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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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146.相死相哀ノ殺シ愛Ⅱ

 開始の合図を告げるレフェリーなどいない。張り詰めた空気の中、先に動いたのはディアボロだった。音を発さない軽やか動きで地を蹴り、俺との距離を瞬く間に詰める。って!


「いきなり飛び蹴りかよ!」

「開幕はドーーーーンだゾ!」


 ある程度距離が詰まったタイミングで跳躍して勢いのままにディアボロが飛び蹴りを放ってきた。躱す事も出来たがディアボロの挑発的な視線を受けて、真正面から受け止める事に決めた。『え?避けちゃうの?』と言外に言っている気がしてな。

 軌道を予測し、腕に魔力を込めてディアボロの飛び蹴りを受け止める。この際、腕だけでなく足にも魔力を込める事を忘れない。踏ん張りが効かず吹き飛ぶ可能性があるからな。


「私はこの瞬間をずっと待ってたんだよ!」

「そうか」

「お預けプレイしていたんだからさ、ちゃんとお姉さんの相手をして楽しませろよカイル」


 顔面目掛けて飛んでくる拳を右腕で受け止める。相変わらず馬鹿げた力だな。右腕に込めた魔力が少なかったら骨が折れていたかも知れない。

 やはり出し惜しみはナシだな。『マナの泉』のお陰で魔力切れは気にせずに済むが、少しばかり後ろめたさがあった。部分的に魔力で強化しているのはそれが理由だ。

 だが、ディアボロ相手にそんな甘い考えは捨てるべきか。一手間違えれば取り返しがつかなくなる。世界の命運を背負っている以上、拘りは捨てろ。


 ディアボロに対して心中で悪いと謝りつつ、魔力で全身を強化する。魔力の消費スピードが格段に上がるが、呼吸の度に魔力は回復するから問題はない。以前の俺なら絶対にしない肉体の強化方法だ。

 魔力の少ない俺では一瞬で枯渇していただろうからな。魔力量の多い魔族ですら魔力による肉体強化は短時間しか行わない。強化の為に込めた魔力が多ければ多い程、強度は増すが魔力の消費量を増える。一長一短、部分的にかつ一瞬だけの強化が理想。

 それをしなくて良いのはある種の強みだ。


 ディアボロの蹴りに合わせて俺も蹴りを放つ。ん?軌道を変えてきたな。蹴りの軌道を読んで即座に回避を選択する。魔力による強化が十分だった為、余裕を持って回避する事が出来た。


「的確に急所を狙ってくるな、お前は」

「人体の急所を狙うのは戦術の基本だぜ、カイル。金玉っていう弱点がある男が悪いんだよ」

「表現をぼかしているんだから、お前が言うな」

「お姉さんは淫魔だから下ネタもバッチコーイ」


 踏み込んで、俺との距離を詰めてからの膝蹴りか。狙いは先程と同じ股間。ふざけろ。だからといってソコばかり狙うのは違うんじゃないか?


 ディアボロの膝蹴り腕を使って受け止める。かなりの魔力を込めていたらしい、痛みが少し残ったな。直ぐに治まる程度の痛みだ気にするほどじゃない。その間もディアボロは動いている。

 俺に止められた膝を下ろし、少し後ろに下がってからのローキック。下半身を重点的に狙われているな。足でローキックをいなす。少し体勢が崩れた所を狙って右拳を放ったが、容易く受け止められた。


「んー?前よりは強くなった?」

「さて、どうだろうな」

「でも、まだまだお姉さんを興奮させる程のものじゃないよ!」


 右腕を引こうとしたが、動かない。拳を受け止めたまま逃がさないように掴んでいたらしい。という事は?

 瞬時に思考を切り替える。やはりというべきか、俺の顔面目掛けてディアボロが拳を放っていた。顔面で受け止める気には流石にならないので左手を動かし、ディアボロの拳を受け止める。

 俺の予想が正しければこれはジャブのようなものだ。本命は───。


「お姉さんからの愛を受け取ってよ!カイル!」

「そう来ると思ったよ!」


 ディアボロの顔が近付いてくる。恋人同士なら甘いひと時を期待するだろうが、俺たちの場合はそんなものはない。


 ───ゴンッという音と共に額と額が衝突した。


 魔力で強化していたとはいえ、そのまま受けるのは不味かったか? 少し脳が揺れた。


「ああぁぁぁん!この痛み、最高ぅ!!」


 対してディアボロは蕩けた顔で痛みに浸っている。俺の視線に気付いたのか、口角を吊り上げてそれはもう楽しそうに笑っている。


 付き合っていられないなと、ディアボロから距離を取ろうとしたが掴まれた右手が動かない。力任せに動かそうとしても微動だにしない⋯⋯これは、単純な力の差で負けているな。

