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勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。  作者: かませ犬
第三章 相死相哀ノ殺シ愛

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132.『かみ』って何?

 ───『かみの言葉を信じて』か。

 様々なものが連想される。在り来りなモノで言うなら紙だな。紙に書かれた言葉を信じるか信じないか、俺が迷う状況がこの先訪れるのだろうか?

 一つ思い浮かんだのは手紙だ。既に貰った手紙もあるし、やり取りしている人物もいる。タケシさんの手紙は…そもそも内容を疑ってすらいない。それは未来が見えるテルパドーラなら分かっている筈だ。となるとタケシさんの手紙ではない。


 俺が手紙を読んで疑う可能性があるのは先生だな。デュランダルの口から彼の事は聞かされている。『校長』のコバヤシ。俺と同じ転生者であり、ティエラと共に奴隷解放から魔族の為に戦い続けた人物。既に亡くなった筈の人物でもある。何故、コバヤシが生きているかについては答えが浮かばないので、今は置いておこう。


 直接コバヤシと言葉を交わしたのは武術大会だな。あの場でミラベルが転生者にとって敵である事や加護について俺に教えてくれた。ミラベルにバレたくないから会談の場を用意しようという話になったな。

 俺がディアボロをこちら側に引き込もうとしているのは魔王の手掛かりというのもあるが、彼女の能力を使ってコバヤシの会談する為だ。夢の世界ならミラベルにはバレないだろうが、どういった内容の話し合いになるかが想像出来ない。

 もしかしたらコバヤシはミラベルに対抗する手段を既に知っているのかも知れない。それを会談の席で共有しようとしている?


「お兄さん?」

「いや、何でもない。気にしないでくれ。それと今の言葉は聞こえたよ」

「良かった!ちゃんと聞こえたんだね!なるほど、こんな感じならいけるんだね。未来の内容を遠回しかつ、抽象的な表現が考えてみるから少し待ってて」

「分かった」


 俺がため息を吐いた事でテルパドーラが心配そうに見上げてきた。ちゃんと聞こえていたから安心してくれ。その内容について頭を抱えているだけだ。


 話を戻すか。コバヤシは俺の為…いや、正確に言うなら転生者である俺と共にミラベルに対抗する為に動いている。それだけミラベルが強大な存在なのだろう。神に対抗する事が本当に可能なのかすら俺には分からない。

 少なくともミラベルが与えた加護を解除する手段はあるようだが…。それはまぁいいか。コバヤシは対ミラベルにおいては協力関係にあると思っていい。だが、魔族であるコバヤシをどこまで信じていいのか分からないのが本音だ。


 同じ転生者であると言ってもコバヤシは常に魔族の為に動いてきた。今も魔族の為に動いているんじゃないか? 敵対関係にある魔族というだけで疑念が尽きない。もしかしてコレか?

 俺がコバヤシを信じきれていないから、彼から届いた手紙を疑ってしまった。対ミラベルにおいてはそれが尾を引いてしまったとかか?有り得るな。だから『かみの言葉を信じて』と伝えた。

 

「テルパドーラ、一ついいか?」

「何かな?」

「さっきの言葉は、その状況になれば分かる事か?」

「あの言葉はこれから先で起こる事だよ。その状況に直面すればお兄さんならきっと直ぐに察すると思う!」


 これで一つ前進だな。テルパドーラが言う状況がどういうモノかは分からないが、少なくともコバヤシの手紙には注意を払おう。その内容が、疑わしいモノであるなら…その時はテルパドーラの予言を思い出そう。その上で考えればいい。


 『かみ』か。安直ではあるが神という可能性もあるな。その場合はミラベルではないのは確かだ。今更、彼女を信じる事は出来そうにない。あえて深読みするなら実はミラベルはなんて…いや、これまでの転生者の末路を考えたら流石にないな。

 となるともう一人の神───ミカか。正直ミカについては分からない事も多いからな。それでも敵ではないと俺は思っている。同じ神であるミラベルの事をカスベルと呼ぶ程嫌っている事から共犯ではないだろう。あの時の事はやけに記憶に残っているぞ。キレ散らかしてた印象が強いからだろうか。


