彼は魔法の研究は出来ない。だが代わりに彼は頭が良かった。賢者が研究に没頭して家の事を疎かにしていたが、代わりに彼が賢者に変わって当主として仕事を始めた。

 最初こそは慣れない事ばかりで失敗もあったが、次第に仕事にも慣れてきた。

 彼が14歳の時に部屋に篭もりっぱなしの賢者を心配して家族が奴隷を買ったが、賢者に出来るだけ関わりたくなかった彼は関心を示さなかった。

 彼が没頭したのは領地を豊かにする事だった。魔法は使えない。だが、代わりに人を笑顔にすることは出来る。

 魔法を絶対視する者が多く、それの重要性も分かっている。だが、治める領地の領民を無視してまで研究をするのは間違っているとテスラは賢者を軽蔑していた。

 2人の溝はどこまでも深かった。


 4年が経過した頃、彼にとっては不愉快な話が耳に入ってきた。嫌いな父である賢者と奴隷が魔法について語り合っていたというものだ。

 奴隷は魔族の女らしい。テスラと同じで魔法が使えない者だ。それなのに魔法使いとして名の知れた父と魔法について語り合っていた?

 込み上げてきたのは怒りか? それとも嫉妬か? ただただ不愉快だった。父である賢者にも、その奴隷の女にも会うことはないだろう。

 そこにあったのは拒絶だ。二度と父の顔を見たくない。その思いで彼は別邸を建て、父との関わりを絶った。

 領地を豊かにする事が楽しみだった。領地を自分の足で歩き何が足りていないか、何が必要かを探っては改善する日々を続けていた。

 父が病に倒れたと家族から連絡がきたのはそれから7年後の事だ。テスラも既に25歳。研究しか脳がない賢者に代わって当主の仕事をしてきたつもりだった。


 彼にとっては不愉快なのは今の今まで頑張ってきたテスラの功績を誰も見ようとしなかった事だ。賢者が倒れた事でテスラは漸く次期当主として認められた。

 『次期当主? 今までその男の代わりに領地を統治してきたのは俺なのに?』

 それほどまでに魔法の有無は大きかったが、それだけで納得出来るほど人間は出来ていない。怒りを通り越して殺意すら覚えた。

 ベッドに横になって弱っていく賢者を見て早く死ねとテスラは願った程だ。賢者が死ねば次期当主ではなく、正真正銘の当主だ。

 誰もが嫌でも認めるだろうと。


 嫌いな父を見舞う事すら拒否したいのに、その父に命令された時は本当に殺してやろうかとテスラは思った。

『お前ではない!お前のようなボンクラに用はない。ティエラをここに呼んでこい。もう直ぐ魔法の答えを見つけられそうなのだ!』

 目が血走っていた。まるで正気ではない。まるで魔法に取り憑かれているようだ。ここまでくると哀れにすら思える。

 こんな男が俺の父親か。どうせは先は長くないだろう。ならば望みを叶えてやろうと父の言葉に従いティエラを探しに行くことにした。

 名前だけは知っていた。魔法が使えない癖に賢者と魔法について語り合う不愉快な魔族の女だ。顔も見たことはないが、それだけでテスラはその女を毛嫌いしていた。

 賢者が死んだらその女も殺してやろうか? 歪んだ嫉妬は殺意に変わろうとしていた。


『お前がティエラか。父がお前に用があるそうだ』


 声を掛けて振り向いた彼女を見た時、テスラは心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。ドクンっと強く胸が鼓動した。


『畏まりましたご主人様』


 耳を通る美しい声をずっと聞いていたいと思った。同じ種族ではない奴隷の女だ。大嫌いな父と大嫌いな魔法について語り合う不愉快な、不愉快で仕方ない魔族の女だ。

 そんなテスラの思いすら全て消してしまう程に彼女は美しかった。見惚れてしまった。初めて人を見て美しいと感じた。

 その赤い瞳で自分の事だけを見つめて欲しいと、らしくもない欲が湧いた時にテスラは認識した。自分はこの女に惚れてしまったのだと。


 賢者の息子───『暗愚の暴君』と呼ばれたテスラ・スレイプニルはこの時初めて運命の相手と出会った。

 その相手は自分が嫌って憎んでいた筈の魔族の女。奴隷の女と次期当主。

 彼にとっては最愛の妻となる魔族の女性、ティエラ・デュランダルとの出逢いはなんて事はない主従の会話から始まった。 









 ───栞代わりの紙切れを挟んで思わず本を閉じる。見覚えのある名前が出てきた。

 思わず壁に預けたデュランダルを見るとカタカタ震えている。先程までずっと抗議の声を上げていた。いや、なんなら今も読むのはやめてくださいと続けている。

 続きを読んだ方がいい気もするが少しばかり疲れた。続きはまた読もう。


「もう寝るよデュランダル」

「分かりました。蓄積しますか?」

「いや。今日はやめておく。少し疲れた」

「分かりました。おやすみなさいマスター」

「おやすみデュランダル」


 ベッドに横になれば疲労感からか眠気が襲ってくる。今日は良く眠れそうだ。

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