表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

149/160

139.天秤

 トラさんの代わりにわたくしが晩酌のお相手をしますわ!と煩く騒いでいたメリアナを追い出したのがつい先程だ。既に夜も深い。旅の疲れもあるからベッドに横になって寝てしまいたい気持ちもある。

 けど、寝る前に自分の中で整理しておきたい事が出来た。椅子へと腰掛けてデュランダルを机に置くとタイミングを計ったように話しかけてきた。


「寝なくて大丈夫ですか、マスター?」

「少し考えを整理したくてな」


 こうしてデュランダルと会話をするのは何時ぶりだろうか?最後に言葉を交わしたのはテルマのジェイクの屋敷だな。テルマを出立してからは基本的に野宿が多かったし、近くに人が居ることが多くデュランダルから話しかけてくる事はなかった。

 途中で立ち寄った町バッカスでも話しかけて来る事はなかったな。あの宿は壁が薄かったからな。隣の部屋をとっていたメリアナの声が俺の部屋までよく響いていた。『このお酒美味しいですわ!』『この果物最高ですわ!』とか、とにかく煩かった。

 壁ドンしたくなったのは前世を含めて初めてかも知れない。


「トラさんの事ですか?」

「鋭いな。⋯⋯魔族というのは今の世界では生きにくいだろうと、ふと思った」


 魔族の血を引く、それだけで彼らは迫害を受ける。俺の仲間であるトラさんやダルも例外ではない。生きにくい世の中だと思う。責任を負う立場である王族なら尚更だ。


「そうですね⋯⋯魔族は世界の敵ですから」

「この戦いの終着点はどこになるんだろうな」


 いや、分かっているつもりではいる。血の流れた先にあるのが、血の根絶か反逆の勝利かそのどちらかになるだけだ。

 初代魔王であり、魔族の為に立ち上がったデュランダルには少し言い難い話ではあった。


「一つだけ聞いてもいいか?」

「何でしょうか?」

「魔族のハーフは、純血に比べると特徴がないと思うんだ。血が薄れる事で特徴が消えるのか?」


 あくまでも外見的特徴の話だ。俺が戦ってきた純血と思われる魔族は角や翼、尻尾といった魔族の特徴があった。

 仲間のダルやトラさんには特徴が見えない。ハーフとなると血が薄れる事が魔族の特徴が消えるのであれば、他種族と子を成す事で魔族である事を隠す事が出来る。戦いの利便性という意味でもそうだが、隠れ潜む必要がなくなるんじゃないのか?

 戦いとは別の終着点もあるんじゃないかと、頭に浮かんだ。傲慢だな。自分でも思った。これは持っている側の意見だ。隠れ潜む必要もなく堂々と表世界で生きる事が出来る人間(勝者)の意見だ。


「ハーフであっても魔族の特徴は消えないと思います。人間とのハーフであった二代目魔王にも角や翼、尻尾といった魔族の特徴がありました」


 二代目魔王⋯⋯つまり、デュランダルの息子の事だな。嘘ではないと思う。なら、トラさんやダルに魔族としての特徴がないのは?


「トラさんやダルに魔族の特徴がないのは『擬態』で隠しているからか?」

「おそらく、その通りかと。王族という立場ですのでダルさんの場合はご家族に言われ、トラさんの場合はご自身の判断で隠しているかと」

「そうか⋯⋯」


 『擬態』の魔法の利便性は嫌という知っている。この魔法がなければ俺たちが魔族を捜すという事にここまで苦労しなかっただろう。魔族がこの時代まで生き延びてきた理由は『擬態』の魔法にあると言っていい。

 メリットの多い魔法ではあるが、持続性の魔法であるが故に使用している間はずっと魔力を消費し続けるというデメリットもある。魔力は体にある器官を休ませる事で回復する。

 『擬態』を使い続け常に消費し続けている状態では魔力は回復しない。回復する為には魔法を解かなければならないが、その姿を見られれば魔族とバレてしまう。寝ている間すら気を休める事は出来ない。


 奴隷の身から解放されても尚、抑圧を強いられている。自由を得る為には敵対勢力を滅ぼさないといけない⋯⋯か。


 千年以上の時を経てもこの争いが終わらないのは過去の遺恨よりも、自由への所望の方がもしかしたら強いのか?

 魔族以外の相手と子を成し、その子供もまた魔族の為に戦っている。戦いは常に子へと引き継がれ、血が薄くなっても変わらない。

 世界の敵である認識がなくなり、魔族が自由を得るその時まで⋯⋯この戦いは終わらないだろう。


「魔族の血は争いを求める⋯⋯か」

「トラさんが言っていた言葉ですね」

「どう思う?」

「正しいと思いますよ。魔族というだけで、求めていなくても争いの火種はやってきますから」

「そうか」

「はい」


 母親を殺したのも、王族を抜けたのも家族を魔族の血が引き寄せる争いから逃がす為⋯⋯。


 椅子にもたれ掛かり天を仰ぐ。特別語ることもない部屋の天井を視界に映しながら、トラさんとの会話を思い出す。その表情も。


「トラさんは⋯⋯違うか」

「何か言いましたか?」

「ただの独り言だ」


 小さく零れた声を耳聰く拾うデュランダルの反応に、独り言も内容を考えないとな、と反省する。


 ───トラさん、魔王ではないかも知れない。


 母親について語るトラさんの声や、表情は決して偽りの内容を話しているようには思えなかった。家族の事を話す時のトラさんの楽しそうな表情も。


 家族⋯か。


 トラさんが魔族の血が引き寄せる争いから逃そうとしているモノ。実の母親を殺してまで、トラさんは家族を護る事を選んだ。

 トラさんに関して言えば、彼女の家族に会う事が出来れば魔王ではないことの証明になるんじゃないか? ダルと一緒だ。家族の存在が魔王であることを否定する何よりの証拠になる筈。


