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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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133.注視しなければ見えないもの

 賢者の塔までの道中を歩いていると、やはり人の通りが少なくなっているのを実感する。特にドワーフ以外の種族だな。魔族による襲撃が起こる前は王都という事もあり、まだ人間やエルフといった種族の姿も見えた。

 確かにちらほらと確認は出来るが明らかに減っている。損害はテルマより大きくはなかったようだが、次の魔族の襲撃を恐れて自国に帰った者が多いみたいだな。通行人が少ない方が俺個人としては楽ではあるが…ん?


 こちらに向かって駆け寄ってくる赤毛の少女の姿が遠目に見えた。人の間を縫うように軽やかに駆けている。見間違えでなければあれはダルだな。

 俺がダルの姿を認識したように、彼女も俺の事に気付いたらしく一直線にこちらに向かってきている。


「どうして急に消えたのじゃ!」

「いや、消えてはいないんだ」


 キキーッと急ブレーキを踏むように俺の前まで走ってきて止まったダルの開口一番の言葉がコレである。テルパドーラの幻覚がしっかり効いていた証拠だな。

 急に消えたというのは効果が消えたせいだろう。事情を知らないダルたちからすれば一緒に歩いていた俺が急に消えたように見えたのだろうか? そもそも一緒にはいない訳だが…。

 俺には幻覚が見えなかったからどう映っているのかが気になるところだ。会話とかは成立するのか? しなければ異変に気付くだろうから成立はしてるんだろうか。そうなるとかなり高度な幻覚だな。


「消えてないのか?」

「俺は消えていないな…。さて、なんて説明するか。一から話すと長くなるな」


 首を傾げて不思議そうにしているダルに簡潔に何が起きたか説明した。未来については話していない。俺が未来について知る事で魔王が警戒する恐れがある。だからダルに話したのはテルパドーラという名の幽霊の女性と会っていた事、ダルたちが見ていたのはその幽霊が見せた幻覚だと説明した。

 大事な部分を省いた説明だから信じてくれるか心配ではあったが、魂が物に宿ったりアンデットが存在する世界という事もあり、俺の話を信じてくれた。ダルが驚いていたのはテルパドーラが見せた幻覚についてだな。『全く気付かなかったぞ』と俺が消えた瞬間なんかを詳しく教えてくれた。


 目的地である賢者の塔に着いてサーシャたちと合流した直後に俺の体が真っ二つに折れ、床に消えるように溶けていったそうだ。その光景を目の当たりにした三人は軽いパニックになったようだが、その場に居合わせたマクスウェルが幻覚魔法の一種だと見抜いたらしい。魔法について詳しいサーシャも同意した事で仲間も冷静になる事が出来たみたいだな。

 加えてトラさんが俺の匂いを嗅ぎ取ったらしく、カイルは無事だと仲間たちに語ったらしい。結構な距離が離れていると思うが、本当に俺の匂いを嗅ぎ取ったのか?嗅覚が鋭いのは知っていたが…流石はトラさんとしか言いようがないか。

 ダルが俺の元に来たのは俺の安否の確認と道案内の為らしい。道は知っているから別に迷いはしないが…いや、ダルが来たという事は近道だな。大通りを進むより早く到着出来る道があるのかも知れない。


「エクレアも来たがっておったが、我の方が素早く動けるのでな!カイルの迎えに我が来たのじゃ!」

「なるほど」

「うむ!エクレアと特にノエルが心配しておった!早く皆の元に向かって安心させるのじゃ!」

「そうだな。道案内を頼めるか、ダル?」

「我に任せるのじゃ!」


 先行するダルを追いかけるようについていく。小走りまではいかないが、少し歩みが早いな。俺の事を気にしながらも人と人との間を縫うように進むダルを追いかけているが…一つ言わせてくれ。出来れば俺の体格を考慮して欲しい。

 性別の差もあるが俺はダルよりも体格が良い。それもあってダルのように人と人との間を縫うように進んでいくと、どうしてもぶつかったりしてしまう。その度に謝っている訳だから、出来れば…な?

 『こっちなのじゃ!』と笑顔を浮かべるダルを見るとそんな心の声も口には出せず、苦笑いを浮かべてその後を追いかけた。


 やはり近道を知っていたようでダルの先導について行くと俺が思っていたよりも早く『賢者の塔』に着く事が出来た。入口にはエクレアとノエルの姿がある。ダルと共に二人の元まで歩み寄るとノエルに抱き着かれた。


「良かった…何かあったんじゃないかって心配だったんだよ?」

「見ての通り何もなかったさ」

「それならいいよ」

「あー!ずるいのじゃ!

「…………」コクコク

「我の事も抱きしめるのじゃ!」


 ダルにも抱き着かれた。気付いたらエクレアにも。ノエルは俺に何かあったんじゃないかと心配してくれたようだ。エクレアとダルは目の前で幻覚とはいえ俺が急に消えた事で喪失感を味わったとか、そんな感じか? 幻覚と分かった後も心配していたとダルが言っていた。

 そんな訳で無理に引き離す気にもなれず、三人が満足するまで待っていたらそれなりに時間が経過し、なかなか来ない俺たちの様子を見に来たマクスウェルに怒られて移動する形となった。怒られながらも三人とも満足そうに笑みを浮かべていたと、残しておこう。


「あら、元気そうねーカイル」

「サーシャもな」


 マクスウェルに案内されて部屋に入ると話し合いの場として使えるように準備された椅子と机が目に入った。部屋で待機していたらしいサーシャ、トラさん、メリアナの三人はそれぞれ席について自由にしていたようだな。

