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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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138.生まれた意味

 ───親を殺した、か。


「何があったんだ」


 素朴な疑問だ。これまでの付き合いがあるからこそ、トラさんが短絡的な行動を取ったとは思えない。

 これまでトラさんが犯した犯罪の原因の多くは価値観の相違だ。捕まった回数が回数だけに、いい加減にしてくれという思いがあるから擁護は出来ないんだがな。

 それでも人を殺めるレベルの犯罪はしていない。殺しかけた事はあるが⋯アレは相手も悪かったから目を瞑ろう。


 親を殺した、それも実の母親だ。そこに辿り着くまでの過程に何かがあったのだろう。そうでなければトラさんがここまで思い詰めた顔はしない。


「聞いてくれるか?」


 小さく頷けばトラさんが酒器を突き出してきた。その意図を汲み取ってお酒を注ぐと、カイルも飲めと空になった俺の酒器にお酒が注がれた。正直言ってお酒を飲みながら交わす会話としては些か重すぎる気もするんだが⋯。

 トラがお酒を口にしたのを見て俺を一口飲む。さっきまでは美味しいと感じていたんだがな。不思議と味を感じなかった。


「先も話したが俺の母親は魔族の血を半分引いていた」

「ハーフだと言っていたな」


 トラさんにも四分の一の魔族の血が流れている。話すに当たって知っておいた方がいいだろうと、父親と母親の名を教えてくれた。父親の方はジャングル大帝の国王という事とあり、名前は知っていたが改めてその名前の長さに驚く限りだ。トラさんの弟たちも愛称で呼んでいるから短いだけで、本名はめちゃくちゃ長いの。トラさん曰く俺との関係があるから、愛称でも呼んでも問題ないそうだ。

 それはそれで外堀が埋められているような感覚がして嫌だな。将来の家族だから愛称でいいみたいな、そんな感じがして。

 肝心の名前に関してだが父親の名前はティガークラウン。母親の名前ティガレと言うらしい。


「正直に言えば俺は母親の事を何も知らない。俺が幼い頃に魔族とのハーフである事が家族にバレて、父親の制止を振り切り姿を消した」

「家族に迷惑がかかると判断して、自ら離れていったのか?」

「さて、何の考えがあって姿を消したのかは分からん。ただ、そんな殊勝な考えではないだろうな。家族の事を思うような優しさは俺に感じ取れなかった」


 コンっと小さな音を立てて空の酒器が机の上に置かれた。数秒の沈黙の後、腕を組み何かを考えるように天を仰ぐトラさんに俺は何も言えずただ、その姿を見つめていた。

 いつもと違うトラさんにどう対応したらいいかが分からなかったからだ。それからしばらくの間、無言の時間が流れた。再び話を切り出したのはトラさんからだ。


「カイルは母親との思い出はあるか?」


 母親との思い出?俺の母親の事が聞きたい、という訳ではなさそうだな。自分の母親との違いが気になるのか? 母親か⋯。記憶の片隅に残されたこの世界での両親の笑顔が脳裏に過ぎる。両親もそうだが、少し年の離れた兄と姉にも随分と可愛がられたな。

 この世界で生を受けて本当の意味で幸せだと実感出来たのは、7年という人が成長するにはあまりに短い年月の間だけだろう。


「幼少の頃の思い出だけだな。前に話したと思うが俺の家族は7歳の時に全員殺されている」

「⋯⋯そうだったな」


 人生の分岐点があるとすればソレは間違いなくあの時だ。己の無力さ知り、現実の非情さを噛み締めた。幸せがあっさりと壊れる瞬間は今も思い出すだけで心が痛む。それだけ今世の家族を愛していたんだろうな。

 前世の記憶があるせいで気恥ずかしさが勝り、両親に甘える事は殆どなかった。両親からすれば可愛げのない息子だったかも知れない。いや、そんな事はないか。記憶の中に眠る鬱陶しいくらいに溺愛してくる家族の姿を思い出し、浮かんだ考えを振り払う。