 獣人の寿命は人と同じだ。魔族とのハーフであるトラさんはその枠には収まらないが、家族はそうでは無い。300年前に封印された魔王がトラさんならば、その家族は既に亡くなっている。それも一般家庭ではなく、王族だ。調べるのは難しくないだろう。


 魔族が使う魔法には『洗脳』や『服従』、『魅了』といった人の心を操る魔法も存在する。それでも国民全ての心を操るのは不可能だ。

 ダルやトラさんが魔王であり心を操る魔法で、意のままに操り⋯⋯記憶や歴史を改竄しても必ず違和感は残る。どの道ジャングル大帝に向かうんだ。王都に行って情報を探ればトラさんの事は分かるだろう。

 

 仲間の身の潔白を証明するのもまた、血の繋がりか。


 そして、トラさんが容疑者候補から外れれば、代わりに浮上してくるのはもう一人の容疑者。


 ───サーシャ。


 彼女は今も酒場に入り浸ってお酒を飲んでいるだろう。彼女の事を知る為に、今から酒場に向かってサーシャと酒の席で話をするという選択肢もある。肝心の酒場の店の名前と場所はトラさんから聞いているから問題はない。最近のお気に入りのお店らしく、今日も向かう予定だと言っていたそうだ。


 向かうか?


 頭の片隅に浮かんだ考えを秒で否定する。ナシだな。トラさんと違ってサーシャの場合は終わりが見えない。それこそ彼女が満足するまで付き合わされるのが目に見えている。

 過去の体験が俺の足を重くしているのは仕方ない事だろう。


 そもそもの話、サーシャに何を聞いたらいい? 両親の事か? それは既に彼女の口から聞いている。勇者パーティーに所属した二人の英雄。

 彼らの血を引くサーシャが魔王である確率は限りなく低い。本来なら疑いの目を向ける必要すらない。


 ───彼女の出生が嘘偽りのないものだとするならば⋯⋯。


 サーシャの出生の証人となっているマクスウェルに魔族との繋がりがなければ、証言を疑う事すらなかっただろう。残念ながら、魔族との繋がりは初代魔王と四天王の口から明かされてしまっている。

 ドワーフ自体が魔族寄りの種族でもある。マクスウェルも間違いなく後暗い事に手を染めているだろう。


 ただ、サーシャを魔王と仮定する場合は彼女の血統を否定する事になる。タケシさんが人間である事はティエラとの会話で判明している。

 そうなるとクロナが魔族とドワーフのハーフでない限りは、父親がタケシさんではない事になる。デュランダルやジェイクから語られるクロナの人物像から、タケシさん以外の父親が思い浮かばない。

 

 せめてサーシャの両親のどちらか一人でも生きていたら、こんなに頭を悩ませずに済んだんだがな。

 彼女の出生をマクスウェル以外に知る者はいないだろうか? サーシャが産まれたのは500年以上前だ。長命種とはいえ、亡くなった者も多くいる。『賢者の塔』に所属する魔法使いなら知っている者もいるか?

 いや、ダメだな。マクスウェルの息がかかっている可能性が高い。賢者の塔(それ以外)でサーシャの事を知っていそうな人物⋯⋯。


「そういえば、明日は首長に会う予定でしたよね? 寝なくて大丈夫ですか?」

「⋯⋯そう、だったな。会うのは昼からの予定だが、寝過ごさない為にもそろそろ寝るべきか」

「はい。その方がよろしいかと」


 明日の予定を思い出し、椅子から立ち上がったタイミングである事を思い出す。いたな、マクスウェルと同じ時を生きた英雄が。

 マクスウェルとも深い関係があり、その弟子であるサーシャの事にも詳しいであろう人物。


「少し探りを入れてみるか」


 サーシャの出生を知っている可能性は低い。それでも幼少期の彼女の情報を入手出来れば少なくとも今よりは前に進んでいると言える。


「マスター」

「どうした?」

「私はマスターがやろうとしている事を止める気はありません。その上で進言させてください。決して油断しないでください」


 小さく呟いたつもりだったんだが、どうやらデュランダルの耳?に入ったらしい。止める気はないみたいだが、油断するな?

 俺がやろうとしている事はデュランダルがそこまで警戒する事なのか? ⋯⋯そうだな、ドワーフが魔族寄りである事を考えれば警戒するに越した事はないか。


「ありがとうデュランダル。気を付けるよ」

「はい。これだけは覚えておいてくださいマスター。マスターが明日向かう場所は、マスターが思っている以上に魔窟ですよ」


 魔窟⋯⋯か。その言葉が答えだな。少しばかり危ない橋を渡る事になるだろうが、探ってみるとしよう。それに個人的にも一度しっかり話をしておきたかった。




 ドワーフが国を持つ以前から種族を統べ、今世まで種族を導いてきた偉大なる王。世界全土⋯⋯前世を含めてもこの男ほど長く国を治めた者はいない。


 ───タングマリン首長(こくおう)、『天秤』のジャック・フォルカス。


 千年の時を生きるドワーフの大英雄。その異名が正しいことを祈るばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