 神器をくれたり世界の為に動いている事を考えればミカの事は信じていい。となると、神はないか?俺は現状だとミカの事を疑ってはいないからな。

 かみ…かみ…髪?いや、流石にないな。髪の言葉を信じてってどういう状況だ。想像すら出来ん。髪でも神でもないとするなら、やはり紙だ。手紙だけじゃない、紙に関しては注意するようにしよう。それはそれで大変だがな。


「お兄さん!」

「未来についてだな」

「うん。さっきと同じように抽象的にいくよ!」

「頼む」

「変態には気を付けて。彼はあくまでも愛する者の味方。お兄さんの味方じゃないよ」

「聞こえたよ」


 テルパドーラが安堵するように大きく息を吐いている。今回のは分かりやすかったな。俺が知っている変態は一人しかいない。テスラだ。

 アイツは初対面の時から言っていたな。ティエラの味方だと。俺に協力してくれてはいるが、俺の味方ではない。テルパドーラがわざわざ言うくらいだ、ティエラの為に俺を裏切るんだろうな。いや、裏切るという表現すら可笑しいか。

 アイツは俺の味方ではないからな。テスラには注意しておこう。


「それじゃあ次ね!」

「あぁ、頼む」


 それから幾つか抽象的な表現で試したが上手く伝わったモノは一つだけ。


 『痛みを共有する者は味方だよ。道化を演じているだけ。彼に協力してあげて』


 何の事だろうか? これもその時が来ればお兄さんなら分かるよって言っていた。ヒントって言いながらお腹をポンポン叩いている。

 お腹か…胃?うん、…流石に誰の事か分かったな。エクレアから手渡された手紙の内容を思い出したのも大きいな。

 手紙には国の上層部は魔族の手に落ちたと書いてあった。道化を演じているのは魔族に気付かれない為…。俺の同志は周りが敵だらけの中で孤軍奮闘しているのか! 協力してやりたいが、今は優先するべき事がある。今は耐えてくれ!王様(胃痛フレンド)


「幾つか試したけど、ダメだったねー」

「いや、十分すぎる程に助けになっているさ。お陰で注意を向ける事が出来る。一つはあやふやだが、残り二つはしっかりと伝わった」

「それはあちしにも分かったよ!お兄さんの未来が確かに変化したから!」

「滅亡は変わっていないのか?」

「うん。でもね!『かみの言葉を信じて』の意味をお兄さんがしっかりと理解した時に変わっていると信じてるの!」

「それだけ重要な事なんだな」

「そうだよ。お兄さんにとって大切なヒントに繋がってるから。気付く事が出来たらお兄さんなら答えに辿り着ける」


 満足そうに笑みを浮かべたテルパドーラはどこからともなく取り出した酒瓶をまた自分の前に置いた。また占いでもするのかと思ったら普通に酒瓶の栓を抜いて飲み始めたから拍子抜けしてしまった。


「また占うのかと思ったぞ」

「プハーっ!仕事終わりに一杯は美味しいからね!飲みたくなっただけだよ!」

「そうか」

「うん。それと酒瓶に未来は映ってないよ」

「どういう事だ?」

「アレはただのポーズ。お兄さんに信じさせる為にそれっぽくみせてるだけで、あちしはお兄さんの魂を見るだけで未来が視えるの。わざわざ占う必要なんてないんだ」


 えへへっと笑った後、テルパドーラが豪快にお酒を飲んでいる。少しばかり呆れてしまったが許して欲しい。だが、よく考えれば気付ける箇所は幾つかあったな。見落としていた自分が恥ずかしくなってくる。


「ふぅ!さてとこれで今のあちしに出来る事は終わったかな…」


 飲み干した酒瓶を抱き抱えながら寂しそうに呟くテルパドーラが何故か、儚く見えた。


「消えるのか?」

「いや、疲れたからもう寝ようかなって」


 未練がなくなったから成仏してしまうのかと、勝手に悲しくなった自分がバカみたいだ。


「お兄さんには伝えれる事は伝えたからね。あちしに出来る事があるなら力になるけど、あちしはお兄さんと違って特別な存在ではないんだ」


 眩しいものを見るような目で俺を見ている。俺が特別? 転生者である事や、勇者パーティーの一人である事を考えれば普通ではないが、特別な存在だと思った事はないな。仮に自分で思っていたら痛い奴でしかないが。