「家族は確かに幼い頃に亡くした。けど、家族に⋯母親に愛された記憶はしっかりと覚えている」

「そうか⋯羨ましい限りだ」

「トラさん?」


 小さな声で紡がれた言葉からはほんの小さな嫉妬を感じ取れた。


「すまん、ただの嫉妬だ。忘れてくれ」

「分かった⋯」


 俺がトラさんに問いかける前に謝罪の言葉を言われてしまった。そのまま閉口したトラさんに何もいえず、気まずい空気を誤魔化すためにお酒を口にする。こういう時、酔えないというのは厄介だな。


「俺は⋯母親にとって道具でしかなかった」

「どういう事だ?」


 トラさんの言っている意味が分からず、聞き返えせば自嘲気味に笑った。お酒に酔っているせいか、感情の制御が出来ていないのか?普段のトラさんなら見せない感情だ。


「魔族の血は⋯争いを呼ぶという事だ」

「⋯⋯⋯⋯」

「今から3年ほど前だ。魔王が復活したと世界各地でその噂が流れ始めた頃、俺が幼い頃に姿を消した母親が俺の前に現れた。それは決して感動の再会ではなかった」


 噂が流れ始めた頃から魔族は本格的に動き始めていたな。魔物の被害が世界各地で増え始めたのはその付近だった。魔族による襲撃がクレマトラスで行われ、それによって王妃が亡くなった。魔族の姿を世界が認知し、魔王復活の噂を皆が信じたのはその事件の後だ。勇者パーティーが結成したのはその数ヶ月後。

 トラさんの元に母親が現れたのはそれよりも前だろう。


「母親はな、俺の国の国宝を求めていた」

「国宝⋯神器か?」

「そうだ。父親との間に子をなしたのは合法的に国宝を得る為だ。自分が産んだ息子が王となれば国を乗っ取り、神器を手にする事が出来ると考えていた」

「随分と回りくどい事をするな?家族にまでなれたのなら神器を入手する事は可能なんじゃないか?」

「不可能だ。我が国の宝物庫は古の技術を流用している。俺たちの体に流れる『血』こそが宝物庫を開ける鍵となる。王の血でなければ反応しない」


 摩訶不思議な技術だな。国の宝を守るという意味でなら、強固な護りだろうが継承が難しいと思うがそこら辺はどうなんだろうな?


「物理的な鍵ではなく、王の血が鍵の役割を果たしているのか……それはどういう原理なんだ?」

「水の精霊の守護だ。俺の一族は昔から水の精霊ウンディーネと関わりがあった。原理は俺にも分かっていないが、水の精霊が宝物庫を護っているのだろうと言われている」

「聞いていいのか判断に困るんだが、王が亡くなった時の継承はどうしているんだ?王以外に宝物庫は開けられないんだろう?」

「『精霊の間』と呼ばれる場所で、次の国王が水の精霊に王が代わった事と、ジャングル大帝の地を汚さずに守り通す事を誓い、それが水の精霊に認められれば王位を継承する」


 その話が本当ならユニコーンがいなくても水の精霊と交流が可能なんじゃないかとふと考えた。聞いたところ、あくまでも一方的な宣言に過ぎないらしい。水の精霊に認められたかどうかを判断する為に宝物庫に向かい、鍵が開けば真の意味で王として認められるそうだ。


「水の精霊と対話が出来たのは初代国王だけだ。初代国王が土地を護る代わりに守護を貰ったと聞いている」

「トラさんの一族なら対話出来るという訳ではないのか」

「そうだな。初代国王が水の精霊と対話出来たのは『テンセイトクテン』とやらのお陰らしい。それが何か俺には分からんがな」


 そうだったな⋯、ジャングル大帝の初代国王は転生者だ。ミラベルから貰った転生特典のお陰で水の精霊と対話出来たのか。それなら期待はしない方がいいな。トラさんに話が逸れた事を謝ると、気分転換になったと笑っていた。


