134. 手掛かり?
第一巻発売しました!
٩(>ω<*)و
仲間達が落ち着きを取り戻したのは10分後くらいだったか? お陰で鞄の中の整理をする事ができた。不要な物がだいぶ増えていたと実感した。後で纏めて捨てるとしよう。
逆に大事な物は意外と少なかったな。金銭やエクレアから渡された手紙、それとタケシさんが残したモノ。特に重要なのはそれくらいか。
それにしても『炙り出し』か。
大きく書かれた『ミラベルを信じるな』という言葉を目が追ってしまうから、近く隅に書かれた言葉は見落としていたな。というより小さく書いたら、見つけられないだろ!?
わざわざ面倒な手間をかけてまで残す情報だ。簡単に目に入れられたくないのは分かるが俺が万が一この手紙を捨てたらどうする? 最後まで気付かなかったどうする? せめて部屋に言った時に残すとか⋯さ。
あるいは⋯知られたくなかったとかか? あの部屋の案内人であるデュランダルにさえも。そうなると誰もいない時に、かつデュランダルが眠った後に確認するべきか。今すぐ確認は出来ないし今は置いておこう。
「それで、話を進めても構わないか?」
会議室にあるような細長い机と、人数分の椅子。入口に近い椅子に俺が座り、その正面にはマクスウェルが座っている。俺の右隣にノエル、その横にメリアナ。左隣にはエクレアが座り、その横にダルが座っている。
何が起きたか想像がつくと思うが左隣に座っていたメリアナが席移動させられた。『カイル様はわたくしが隣にいる事を望んでいますわ!!』と抗議していたな。ノエルたち三人の剣幕が怖かった⋯いや、冷静に考えた上でメリアナの抗議を無視して移動させる事になった。ブーブー言っていたが我慢してくれ。
俺から見てマクスウェルの右隣にサーシャ、左隣にトラさんが座っている。マクスウェルに没収された為、二人の近くには酒瓶はない。トラさんは仕方ないかといつも通り高笑いしていたが、サーシャは最後まで文句を言っていたな。
最終的にはサーシャがお酒を零して本を汚した事を指摘され、その事で長い説教を受けてサーシャが諦めた。自業自得だと思う。
席についた仲間たちに確認すると返事が返ってきたので話を進める事にする。
「首長とサーシャの手紙がタングマリンで何が起きたか分かっている。だが、詳細は知らなくてな。出来れば今回の魔族の襲撃に関する話を聞きたい」
「あたしが説明しないといけないわよねー?」
「トラさんでも構わないが⋯」
「クハハハハ!俺は前線に出ていたからな、全容は知らんぞ」
そうだよな。トラさんは襲撃があった直後から前線に出て被害を抑えていたと聞いている。それに⋯生き返ったとはいえトラさんは一度死んでいる。全容を知らないのは無理もない。
「分かったわよ。あたしが説明していくわ」
「そうじゃな。馬鹿弟子が話を進めて、補完をワシですればいいじゃろう。ワシも久しぶりに現場に出ておったし、首長から全容は聞いておるのぅ」
「なら、師匠が全部話しなさいよ!あたしがする必要ある!?」
「馬鹿弟子めぇ!これはお主たち勇者パーティーの問題であろう!本来ならワシは部屋を貸すだけでこの場に立ち会う必要はないのだぞ!」
「知らないわよ!弟子が可愛いとか思わないわけ?師匠のカッコイイところ見せてやるぞーって率先して説明するべきじゃない!?」
「全く思わんな」
そんなやり取りを踏まえた上で、サーシャから今回のタングマリン襲撃の詳細が話された。
魔族の襲撃があったのは俺たちがタングマリンを出立して2日後、まるで俺たちがいなくなったのを見透かしたように魔物を率いて襲撃してきたそうだ。
