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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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143.メリアナ

 あれから何日経過しただろうか?一週間は確実に過ぎているだろう。森の奥へ奥へ進むと巨大すぎる木々が邪魔をして陽の光すら差し込まない場所が増えてきた。そのせいで昼夜の判断が出来ない時がある。

 それに比例して暗闇から奇襲を仕掛けてくる魔物も増えてきたな。探索用の魔導具を持ってきてなかったら危険と判断して進むのを断念したかも知れない。その場合はかなりの遠回りになるらしい。先導するトラさんが夜目が効く為、多少の無理は効くのと魔導具を持っていたので暗い森を進む事が出来ている。


 その甲斐あってか、トラさんの想定よりもペースはいいそうだ。目的地であるニビルまでは後二日ほどと言っていたな。

 だからこそ気を引き締めないといけない。旅路のゴールが見えると気が緩むものだ。それに俺にとって目的地はゴールであると同時に、戦場でもある。ディアボロとの戦いが近付いていると言えるか。


「⋯⋯⋯⋯ふぅ」


 ───パチパチと薪が爆ぜる音がしている。火を絶やさないように木をくべていると、俺の隣にメリアナが腰を下ろした。珍しい事に今日は起きているらしい。

 他の仲間と一緒に寝てればいいのにと、申し訳ないが思ってしまった。絡みが鬱陶しいからな⋯⋯特にお酒を飲んだ後は。


「カイル様もご一緒しませんこと?」

「いや、俺はやめておく」

「残念ですわ?ならわたくしだけで楽しみますの」


 片手に持つ高そうなお酒⋯⋯あれはサーシャにオススメされたやつだな。テルパドーラに持っていったらかなり喜ばれた記憶がある。

 ドワーフの国では珍しい甘めのお酒だった筈だ。『収納』の魔法で取り出したグラスにお酒を注ぎ、一人で飲んでいるメリアナを後目に鞄の中から取り出した手紙を広げる。

 魔王が部下に宛てて書いた手紙だが、何度見てもサーシャやトラさんの癖は見当たらない。手紙の指示も淡白なものだ。もう少し手紙に自我が出るかと思ったが、かなり用心深いな。


「あら、手紙ですの? カイル様がお書きになったものですの?」

「いや、違うな。これは今代の魔王が部下に送ったとされる手紙だ。魔王を探しているがまるでヒントがないからな。手紙の内容から少しでも魔王の事を知れたらと思って中身を見ている」

「なるほどですわー」


 聞いてきたのはメリアナの方なんだが、興味がないのグラスにお酒を注いで香りを楽しんだり、一口だけ口に入れたり、上品にお酒を楽しんでいる。

 かと思えば。


「わたくし思うのですけど!」

「なんだ?⋯⋯あと、声のボリュームは落とせ。仲間がテントで休んでいるし、見て分かると思うがトラさんが近くで睡眠を取っている。邪魔をしないでやってくれ」

「それは失礼いたしましたわ〜」


 口の前で指と指を交差してペケマークを作っている。そのまま黙り込むのかと思ったが、口の前でペケマークを作ったままペラペラと喋っているメリアナに何とも言えない気持ちになった。

 声のボリュームが落ちている事がせめてもの救いか。それで、メリアナは何が言いたいんだ? 今代の魔王は先代の魔王に似てると思いませんか、だと?

 先代魔王は四代目勇者ロイドとタケシさんの時代の魔王だ。名前はロンダルギア。魔族と竜人のハーフだったか?


 デュランダルに聞いた話だが、シルヴィが裏切った事で居場所がバレたんだったか?それまでロンダルギアは表に殆ど姿を表さず隠れ潜んでいた。確かにその点だけで言えば似ているか。


「先代の魔王は一部の魔族の前にしか姿を表さなかったとか」

「四天王を始めとする魔族の中でも、上澄みの者たちだけだったか?人間やエルフに居場所をバレない為とはいえ同胞が相手でも信用はしていなかったんだろう」

「今代はその先代よりも用心深いと言われていますわね。四天王が相手でも姿を見せていないそうですわ。全て手紙での指示で完結していますの」

「それでよく同胞たちが魔王と崇め、その指示に従っているな」

「言われてみればその通りですわね、何か理由があるのかしら?あ!カイル様に良いことをお伝え出来ますわ!昔学者さまと話していた事を思い出しましたの!