 この華奢な体にどれだけの筋力があるんだ?不思議で仕方ないな。男として、女性であるディアボロに力で負けているのは悔しい思いはあるが、鍛えてきた年数が違うんだろう。

 そう、言い訳して悔しさを今は忘れよう。


「逃がさないよ。お姉さんと遊びましょ!!」


 追撃を免れる為に左手でディアボロの右手で抑えていたつもりだが、簡単に振りほどかれた。これは流石にショックだな。ここまで力の差があるのか?

 切り替えろ、落ち込んでいても事が前身する事はない。ディアボロの攻撃に備える為に意識を集中しろ。攻撃は右の大振り! 狙いは俺の横っ腹か⋯⋯大丈夫だ、防御は間に合う。


「『加速(アクセラレート)』!!」


 ───拳が加速した。


 脳がその事実を処理した時にはディアボロの拳が俺の横っ腹に突き刺さっていた。防御は間に合わなかったが、魔力によってダメージは軽減出来ている。ただ、予想以上のスピードで足の踏ん張りが効かなかった。

 ディアボロが俺の右手を強く掴んでいなければ吹っ飛んでいただろう。逆を言えば吹っ飛べなかった事で追撃がくる!


「ほら、もういっちょ!!!」


 殴られた衝撃で浮いていた俺の足が地に着くと同時に、素早く右手を元の位置に戻したディアボロが、拳を振るう。

 同じだ。拳を大きく振るったと思った瞬間にはブレて俺の目には見えなくなっている。俺に干渉する系の魔法ではない。単純に攻撃自体が加速しているんだ!

 横っ腹に響く痛みに歯を食いしばって我慢する。骨が折れていないのが奇跡だな。


 二発目は予想出来ていたから対応は間に合った。魔力による強化と足により踏ん張り、吹き飛びはしなかったが腕による防御は掻い潜られた。防御の位置を見てから当てる箇所を変えられる利点があるんだな。厄介な魔法だ。


 ───ディアボロが再び拳を引いて構える。


 これでは一方的だな。受け止めように相手の攻撃の方が早い。俺から仕掛けたくてもスピードで負けている以上、先に相手の攻撃が当たる。

 攻撃を受ける前提で動くか? 痛みに耐えて攻撃? 肉を切らせて骨を断つ⋯⋯それをするにしたって最終手段だろ。


「───くっ!」

「どうしたの?殴り愛をしようよ!お姉さんばかり愛情を与えているのは嬉しくないよ!カイルからの、愛情も!欲しいな!」

「⋯⋯なら、攻撃を一旦やめてくれないか?」

「愛は止められないよ!」


 ディアボロの振るった拳が中腹部に突き刺さる。

 反撃の為に拳を振るったがそれ以上の早さで相手の拳が俺の体に届く。痛みに耐えて振るった拳は、確かにディアボロの腹部に届いた。それでも大したダメージにはなっていない。

 俺の拳が当たった箇所を撫でて、ディアボロは蕩けた表情で再び拳を構える。


「カイルの愛、届いたよ!全然足りないけどね!」

「そうかよ!」


 俺とディアボロが拳を振るったのはほぼ同時。だが、魔法による加速でディアボロの拳の方が先に俺の体に当たる。ボキッという嫌な音がした。

 流石に折れたか⋯⋯、遅れてやってきた激痛にディアボロ目掛けて振るった拳が勢いを無くす。いや、まだだ!

 痛みは歯を食いしばって気合いで耐える。このまま拳を止めれば一方的にやられるだけだ!


 指一本一本に魔力を流し無駄なく強化する。それと同時にトラさんから教わった魔力操作の技術で魔力の放出を行い拳に勢いを付ける。


 夢でディアボロと殴り合った後、肉弾戦がまだまだ未熟だと再認識した。トラさんに改めて師事を受け、直すべき箇所は見直したつもりだが、短期間で劇的な変化はないだろう。

 それでも魔力の操作だけは1日も欠かさず練習を行ってきた。魔法(メテオ)が使えるようになったのもあるか? より効率的に魔力を操れるようにティエラからもアドバイスを受けた。

 以前の殴り合いと劇的な違いがあるとすればその一点と、魔力切れを心配しなくて良くなった事!