「未来が視える。それに幻覚だって見せる事が出来るだろ?」

「未来は視えるだけだよ。死人のあちしには未来を変える力はないの。幻覚だって短時間しか効かないし、ちょっと使うだけで魔力が空っぽになっちゃうの。残念だけどお兄さんの力にはなれないかな」

「話し相手になってくれるだけでもいいぞ」

「嬉しい口説き文句だけどね、それも断るよ。お兄さんに悪いからねー」


 よいしょっと、軽い感じで地面に横たわり酒瓶を枕に寝ようとしているので、行儀が悪いぞと止めようとしたが、何故か笑われた。


「あちしは幽霊だからね、どこで寝ても誰に文句は言われないんだよ!」

「見えないからか…確かに誰にも文句を言われないが、それでも他に寝る場所があるんじゃないか?」

「ないよ」

「ない?」

「うん。あちしこの場所から動けないからね」


 ───地縛霊という言葉が不意に脳裏に過ぎった。動けないのか彼女はここから? 誰にも見えず、誰にも声は届かず、好きなように動く事も出来ない。あまりに残酷な仕打ちじゃないか。

 なんで、明るく振る舞える。ヘラヘラと笑っているが、寂しいんじゃないのか?無理しているんじゃないのか?

 顔に出ていたんだろうか。俺を見て『大丈夫だよ』と言った。


「あちしは一人に慣れているからねー。一人でも未来を見たり色々やれる事はあるんだ。だからお兄さんは気にしないでね」

「…………」

「もし、ね。お兄さんがどうしても気になるって言うんだったらさ。たまにでいいから顔を出してよ。出来ればお酒も欲しいなー。幽霊が出るって噂が流れて此処にお酒を祀ってくれる人もいたけど、あちしがついつい飲んじゃうからもう数本しかないんだよ!」

「分かった…お酒を持ってまた来るよ。だから、俺が来るまでに飲み干すなよ」

「うん!」


 元気のいい返事をしながらまた一本酒瓶をどこからともなく取り出した。後数本しかないって言ってなかったか?そのペースで飲むと飲み干してしまうだろ。


「冗談だよ冗談!」


 明らかに飲む勢いだった。酒瓶の栓に手をやっていたじゃないか。笑いながら酒瓶をしまっていたが、あの調子だと直ぐに飲むだろうな。

 早めに持って行ってあげた方がいいか。未来について教えてくれたお礼もしたいしな。サーシャにどこのお酒が美味しいか聞いてから買いに行くか。


 ん?


「お前…消えるのか?」


 明らかにテルパドーラが薄くなっている。今度こそ本当に消えるのか?


「いや、寝るだけだよ。ただ、このままだとお兄さんあちしの事気にしてずっと居座りそうだから消えようかなって」

「確かに気になってこの場にいるが…」

「お兄さんにはやる事があるでしょ?死人のあちしは放っておいて、やる事やる!」

「分かった」


 しっしっと俺を追い払うような仕草をしている。そこまでするか? 俺が行きやすいようにしてくれているんだろうな。彼女の気遣いを汲み取るべきか。

 『それじゃあ、行くよ』と一声かけてから、歩き出した俺の背中に声が届いた。


「未来を変えてねお兄さん」

「あぁ、必ず変えてみせる」


 振り返って返事をした時、そこにいた筈のテルパドーラの姿はなかった。彼女が言っていたように寝ただけなのか。あるいは…。


「未来を変えよう」


 それが彼女の望みなのだから。その為に俺がやるべき事をしよう。気持ちとは裏腹に重い足取りで、一人『賢者の塔』へと向かった。










 ───余談だが、後日お酒を持って同じ場所に向かうと何事もなかったようにテルパドーラはいた。普通にいたとだけ答えておこう。

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