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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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148.相死相哀ノ殺シ愛IV

「ダサいよカイルー。流石にそのネーミングはないね⋯⋯お姉さんも萎えちゃうなー」

「そうか⋯⋯」


 割とショックだったのは内緒だ。そうか、ネーミングセンスはなかったのか俺は⋯⋯。タケシさんのネーミングセンスはどうなってんだと、下に見ていたが俺も大差なかったらしい。

 『空牙一閃』の技名を考えたのはミラベル、『飛燕』の技名はデュランダル、『五指強拳』はトラさん、言ってしまえば俺は自分が使う技の技名を一度も付けた事がなかった。


 理由は大したものではない。なんというか、いい歳した大人が本気で技名を考えるのは恥ずかしいなと思ってしまったからだ。

 前世と違い、非現実的が当たり前な世界である事を与すれば決して恥ずかしい事ではないのだが、どうしても『厨二病』という単語が頭から消えなかった。言ってしまえばそういう事だ。


 魔力を纏う事に成功して、テンションが上がって技名を考えてみたが⋯⋯もう自分で考えるのは止めようと思った。傷が深くなる⋯⋯前世(むかし)の中学生くらいの時の黒い記憶が⋯⋯。


「ネーミングセンスがない、カイルの代わりにお姉さんが考えてあげようか?」

「余計なお世話だ」

「何もカイルの為って訳じゃない。そんなダサい技名で私が倒されるのが嫌なだけだよ」


 グサグサと言葉のナイフが突き刺さる感覚だ。何度もダサいとかネーミングセンスがないとか言わないでくれ。本気で落ち込みそうだ。


「───『シュヴェルト』なんてどうだい?」

「どういう意味だ?」

「殺した転生者の知識の中にピッタリなのがあったんだ。意味は『剣』───カイル、君に相応しい技名だと思わないかな?」


 『シュヴェルト』⋯⋯剣という意味か。悪くない、少なくとも俺の考えた『剣身モード』より良いんだろうな。少し離れた所でデュランダルが同意している声が聞こえた。

 せっかくディアボロが考えたくれた技名だ。以後は『シュヴェルト』として扱おう。最もこの技は魔力で肉体を強化するように、ただ肉体を魔力で纏うだけの技だ。これ以降、この技名を使う機会はないだろうな。


「なら、有難く頂戴しよう」

「そうしてよ。さ!じゃあ早速お披露目してよ!その技がお姉さんを倒す為にカイルが編み出しんでしょ!いいね!楽しみだよ!」

「俺もこの状態になるのは初めてだ。体の一部では成功したが、この状態にはなった事はなかった。だが、一つだけ確信を持っている事がある」




 ───今の俺は強いぞ、ディアボロ。




 俺の放った言葉にディアボロの口角が上がる。敵が強くなった事を喜ぶのは真性の戦闘狂くらいだろう。俺なら勘弁願いたいところだ。


「ならお姉さんに魅せてよ!強くなったカイルをさ!」

「そうさせて貰おう!」


 少しの休憩を挟んだ後に行われる第2ラウンドのように、止まっていた戦いが再開する。


 動き出したのは同時。嬉しい誤算と言うべきか⋯⋯魔力を体に纏う事で身体のあらゆる能力が強化されるらしい。地面を蹴って距離を詰めるディアボロの動きがより鮮明に分かる。

 攻撃方法は今までと同じ、右の大振り。距離間を考えれば次の踏み込みと共に打ってくる筈。それに合わせて俺も動け。


「『加速(アクセラレート)』!!」


 予測通りにディアボロが動く。振り抜かれた拳は魔法によって加速した。


「っ───!」

「言っただろ、今の俺は強いと!」


 これまでは速すぎて目に映る事もなかったディアボロの拳。それが今の俺にはハッキリと映っていた。今までとは違うと宣言するようにディアボロの拳を左手で受け止めてみせる。

 鈍い音が掌の上で鳴ったが、痛みはない。予想以上の強化だな。


「お姉さんの愛を受け止められるとは思わなかったな〜。それに殴った私の方が傷付いてる⋯⋯」

「この身に纏う魔力は飾りじゃない。この魔力は鎧であると同時に剣でもある。お前が名付けただろう、『シュヴェルト』と」

「そうだったね!でもね!これはないよカイル!まるで私の愛を拒絶するみたいじゃないか!」


 ゆっくりとディアボロが拳を引けばその拳からポタポタと血が垂れており、まるで斬られたような傷跡が見受けられた。

 不満そうに傷跡を見た後に、非難するように俺を強く睨んでくるディアボロ。言い返せば反感を買いそうだったので、あえて閉口したが⋯⋯お前の愛は痛すぎるから出来れば拒否したいのが本音だ。