『擬態』の魔法はこれがあるから厄介だな。民衆に紛れて情報を集めていたんだろう。俺たちがタングマリンを離れたタイミングで襲撃を仕掛けた…だとしても準備が良すぎる。となると、今回の襲撃は念入りに計画されたものの可能性が高いな。
「クロヴィカスも今回の騒動に関係していると思うのよねー」
「俺たちをクレマトラスにおびき寄せる為だな」
「そうね。想定外だったのは義手を作る為にタングマリンを訪れた事じゃない?」
本来の計画ではクロヴィカスがクレマトラスに俺たちをおびき寄せ、その間にドレイクが『聖地エデン』の襲撃を行う。
殺される事を計画に入れるとは思えないから、クロヴィカスは俺たちの足止めと勇者パーティーの人員を削るのが目的だったと想定できる。仲間が死ねば俺たちも直ぐには動けないからな。
それに加えてドレイクによる『法皇』の殺害が起きたらどうだ?タングマリンやテルマに向かう余裕はないだろう。
「クハハハハ!俺の右腕無くなった事で魔族の計画が崩れた訳か!」
「そういう事になるが、張本人が笑うのはどうなんだ?」
胸の前で腕を組んでいつもの様にトラさんが豪快に笑っている。その様子を複雑そうに見つめるノエル…。今は右腕があるとはいえ、トラさんが右腕を失ったのはノエルを庇ったからだ。ノエルも思うところはあるだろう。
あの時トラさんが庇うのが間に合わなければどうなっていた? あの威力の魔法だ。加えて近くにいた俺しか魔法の発動に気付けていなかった。魔法が直撃していた可能性が高い。
トラさんと同じように四肢の欠陥、最悪を想定するならノエルが亡くなっていた可能性も…。足止めとして十分すぎるな。
俺がクロヴィカスならノエルを殺した時点で勇者パーティーの相手をせずに撤退するだろう。目的が足止めならわざわざリスクを負う必要はないからな。
魔族にとって幾つもの想定外が重なって現状に至ったのだろう。そう考えれば不幸中の幸い…か。
───話を戻そう。魔物を率いて王都に襲撃を仕掛けたのは四天王の一人『冥闇』のエルドラド。
テルマを襲った『二代目豪鬼』バージェスJrと同様に正面から襲撃を行ったようだ。開戦の狼煙はバージェスJrの時と同じく闇属性の魔法『ダークエクスプロージョン』が飾ったらしい。威力が高く使い勝手がいい魔法だから、魔族が好んで使っている印象がある。
外壁を魔法によって派手に破壊し、魔物と共に王都へと攻撃を開始したエルドラドの元へ騎士たちが素早く駆け付けた。
残念ながら四天王の一人であるエルドラドとまともに戦える者は限られる。だが、騎士たちがその身を削ってまで作った時間で襲撃をいち早く察知したトラさんが現場に到着した。そこでトラさんとエルドラドが衝突した訳だ。
「エルドラドはどういう見た目をしていたんだ?」
「なんて説明したらいいのかしら? ね、トラさん」
「クハハハハ!変わった男だった!いや、女か?」
「性別学上では男じゃないかしら? 顎髭を生やしていたし、声は低かったわよ」
「だが、化粧をしていたぞ!似合ってはいなかったがな!クハハハハ」
トラさんを一度殺した相手だ。エルドラドがどういう見た目をしているか確認してみたが、イマイチよく分からないな。男なのか? それとも女なのか? どちらの証言が合っているのか判断に困るな。
あーでもないこーでもないとトラさんとサーシャが言葉を交え、最終的に『カイルも会遇すれば一目でコイツがエルドラドだと分かるから見た目は気にしなくていいぞ』という結論になった。いや、教えてくれてもいいんじゃないか?
ノエルやダルたちも気にしていたぞ。エクレアだけポケーっとしていたが。
武器として使っているのは大きな鎌らしいから、それと一緒に覚えておけば分かるだろうか?