魔族が残した痕跡を分析したところ、唯一魔王の事を知る魔族がいるそうですわ。魔王を捜すのでしたらその魔族を先に捜すのはどうかしら?」


 思いもよらない手掛かりだな。魔王の事を知る魔族がいるのか? 仮にいるのだとしたら、かなりの信用を得ている事になる。

 一つ言えるのは間違いなくその者は強い。その上、口を割らないだろう。用心深い魔王が信頼を寄せる者という事だからな。


「その魔族の名前は分かっているのか?」

「ええ。カイル様もご存知の筈ですわ。魔族の中でも指折りの実力者ですから、その異名は今世まで伝わっておりますもの」

「ドレイクか?同じ竜人でもある⋯⋯信頼を向ける相手としては納得できる」

「カイル様、『赤竜』のドレイクは魔族ではありませんことよ」


 なら、魔族の四天王の一人にカウントするなと言いたくなる。いや、この話と四天王の話は別か。魔族の四天王の由来は魔王軍の四天王という意味だ。その意味だったらドレイクが魔族の四天王でも可笑しくはない。釈然としないがな。


「そいつは四天王か?」

「違いましてよ」


 ふふふ、と口元を隠してメリアナが笑う。四天王以外の実力者か。既に亡くなっている者や倒した者を除けばかなり限られてくるな。


 『百花』のブルーメン、『礼節』のセバスチャン、『悪霊』のトイフェル、『双頭』のツヴィイ、『白羊』のシャーフ⋯⋯パッと思い浮かぶのはこいつらだな。戦った事があるのはセバスチャンとトイフェル。

 残りの三人は各地で姿は目撃されている。ジェイクがブルーメンと交戦したと言っていたな。ローウェン卿も健在だった事もあり、撃退する事は出来たそうだが、トドメを指す事は出来なかったそうだ。

 答え合わせの為にメリアナに確認してみたら、『違いますわ』と楽しそうに笑っている。クイズをしている訳ではないんだがな。


「ギブアップだ。誰か教えてくれ」

「あら、カイル様なら分かると思っていましたのに」

「こればかりは勉強不足だな」


 降参がしたが直ぐには答えてくれずうふふと、メリアナが楽しそうに笑っている。焦らしてくるな⋯⋯。


「では答え合わせといきましょう。その魔族の名前はクロヴィカス───『片翼』のクロヴィカスと呼ばれる魔族ですわ!」

「⋯⋯⋯⋯」

「カイル様、どうしましたの?」


 もう、倒しているんだよな、そいつ。


「ふぅ⋯⋯」


 大きく息を吐いて心を落ち着かせると、遅れて状況を受け入れる事が出来た。手掛かりが出来たと思えば潰える。

 憤りを感じる⋯⋯程ではないな。期待がそこまで大きくなかったのと、クロヴィカスが相手なら生きていようが死んでいようが情報を引き出すのは不可能と分かっているからだ。それはそれで諦めがつく。


 しかしまぁ、倒した敵が重要な情報を持っているなんて事は創作ではありがちだったりするが、俺も直面するとはな。よりにもよってクロヴィカスな当たり、何かしらの因果を感じるな。


「ノエルが協会を通して報告していたと思うが、テルマには届いていなかったか?」

「カイル様が仰る意味が分かりませんわ」


 主語が抜けていたか、反省すべきだな。


「その件の魔族、クロヴィカスは勇者パーティー(俺たち)の手で倒した後なんだ。その事をノエルが報告している筈だ」

「あら!そういう事ですのね!でも、本国にはそのような報告は⋯⋯」

「タイミングの問題か?ちょうど聖地エデンの襲撃と重なったのかも知れないな」


 クロヴィカスを倒した事よりも法皇が殺された事の方が、教会やエルフにとって比重が大きいだろう。その所為で情報が行き渡っていない⋯⋯これに関してはクロヴィカスの事だけではないだろう。


「そうなると⋯⋯手掛かりはナシですわね!」

「そうか。⋯⋯地道に探すしかないな」


 手紙以外に手掛かりとなるものはないだろうか? 何かあれば⋯⋯待てよ。魔王が隠れ潜んでいた場所が分かれば何かしらの手掛かりはあるんじゃないか?名案を思い付いたと一瞬思ったが肝心の場所が残念ながら判明していない。