 それに、俺はただディアボロの拳を受け止めただけだ。こちらから攻撃した訳ではない。俺の体に纏う魔力が剣のように鋭く、左手で受け止めた際に相手を切り裂いた、言ってしまえばそれだけの話だ。

 斬る、と意識しなくても触れただけで相手を傷付けるとなると『シュヴェルト』はかなりの切れ味を持つ事になる。今回の場合はディアボロの拳に勢いがあったもの大きいと思うが、この状態で仲間と接する場合は注意する必要があるな。


「ディアボロ」

「なんだいカイル?」

「お前との戦いは次の一撃で終わりだ」


 宣言と共にディアボロの口角が吊り上がる。


 不機嫌そうだったり、楽しそうだったり、こいつの機嫌はイマイチよく分からないな。次の一撃で決めると暗に伝えたがディアボロはキレたり、機嫌を損ねることなくただ、楽しそうに笑っていた。


「随分と強気だね。確信を持つくらいに強くなったって事かな?」

「どうだろうな」

「なんだ、答えてはくれないんだね⋯⋯。まぁいいや、お姉さんとしてカイルとの楽しい楽しい逢い引きが次で終わってしまうのは寂しいよ」

「その割に顔は寂しいって言ってねーぞディアボロ」


 寂しいと口にする割には随分とまぁ、好戦的な笑みを浮かべる。この時を待ち侘びていたと言わんばかりに腕を大きく広げ、ディアボロは言葉を紡ぐ。


「寂しいよ!けど、それ以上に楽しみなのさ!次の一撃はきっと私を殺す為に放つ本気の一撃だ!カイルの殺意()がたっぷり込められた極上の一撃!受けてみたいと思うのが女じゃないかな!?」

「少なくともその考えに至るのはお前だけだ」

「淫魔だから仕方ないさ」


 ───お前みたいな淫魔はいないと思う。


 普通の感性を持つなら受けようとは思わない。必殺の一撃を相手が放とうとしているのなら、避けるか防御するかの択を取るのが普通だ。相手が放つ前に止めるというのもあるが、ディアボロはそんな事をしないという確信があった。

 コイツは小細工抜きで真っ向から受け止める気だ。それだけじゃない迎え撃つ気だな⋯⋯腕をグルグルと回しウォーミングアップをしている彼女からは、確かな殺意を感じ取った。

 ディアボロもまた、次の一撃で決める気だ。


「お互いに次の一撃が最後になるかな?だからお別れの挨拶はすませておくね!今から殺すけど、お姉さんはカイルの事を愛しているよ!」

「そうか」

「愛しているから殺すのさ!誰にも奪わせない!カイルの血肉全ては私が独占する。殺して食らって!細胞一つ残さず一緒になろう!」

「残念ながらお前が望む未来は訪れない。俺が勝つ、それだけだ」


 ───ディアボロと視線が交差した時、それが合図となって互いに動き出す。一歩踏み込む、それだけで俺とディアボロの距離は詰まった


 俺が拳を振りかぶれば、鏡写しのようにディアボロも振りかぶる。まるで示し合わせをしたように相手に向かって拳を放ったのは同時だった。


 ディアボロが選んだ最後の一撃はこれまで何度も食らってきた右の大振り。魔法によって加速しているようだが、俺の目にはしっかりと捉えられている。相手の動きを見てからでも、対応は間に合う。どうする?

 躱す⋯⋯あるいは防御も間に合う筈。⋯⋯ 脳裏に選択肢が浮かんだが、直ぐに放り投げた。相手が小細工抜きで真っ向から迎え撃つ気なんだ!こっちが逃げてどうする!


 ここで逃げたら男じゃねぇよな!!


 意地とプライドで真っ向から迎え撃つ事を選んだが、こちらに迫ってくるディアボロの拳が黒い闇に覆われるのを見て、少しだけ後悔した。


 ───闇の付与魔法(エンチャント)か。


 俺が魔力で強化したようにディアボロもまた魔法によって強化を行った、それだけの話だ。たったそれだけの話だが、ディアボロが魔法で強化を行った瞬間に、避けられない死が迫ってくるような錯覚を覚えた。


 受け止められるか、あの一撃を?


