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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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145.相死相哀ノ殺シ愛Ⅰ

 正直に言って頭を抱えたよ。ニビルに着いて、住人の一人一人に会っても誰がディアボロか分からなかった。

 本当にディアボロが潜んでいるのかと疑問に思うほどだ。仲間はユニコーンを探す為に動いているが、俺一人違う目的で動いているのもあり、聞きたい情報を聞けていないのも大きい。後で個人として動くべきかと考えもした。結局、必要はなかったがな。


「何を言っておりますの、カイル様?」

「隠すならせめて表情を変えろ。嬉しくて仕方ないって顔がニヤケているぞ」


 口角を吊り上げて笑う姿は俺の知るメリアナと似つかわしくない。隠す気がない⋯⋯当然か、コイツはただ俺と殴り合いをしたいだけだ。だから分かりやすくヒントを与えていた。


 メリアナに疑いを持ったのは道中での会話だ。それまでは違和感はあっても、いつもの奇想天外なメリアナかと嫌な納得の仕方をしていた。

 確信を持ったのはニビルに着き、村人全員と会話した後だ。ディアボロは潜むとは言っていたが、待っているとは言っていなかった。タングマリンで始めて戦った時からずっと俺に執着し、動向を見ていた事から先に待っているのではなく、一緒に着いて来ているのではないかと。


「それにアレだけ分かりやすいヒントを与えておいて、違うとは言わないだろう?」

「⋯⋯そうだね!お姉さん、カイルに見つけて欲しくて沢山ヒントを出していたもんね」

 

 正解だよ!と楽しそうに笑うメリアナを黒い闇が包んでいく。数秒後、闇が晴れた先にいたのはディアボロだ。

 また服装と髪型が違う。前回のようにバニースーツではなかったことに安堵するべきか? あの格好は殴り合いをするにはあまりに不向きだろう。俺がやりにくい。

 桃色の髪はポニーテール。服装はレディース用のスポーツウェア?間違いなくこの世界にはないものだ。転生者の記憶を参考にわざわざ作ったのか?


「じゃじゃーん!お姉さんの登場だよ!」


 その場でクルリと一回転して俺に向かってウインクするディアボロを見ていると気が抜ける。何とも緊張感がない。


「念の為聞いておこうか。いつからメリアナと入れ替わっていた?」

「ダメだよカイル!まずは私の見た目を見て褒めないとさ!女の子は変化に気付いて褒めて欲しいものだよ」

「もう一度言おう、いつからメリアナと入れ替わっていた? それと彼女は無事か?」

「釣れないなーカイルは」


 口を尖らせ不満そうにブーブーと文句を言っている。そんな事はどうでもいいから質問に答えて欲しい。メリアナとディアボロが入れ替わっている可能性が浮上した時、同時にメリアナの安否が気になった。

 もし、殺めているようであれば俺もそれ相応の対応しなければジェイクに合わせる顔がない。


「安心しなよ。ちゃんと生きているよ。今頃タングマリンの宿屋でぐっすりオネンネ中かな?」

「夢を操る力か」

「正解!私が能力を解くまで起きる事はないよ。それにお姉さんは優しいからさ、ちゃんと介護の人間を雇っておいてあげたから寝ている間の事も心配しないでいいよ。もっともカイルが死んだら後は知らないけどね」


 一先ずメリアナの無事を喜ぶべきか。それにしても、わざわざ介護まで付けている? そこまでする理由はなんだ?

 俺の疑念が顔に出ていたのか気付いたのかどうかは不明だが、楽しそうに微笑みながら『カイルに嫌われたくないから傷付けてないよ』と補足の情報をくれた。

 ⋯⋯何はともあれメリアナが無事ならそれでいい。


「入れ替わったタイミングはタングマリンに着いてからだな?」


 それまで違和感はなかった。いつものメリアナだった。


「そうだよ。その日の夜に彼女の身柄を移動して入れ替わった訳さ」

 

 タイミングで考えると王宮で暴れていたのもコイツか?やけに力が強いなと思ったがディアボロだとするならば納得だ。


「ちなみにカイルはいつ私がディアボロだって気付いたのかな?お姉さん気になるなー」

「この間の会話だな。『ニート』や『ヒモ野郎』なんて言葉はこの世界にない。転生者ぐらいしか知り得ない情報だ」

「メリアナが転生者って可能性はどうだい?」

「それはないな。付き合いは短いがメリアナとはテルマを出るまでに何度もやり取りをした。変わった行動を取ることが多いが、転生者ではない」

「ふーん、そっか」

「付け加えて言うなら、本来のメリアナはお前が演技していたメリアナよりも数倍は鬱陶しいぞ」


 声や口調なんかは似ていたが接し方が少しばかり大人し過ぎたな。メリアナはもう少しグイグイくるタイプだ。テルマでいた時も毎晩のようにお酒を片手に突撃してきた。その度にお酒の相手をしろと騒ぐのだから困ったものだ。