「それとエルドラドは厄介な魔法を使うぞ」
「それはどういう魔法なのじゃ?」
「『ブラックアウト』って言う魔法みたいね。効果時間は短いけど、相手の視界を黒く染める魔法よ」
「視界を黒く染める?」
「視界を奪うとも言えるわね。魔法を喰らうと目に映る光景が黒一色になるのよ。聴覚や嗅覚は正常だからトラさんみたいに、使われても戦える者はいるみたいだけど、少なくともあたしは無理ね。魔法の標的を定められないから味方に被害が及ぶわ」
厄介な魔法だと思った。視界を奪われれば多くの者はまともに戦えない。特にサーシャが使う魔法は広範囲に及ぶものが多い。ノエルの『ジャッチメント』のように敵にだけ攻撃出来る魔法でなければ気軽に使う事は出来ないだろう。
視界を奪われて困るのは魔法使いに限った話ではないか。前線を担当する者も視界を奪われれば敵との距離感が掴めず、攻撃を当てる事は難しいだろう。当然、相手の攻撃を見て対処する事は出来ない。音と匂いで予測して動くしかない。
そんな状況下でも何事もなかったようにエルドラドをぶん殴っていたらしいトラさんは、化け物だと思う。トラさん曰く、視界を奪われても匂いと音で距離感は掴めるから問題ないそうだ。人間の俺には同じ芸当は出来そうにないな。
いや、そもそも俺は『ブラックアウト』を喰らうのか? 視界を奪うという事は相手に干渉している。当然悪影響を及ぼしている。俺の能力の無効化対象だな。意外とエルドラドとの相性はいいのかも知れないな。
「エルドラド以外にも魔族がいたって聞いてるけど、そこら辺はどうなんだい?」
「いたわねー。エルドラドを含めて8人の魔族が今回の襲撃に関わっていたの。その内4人は倒したけどね」
───トラさんとエルドラドが戦い始めて直ぐに、民衆に紛れていた魔族が動き出したそうだ。逃げ惑う民衆に紛れていた事で、魔物やエルドラドを警戒する騎士や民衆の意識の外から魔法を放つ事が出来た。魔族がやってる事は前世で言うゲリラに近い…いや、もっとタチが悪いか。
大きな被害になるかと思ったが、魔族の狙いは他にあるらしく人的被害は少なかった。魔族による被害の多くは建築物だそうだ。
「なるほどな。魔族の狙いはなんだと思う?」
「一番の目的は首長が持つ神器じゃないかしら?前線に首長が出てきたら魔族の標的が明らかに変わっていたわ」
「そうだな。エルドラドも俺と戦いながら首長の事を気にしていた」
予想はしていたがやはり狙いは神器か。テスラが言っていたように集めている可能性が高いな。それとドワーフの被害が少ないのは戦いの後を見据えているからだろう。人間とエルフとは分かりやすく敵対しているが、獣人やドワーフとは魔族は協力関係にあった。敵対勢力を滅ぼした後の事を考えれば、しこりを残すような真似はしたくないのだろう。
「コレは国の大事だから、表に出してはいないが魔武器や魔石が多く盗まれておる」
「それは本当かマクスウェルさん?」
「うむ。宝物庫にあった物を多く盗まれたと聞いておる。その中には魔晶石も含まれておる」
「もしかするとそっちが本命かもねー」
単純に考えれば戦力増強の為の物資確保か。魔族で武器を使う者は少ない印象だが、魔武器を持たれると厄介だな。魔武器に込められた魔法は一目見るだけでは判断出来ない。魔法に加えて魔武器まで警戒しないといけなくなるのか…、厄介だな。
「話が長くなってきたし一度、話を纏めようかしら?」
「そうだな、お願いしてもいいか」
「という事だから、出番よ師匠」
「馬鹿弟子めぇ!面倒だからとワシに押し付けるでない!」
相性が良いのか悪いのかサーシャとマクスウェルの二人が揃うと口喧嘩ばかりしてる印象だ。サーシャがマクスウェルをからかって、マクスウェルがキレるという構図が多いがな。
───肝心の詳細についてはあらかじめマクスウェルが書面に纏めてくれていたらしく各人の元に、書類が回されてきた。ソレを見たサーシャがキレていたな。
『準備していたならあたしに説明させる必要なかったでしょ!?』って。師匠であるマクスウェルの胸倉を掴んでキレ散らかすサーシャを後目に、マクスウェルが纏めたらしい書類に目を通す。
犠牲者はテルマよりも遥かに少ないな。騎士が何人か犠牲になったくらいだ。建物の損害は大きいが、腐ってもドワーフの国だ。復興まで時間はかからないだろう。
それにしても盗まれた物が多いな。その中でも重要性が高い物をわざわざリストアップしてくれているので、一先ずそこを目で追っていく。
「これは…」
魔道具や魔石といったマクスウェルから聞いた物から、名のある鍛冶師が造った鎧や剣、果てはドラゴンの鱗等の魔物の素材も盗まれているようだ。
手に持って持ち出せる量ではない。それこそ『収納』の魔法が使えなくては不可能と言えるだろう。となると魔族のハーフが犯人の可能性が高いか。リストアップされたものを最後まで目を通した後、書類を改めて上から下へしっかりと読み進めていく。
盗まれた物だけを書けばいいのに、何故かマクスウェルは盗まれなかった物まで書類に纏めていた。ここは流していいかと思ったがとある一文に視線が止まった。
───『魔王が部下へと送った手紙』
どうやらタングマリンの宝物庫に魔王が記した手紙が眠っているようだ。
ちなみにこんな席順
マ
ト サ
ダ メ
エ ノ
カ
どれが誰かは書かなくても分かるよね?