 俺の脳は正常に動いている。故に不可能だと判断を下す。あの一撃を受ければ間違いなく死ぬ。更に絶望を与えるようにディアボロの拳が加速した。何度も見てきた光景だが、勘弁してくれと言いたくなる。


 加速魔法の重ねがけだと!?そんな事も可能なのか? デタラメにも程があるだろ!?だから魔族が使う魔法は嫌いなんだよ。これではどう足掻いてもディアボロの攻撃が先に当たる。腹を括るしかないな。


「『加速する一撃(アクセル・インパクト)』!!」


 ───ディアボロの拳が腹部に突き刺さる。


「っ───!!」


 あまりの衝撃と痛みに拳が貫通したんじゃないかと錯覚する程だ。


 だが、生きている。死ぬほど痛いが、耐えられない程じゃない!


「⋯⋯ふぅ!」


 この戦いが始まってから同じ事の繰り返しだな。痛みに耐えて耐えて耐えて!反撃の一撃を入れる。肉を切らせて骨を断つ───なんとも泥臭い戦い方だ。


 気合と根性でディアボロの一撃を耐え、俺の体に伸びたディアボロを腕を掴んで力任せに引き寄せる。『あっ!』と少し嬉しそうな声を出すのはやめてくれ。少しやりにくい。

 いや、ディアボロの表情を見ればむしろやるべきか。期待の籠った熱い視線が俺に───俺の右手に注がれている。

 

 なら、その期待に応えるとしよう。


 指一本一本、爪の先まで魔力を流し無駄なく強化を行う。外側にも魔力を纏った事で今までよりも威力は上がっているだろう。それでもディアボロを倒すのには足りないと考えた。だから、今まで何度も放ってきたこの技に今回は少し手を加える。


「『五指強拳』+!」


 ───イメージしろ。


 『シュヴェルト』を纏う今の俺は剣と同じだ。剣を振って敵を斬るのは当たり前。真の剣士ならば斬りたいモノだけを斬れ!イメージしろ!敵を切り裂く烈しい斬撃の嵐を!


「『空牙烈閃』!!」


 ───ディアボロの腹部に俺の拳が直撃する。


 他の部位を狙う事は当然出来た。あえて腹部を狙ったの先程の一撃に対する意趣返し。

 殴った衝撃で吹き飛んでいったディアボロが、地面に衝突し転がっていく。勢いをなくして直ぐに止まったが、ディアボロに動く気配はなかった。


 手応えからして今の一撃で決まっている筈だ。


 ディアボロの生死を確認する為に一歩を足を踏み出した時に、激痛が腹部で走る。痛みの発生源に視線を落とせば貫通はしていないが、腹部の肉がエグれているのが見えた。


 ───紙一重だった。


 いや、本来なら俺はあの一撃で死ぬ筈だった。俺が死ななかったのはディアボロが殴る箇所を直前で変えたからだ。

 最初の狙い通りに胸部を殴られていれば、俺はどうなっていた? 死んでいた可能性が高い。仮に死ななかったとしても、反撃する事は出来なかっただろう。

 あのまま放っていれはディアボロの勝ちだった。何故、わざわざ当てる箇所を変えた?その疑問の答えを持つ者は彼女だけだ。


 だから生きていてくれと、一歩踏み出す度に走る激痛に耐えながら地面に力無く倒れるディアボロに歩み寄る。近くまで寄ると、か細い呼吸音が聞こえた。

 弱ってはいるが、生きてはいるようだな。そのまま歩みを進めれば倒れたディアボロと目が合った。俺の姿を視認したのか、彼女の口角がゆっくりと上がっていく。


「⋯⋯さい⋯⋯こうの⋯⋯一撃だった⋯⋯よ」

「⋯⋯そうか」

「お姉⋯⋯さん⋯⋯満足しちゃ⋯⋯ったかな⋯⋯」


 ディアボロが浮かべたとは思えないほど弱々しく、血に濡れた笑顔だ。彼女の容態を確認する為に頭から足先までしっかりと観察する。お互いに全力で殴り合ったから、体は傷だらけで青痣だらけだ。