 旅の道中は大人しかったがタングマリンに着けばまた、突撃してくるだろうと身構えていたから肩透かしをくらった気分だった。最初の違和感はそこだな。

 決め手となったのは二日前の会話。ニートやヒモ野郎なんてこの世界の住人が知らないワード、そして。


「俺はリゼットさんの事を仲間に話した事はない。育ての親として話題に出した事はあっても名前を言った事はない。知っているのは今もこの会話を聞いているノエルと、お前だけだディアボロ」

「あれ、そうだったかな」


 ダルから聞いたと言われた時点でダウトだった。傭兵は脛に傷持つ者が多い。俺の育ての親であるリゼットさんも同様だ。トラブルを避ける為に傭兵団(なかま)の名前を出すのは控えるようにしている。一度痛い目をみたからな⋯⋯お財布的な意味で。


「俺の記憶を読んでいたなら知っている筈だが?」

「そんな細かい事まで気にはしてなかったね。お姉さんの凡ミスだ!」

「だからクロヴィカスが死んだ事も知らなかったと?」

「それは流石に知っているさ。記憶を読み取る以前に、魔族の情報網があるからね。メリアナになりきっていただけだよ」


 俺と同じようにメリアナからも記憶を読み取っている筈だ。という事はメリアナは本当に知らなかった訳か。冷静に考えると情報が届いていないというのはかなり不味いんじゃないか? 戦いで重要視されるのは情報だ。戦時、平時関係なく情報というアドバンテージを持っているかどうかで優位が変わる。今の世界情勢を考えれば楽観視できる話ではない。

 このやり取りもノエルは聞いている筈だ。聡い彼女なら動いてくれると信じている。


「魔王に唯一詳しいのはクロヴィカスというのは間違っていないんだな」

「そうだよ、カイルの目的も知っているからね。お姉さんも協力してあげた訳さ。先代と似ているってのも重要だよ。その意味よく考えるといい⋯⋯生きていたらね」

 

 空気が変わった。どうやらこれ以上お預けはごめんらしい。早くやろうとディアボロの目が訴えかけている。色々と聞きたい事もあったが仕方ないか。


「聞こえているか、ノエル。今から俺はディアボロ(四天王の一人)と戦う。手出しは無用で頼む。必ず勝つから信じて待っていてくれ」

「私の前で他の女とやり取りする普通?」

「お前の望みを叶える為だ、それくらい許してくれ」


 ノエルが盗聴している事もディアボロは知っている筈だろうに、そんな文句言いたげな視線を向けないでくれ。ディアボロの望みである一騎打ちを実現させる為にもあらかじめ釘をさしておかないと、心配したノエルが仲間と共に駆けつけてくる可能性があるんだ、仕方ないだろ?


「あー、そういえば聞かれているんだっけ?なら言っておくよ。君たちが探しているユニコーンは私が捕らえてまーす!カイルが勝てば場所を教える約束をしてるんだけど、カイル以外の奴がきたら場所を教えるつもりはないし、即逃げるから。だから一騎打ちの邪魔をしないでね」


 ディアボロが補足してくれたお陰で一騎打ちの意味をノエルなら理解してくれるだろう。前回のように横槍が入る事はないと信じたい。仲間に対して申し訳ない気持ちはあるがな。


「コレで邪魔者はなしだね、カイル。最高の殺し愛をしようよ」

「そうしたいところなんだが、悪いな少し待ってくれ」


 このタイミングで水を差すのは本当に申し訳ないんだが、戦いの為の前準備だから許して欲しい。ディアボロの非難の目を浴びながら戦いの余波が届かないであろう端の方まで移動する。都合良く木が生えていたので腰に差したデュランダルを鞘ごと抜き、木に預ける。


「マスター!?」

「悪いデュランダル。ディアボロとの約束でな。殴り合いで決着をつけるつもりなんだ」

「⋯⋯私なしで戦うのですね」

「そうなるな。信じて応援していてくれ」

「分かりました。頑張ってくださいマスター」


 デュランダルの応援の声を背中に浴びながら元の場所に戻る。ディアボロの方を見れば嬉しそうに笑っていた。


「あの時の続きをしよう。見ての通りに武器はない。お前が大好きな殴り合いだ」

「ちゃんと約束覚えていたんだ。いいね!お姉さんの好感度が5ポイントくらい上がったよ。もう上限には達してるけどね」

「そうか」

「釣れないなー、カイルは。まぁ、いっか。そんな些細なことはさ!」


 空気が張り詰めていく。ピリピリとした緊張感と、ディアボロのテンションが上がっていくのと一緒に強まる威圧感。夢の時より威圧感が増しているか? それでも怯む程ではない。

 向けられた殺気に応えるようにディアボロに殺気を飛ばせば嬉しそうに破顔した。戦闘狂め。



「そろそろ始めようか。今回はカイルが死ぬまで止めるつもりはないよ。だから、カイルも私が死ぬまで止めないでね!殺して!哀しんで!愛を囁いて!私も最後まで愛してあげるから⋯⋯カイルが死ぬその瞬間まで、ね!」


 ───相死相哀ノ殺シ愛 開幕

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