 魔王が隠れ潜んでいた場所を発見し、魔王と対峙した五代目勇者ハロルドは方向音痴だった。その所為で情報が後世まで伝わる事がなかった。せめて、一人でもハロルド以外の仲間が生きていれば結果は違ったかも知れないな。

 直感が優れるエクレアですら仲間に魔王がいる事を気付いている様子はない。勇者ハロルドが魔王を見つける事が出来たのは、宇宙(コスモ)───つまるところ転生特典によるものが大きいだろう。


 先代の魔王が潜伏していた場所なら分かるんだが、それが分かった所で好転はしないか。


「先代と今代は似ている⋯⋯か」


 行ってみるのもアリか? 都合が良い事にロンダルギアが潜伏していたのはジャングル大帝だ。目的を達成したついでに寄ることできる。

 ロンダルギアの潜伏場所は既に公になっている事から、今代の魔王が同じ場所に潜伏する可能性は極めて低いが、ヒントを得る事は出来ないか?

 潜伏場所としてどのような場所を選ぶか、その傾向から場所を絞り、今代の魔王と勇者ハロルドが戦った地を導き出す。手紙以外の手掛かりがあるかも知れない。優先度としては低いがな。


「カイル様」

「なんだ?」

「お兄様も気になされておりましたけど、カイル様はこの旅が終わったらどうするつもりですの?」

「その言い方だとニビルまでの旅の事ではないな。勇者パーティーとしての目的を果たした後、魔王討伐後の事か?」

「ええ。カイル様ほどのお方でしたら色んな国からお声がかかると思いまして」


 メリアナが言っていたようにジェイクも気にかけていたな。俺に騎士になるないかと持ち掛けてきた。もっとも、エルフの気質とは合わないだろうから断ったがな。聖属性を持たない俺ではテルマでは歓迎されないだろう。


「また、傭兵として各地を放浪しているかも知れないな」

「あくまでも傭兵としてですの?」

「そうなるな。ノエルと結婚するのなら傭兵としてはいられない気もするが⋯⋯こればかりは先の事だ。俺個人としては傭兵として活動していたい」

「傭兵である事に拘りがあるのですわね」

「どうだろうな。幼少期から染み付いたものが抜けてないだけかも知れない」


 人生の約半分は傭兵として生きてきた。最も大切な幼少期の殆どを傭兵として費やしてきたのもある。その影響は大きいだろう。


「育ての親⋯⋯リゼット様の事を今でも忘れらないからではなくて?」

「それもあるかも知れないな⋯⋯。ん?そういえばリゼットさんの事は誰に聞いたんだ?メリアナに話した事はないと思うが」

「ダル様から聞きましたの!カイル様は育ての親(リゼット)様との思い出を大切にしていると」

 

 俺の知らない内にかなり仲良くなっているな。タングマリンでいる時もダルとエクレアと三人でよく行動を共にしていた。その三人にたまにトラさんが混ざっていたな。なんだかんだ相性はいいらしい。

 

 ───リゼットさんの事を今でも忘れられない、か。


 俺が傭兵に拘るのはソレが一番大きいのかも知れない。血の繋がった実の家族とは早くに死別し、義母として俺を育ててくれたリゼットさんも亡くなってしまった。家族との最後の絆が、リゼットさんが教えてくれた傭兵として生き方。

 リゼットさんから教わった事は今でもちゃんと覚えている。俺にとって大切な思い出だから。


「傭兵以外の道は思い浮かばないな!この旅が終わるまでに見つかる事を祈るとするよ」

「わたくしは騎士を進めておきますわ!お兄様が喜びますもの!」

「選択肢の一つに入れておくよ」

「騎士が嫌ならわたくしの婿というのもありましてよ!わたくしこう見えて!由緒正しい名家の令嬢!カイル様が無職のニートのヒモ野郎でも生活に苦労する事はありませんわ」

「今日は月が見えないのが残念だ。見えたらいい気分転換になるんだがな」

「なんで無視しますの!カイル様!」





 ───騒がしい夜が更けていく。

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