 メリアナは道中で買ったお菓子を広げて『美味しいですわー』とご満悦な様子。トラさんとサーシャの二人は酒を飲んでいたみたいだな。二人の机の上には酒瓶が幾つか置かれている。

 扉を開けて入ってきた俺を見て、フリフリと手を振りながら酒器のお酒を美味しそうに飲むサーシャを見ると、変わらないなと安心する自分がいた。仲間が無事だという事実が心を軽くしているのだろう。


「立ちっぱなしもなんだ、好きな席に座りなされ。話しは座ってからもできるじゃろう?」


 入口を塞ぐように立っていたのが原因だろうな、椅子に座ったらどうかとマクスウェルに促された。いや、俺は座らない!等と頑固になるつもりもないので入口近くの椅子に座ると俺の右隣にノエルが、左隣は…ダルとエクレアが揉めているな。どっちが座るか言い争う形に…なってはいないか。エクレアが喋れないからな。

 ダルが『我が座るのじゃ!』と声を上げれば違うとばかりにエクレアが首を横に振り、私が座ると伝えるようにジェスチャーしている。それにダルが反対して…っていうのを繰り返しているとお菓子を片手に持ったメリアナが俺の左隣に座った。


「カイル様が!わたくしの傍に居たいようでしたので座って差し上げますわー!!!」

「!!!!!」

「メリアナ!ずるいのじゃ!」


 とてもではないがこれから世界の行く末について話し合う場とは思えない空気だな。席一つでそこまで熱くならなくてもいいんじゃないか?


「うるさいからそこら辺にしたらどうだい? 時間は有限…凡人の君たちと違って天才である僕の時間は貴重なんだ。くだらない言い争いをしてないで、早く座るといいよ」


 エクレアとダルの標的がメリアナからノエルに変わるのが分かった。これは長くなるなと分かっていながら場を治めるのを諦めた俺を許して欲しい。

 三人の争いの原因は俺ではあるんだが、下手に突っ込むと俺まで火傷しそうな気がしてな。そうだ、マクスウェルに助けを求めるのはどうだ!


 妙案を思いつき何とかして貰おうとマクスウェルの声がする方に視線をやると、


「ええぃ!何度言えば分かる!この部屋で酒を飲むでない!」

「うるさいジジイね。別に飲んでも問題が起きる訳じゃないでしょ」

「マクスウェルもどうだ?サーシャが見つけた酒はなかなか俺好みでな、美味いぞ」

「いいお酒よー、お師匠様もどーお?」

「馬鹿弟子め!わしが下戸だと知っておるじゃろ!」


 マクスウェルが机にあるお酒を『収納』で仕舞った事でこの三人にも一悶着が起きた。サーシャはともかくトラさんまでマクスウェルに食ってかかるのは珍しいなと思っていたが、よくよく観察していると程よく酔っているのが分かる。

 サーシャに付き合って飲んでいたならペースは早いからな。お酒に強いとはいえトラさんでも酔ったのか? 机の上に空き瓶が転がっている。お酒のラベルは…『獣人殺し』か。毒ではなくそういう比喩表現だとは思うが、獣人に効く成分なんてあったか? ネコ科ならマタタビ的な?そんな事はどうでもいいか。


「カイル様も大変ですわねー」


 右を見れば俺の右隣に座ったノエルに抗議するダルとエクレアの姿。正面を見ればお酒の事でマクスウェルと言い争いをするサーシャたち。左隣にはお菓子を頬張りながら他人事のように感想を述べるメリアナ。


「はぁ…」


 ため息が出てしまったが仕方ない事だと許して欲しい。今、この場にいる仲間たちが世界の命運を担っていると誰が想像出来るだろうか? マクスウェルが部屋を用意してくれた。勇者パーティーの今後の方針や、テルマとタングマリンで起きた魔族の襲撃について話し合う気で来たというのに…。


「あら、ため息を吐いてどうしたのですかカイル様!お元気がないのでしたらわたくしが食べてるコレ!差し上げても良くってよ!」

「いや、結構だ」


 食べかけの物を俺を渡そうとするな。せめて手をつけてない物にしてくれ。『こんなに美味しいのに食べないなんて変わってますわー』なんてほざいているが、渡し方の問題だと気付いてくれないか? またため息が零れた。


 やる気を削がれたというのもあって騒いでる仲間の仲立ちをしようという気にならない。時間が解決してくれる事を祈りつつ、この時間に鞄の中を整理しようと中身を取り出したり整頓したりしていると一つの手紙が目に入った。


 タケシさんが転生者へと宛てて書いた手紙だ。中身に関しては今更見る必要すらないだろう。そのまま鞄に仕舞おうとした時、テルパドーラの言葉が脳裏に過ぎり何気なしにタケシさんの手紙を広げてみた。

 俺の記憶の中におる文章と何も変わらない。テルマにタケシさんが集めた情報があるよーっと言うものだ。隅まで読んでも可笑しなところはない。

 もう一つの紙はもっとシンプルだ。一文しか書かれていないからな。紙の中央に『ミラベルを信じるな』とだけ書かれている。やはりテルパドーラが言う『かみ』はこれではないか。


 それでもタケシさんの手紙のお陰で色々と知る事が出来た。ありがとう、タケシさんと言葉には出さず心中でお礼を述べてから手紙を畳む。その際に本当に注視しないと分からないくらい小さく、そして汚い字で紙の端に文字が書かれている事に気付いた。目を凝らしてそれが日本語である事が分かった。中央に書かれた文字よりも更に短い文字数で書かれた一文。






 『炙り出し』






 ───タケシ!!!!

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