「『五指強拳』!!」


 俺の左拳がディアボロの腹部に当たる。あの加速する魔法を使えば防御は間に合った可能性が高い。何より、俺を逃がさない為に掴んでいる左手を離せば攻撃を避ける事も出来た。

 けど、ディアボロは避けもせず、防御をする事もせずに俺の拳を受けた。


 ディアボロにとって予想外だったのはその威力が夢の時よりも増していた事だろう。驚愕するように目を見開いていた。そして、拳の衝撃でディアボロの体がくの字に曲がり吹き飛んでいく。

 俺の右手を掴んでいた左手が離れていった事で、自由を得た訳だが⋯⋯それまでに受けたダメージがデカすぎるな。


 肋の骨が1本か2本折れていると思われる。呼吸するだけでも痛みが走るし、変な汗が背中を流れている。

 痛みがする箇所を冷静に分析して魔力を流す。少しだけ痛みが和らいだな。回復魔法が使える訳ではないから、傷が癒えた訳ではなく魔力による強化で傷付いた箇所を庇っているだけだ。動けば普通に痛いし、正直痩せ我慢に近い。それでも、まだ体は動く。


 ───それはディアボロも同じだ。


「⋯⋯あぁ⋯⋯いいよ!⋯⋯最高の一撃だった!」


 今の一撃で倒せるとは思っていない。吹き飛んで地面に倒れていたが、数秒もすれば何事もなかったように起き上がり、やけに興奮した様子でこちらに歩み寄ってきた。

 口の端から血が垂れている。無傷ではない、それでも倒す程のダメージではなかった。ディアボロにはお気に召したようだがな。


「いいよ!今のは最高だった!体に走る痛みが!カイルの愛の深さを感じさせてくれたよ!この痛み!生きてるって感じがするよね!カイル!」

「痛みが生きてる証か⋯⋯分からなくもないが、理解は出来そうにないな」


 俺の返答はお気に召さなかったのか、やれやれと首を横に振っている。


「いずれカイルにも分かる時がくるよ。何の為に戦うのか、自分の戦いに大義があるのか?⋯⋯必ず行き着く問題にぶち当たった時に、その疑問に答えはないってね」

「正義の反対はまた別の正義、大義なんてモノはない。よくある例えだが、そう言いたいのか?」

「その答えが出ているだけで甘っちょろいって事だよ!」


 威圧感が更に増した。場を支配するように強烈な殺気が辺りを包む。思わず身震いするほどの殺意と威圧感⋯⋯、ディアボロを中心に蜘蛛の巣に割れていく地面がその威圧感の強さを物語っている。体から滲み出す魔力だけで地面が割れている。

 その気になれば俺もできる事ではあるが、ディアボロの場合は無意識のものだな。


 流石は四天王の一人に数えられる魔族と褒めるべきか。


「覚えておきなよ!くだらない世界のしがらみも!種族も立場も性別も!命のやり取りの前には意味はないって事を!ただ一つの生命として、生き残る為に戦う!命のやり取りに必要なのは立場や大義じゃない!相手を殺す!その意思だけさ!」

「ごちゃごちゃとそれっぽい理屈を並べているが、要はお前が満足できる殺し合いをしたいってだけだろ」

「正解〜!だからさ!世界の事なんて忘れてさ、未来(さき)の事も全部放り出して!カイルはお姉さんを殺す事だけ考えろよ!拳に殺意が足りないぞ!!!!カイルぅぅぅ!!!!」


 ───こちらの事情を考慮して欲しいものだ。俺はお前を殺す訳にはいかないんだぞ⋯⋯言った所で納得なんてしないのは分かっている。


「仕方ないか」


 ディアボロが満足していないのもある。だが、それ以上に俺も殺す気でいかないと、勝てそうにないからな。こっちは骨も折れているんだ相手の事を気遣う余裕はない。


「俺もお前を剣士として斬り殺す!せいぜい足掻けよ!四天王!」

「バッチコイ!!!!」


 ぶっつけ本番。まだ鍛錬中にしか成功した事はないが、今の俺がディアボロを倒せるとしたら、取れる手段は限られる。だから出し惜しみはなしだ。


 ───さて、新技のお披露目といこう。

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