「俺の母親は宝物庫が王でなければ開けられない事を知らなかった。王族なら開けられると勘違いしていた」

「国の機密だから知らなかったという事か?」

「そうなるな。鍵の事を知るのは我が国でも限られた者だけだ。父親と結婚し王妃になった後に、鍵の事を聞いたらしいが⋯宝物庫については一切話さなかったらしい」


 なるほどな。⋯⋯また、国の機密を知ってしまった気がするんだが気のせいか? 王族に魔族の血を引いている者がいるというトップシークレットも知った訳だから今更か。

 胃が痛くなってきたな。


「母親は王族の血を引く俺なら宝物庫を開けられるだろうと迫ってきた。神器を盗み出し、魔族の為に俺にも戦えと訴えかけてきた」

「それは⋯」

「母親にとって俺は宝物庫の宝を得る為の道具でしかなく、同時に母親の命令で動く駒の一つとしか思われていなかった」


 そこに愛なんてものは存在しない。トラさんは魔族の血を嫌っていると何となく察していた。その意味が分かった気がした。


「ふざけた話だろう? ろくな愛情を与えず、子なのだから親に従えと迫る。流石の俺でも母親への思いは冷めていった」

「⋯⋯⋯⋯」

「俺の父親は王として愚かではあるが、父親として見るなら最高の親だった。魔族の血を引く俺を大事な娘として大切に育ててくれた。俺の全てを授けると戦い方を教えてくれた。受けた愛で比較するのは、王族としては愚かな行いだろう。それでも俺は母親ではなく父親を取った」


 仮にトラさんでなくても父親を選んだんじゃないか?比較対象が悪すぎるだろう。俺が同じ立場でも父親を選ぶ。誰だって自分の事を駒扱いする者の元へと行きたいとは思わない。


「母親を生かしておけば家族に危害が及ぶと判断し、油断している所を狙って殺した。あの時の感触と母親の最後の言葉がどれだけ忘れようとしても、残ってしまっている」


 まるで亡霊のようだなと、吐き捨てたトラさんは空になった酒器にお酒を注ぎ豪快に飲み干した。深く吐かれた息はお酒によるものか、あるいは⋯。


「聞かないのか、母親の最後が何だったか?」

「気になりはするが⋯聞くことでトラさんに嫌な思いをさせるんじゃないかと思ってな」

「クハハハハ、既に思い出してしまっているから今更だ」


 それもそうだなと、トラさんの笑い声に釣られて笑った。決して明るい話しではない筈なのにな。


「なんて言われたんだ?」

「お前の生まれた意味を忘れたのかと、言われた。道具として生まれたなら持ち主に逆らうなと⋯どこまでもふざけた話だ」


 そこまで言われて、まだ母親扱いしているのはトラさん温情だろうか? 俺が同じ立場ならきっと出来ないだろう。カイルと、不意にトラさんに名前を呼ばれた。どうかしたかと言えば、ただ微笑むだけ。

 よく見ると目がトロンとしている。流石に飲み過ぎたか? 昼間はサーシャと飲んでいたし、今も結構な量のお酒を飲んでいる。いくらお酒に強いと言っても限度はあるからな。俺やサーシャが可笑しいだけだ。眠たそうにしているトラさんを見て、お開きにしようと立ち上がった時にトラの声が耳に入った。


「本当の意味で生まれた意味があるとすれば⋯」

「トラさん?」

「それは⋯お前だよ⋯カイル。お前の存在⋯⋯こそが⋯⋯俺の⋯⋯生ま⋯れた⋯⋯意味⋯⋯」


 どういう事だと聞き返しても反応がない。原因について考える必要すらない。寝てるなこれは。

 なんとも気になる形で会話を終わらせるんだ。昔のアニメか何か? そっちの方はもっと引き伸ばしが多いか。


 眠っているトラさんを無理に起こす事はせず、宿屋の店主に支払いと、部屋に戻ると伝えに行った。トラさんの飲んでいた席へと戻ってきて、そこで気付いた。どうやってトラさんを部屋へと連れて行こうかと。

 連れて行けない事はないが、体をぶつけそうだな。こういう時魔法使いがいてくれたら助かるんだけどな⋯。


「わたくしを呼びましたか、カイル様!!!」


 なんでこの女は何時もタイミングを計ったように現れるんだ? まぁ、いいか。ちょうどいいし手伝って貰おう。








 ───トラさんを無事に部屋に送り届ける事は出来たが、メリアナは役に立たなかったとだけ言っておこう。

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