 外見だけで判断すれば命に関わる深刻な傷はない。だが、彼女が吐いた夥しい量の吐血の跡がディアボロに死が迫っている事を告げていた。

 正直成功するとは思っていなかったが『空牙烈閃』の内部破壊の傷が思っていた以上に大きいらしい。


 在り来りな技ではあるが、やはり効果は絶大か。


 ただ斬るだけではディアボロを倒せないと思った。だから、前世の知識を活用して外側ではなく内部を攻撃しようと思い至った。重要なのはイメージだ。

 纏った魔力で外側を斬るのではなく、拳を当てると共にディアボロの体に流し込んだ魔力で内側から切り裂く。自分で使っておいてアレだが中々にえげつない技だと思う。

 命の灯火が消えようとするかの如く、弱っていくディアボロを見るとやりすぎたと反省する。


「死ぬなよ、ディアボロ」

「⋯⋯止めない⋯⋯でよ⋯⋯私はい、ま⋯⋯死んでも⋯⋯いい気⋯⋯分なんだ⋯⋯」

 

 ディアボロの望みは命を賭けた殴り合い。十分に満足したからこそ、もう死んでもいいと本気で思っている。けど、死なれたら困るんだ⋯⋯ディアボロ。


「悪いなディアボロ、俺はお前を生かす為に約束を破ると思う」

「⋯⋯?」


 意味が分からない、そう言いたげな視線を無視してディアボロの体に触れて魔力を流す。剣に魔力を流して強化するように、ディアボロの体に魔力を流す事でその体の外だけでなく内側まで強化する。

 

「⋯⋯カイルの⋯⋯愛はさ⋯⋯嬉しいけど⋯⋯」

「もう手遅れだと? 間に合わないと言いたいか」


 そうだな、今俺がやっている事は所詮延命作業に過ぎない。回復魔法によって傷を癒せない以上、根本的な解決にはならないだろう。だから、回復魔法が使える者がこの場に来るまでディアボロの命を持たせる!


「死んでもらっては困る、俺にはお前が必要だ」


 ───不意に草木を掻き分ける音が聞こえた。一直線にこちらに向かって来ているな⋯⋯かなりのスピードだ。近寄ってくる足音に反応して、振り返れば息を切らしながら駆け寄ってくるノエルの姿が見えた。


「良かった⋯⋯間に合ったか」


 ノエルの事の事を深く知っているからこそ、彼女が既に動いていると確信を持てた。次の一撃で決めると俺が宣言した時点で、ノエルはこちらに向かっていた筈だ。

 俺が勝ったなら戦いで傷付いた俺を癒す為、負けたなら⋯⋯俺を殺したディアボロを殺す為、二つの目的を持ってこの場に駆け付けてくれた。


「悪い⋯⋯ディアボロを頼んだ」


 ───ノエルの姿を見た事で張り詰めていた最後の糸が切れた。体から力が抜けていく。


「カイル!!!」


 どうやら、俺も限界が近かったらしい。必死に俺の名前を叫ぶノエルの姿を最後に、俺の意識は遠のいていった































 ───夢を見た。


 遠い昔の夢だ。カイルでも高橋敦でもない何者かの夢。それが誰か分からないのに、自分の遠い昔の記憶だと認識していた。


「殿下」


 声に反応して振り返れば知らない女性の姿が視界に映る。尻尾に翼、それに角? 魔族の特徴を持つ給仕服を着た女性だ。知らない筈なのに、親しみを感じてしまう。なんだ、この感覚は?


「来たのか」

「はい。勇者パーティーの皆さまが先程参りました」

「そうか。なぁ───。此度の和平会談、成功すると思うか?」

「必ず成功します!殿下が魔族と人間の共存の可能性を信じこれまで動いてきた事を皆、理解しております!殿下の想いが魔族を!人間を動かしました!だから!」

「そうだな。必ず成功させよう、此度の和平会談で魔族と人間の戦いに終止符を打つ!」



 嗚呼⋯⋯思い出した。


 これは、この世界でも前世でもない、もっと昔の別の世界の記憶。人間ではなく魔族の王子として生まれた、かつての俺の記憶。愛しき恋人との最後のやり取り。


 この数時間後に俺は死んだ。和平の使者として訪れた勇者に裏切られて⋯⋯。









 ───どうやら俺は前世で(むかし)、魔族だったらしい。

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